虫とり(6)
なんだか源さんが人間ではない別の生き物のようで、彼がとてつもなく恐ろしく思えた。翔も同じ気持ちのようで、小刻みに震えていた。源さんになんと言い訳をすればいいだろうか。もしかして源さんは宇宙人で、我々は見てはいけないものを見てしまったのではないだろうか。そんな思いが頭をよぎった。
元の場所に戻ってみると、源さんの姿はなかった。
「きっと俺らに変な色したクソを見られて恥ずかしかったんだろ」
翔が強がるように言った。
それからの私たちは逃げるように坂道を下って行った。さっき見た源さんの排泄物は光線の加減で変な色に見えていただけだ。きっと源さんはお腹が痛いうえに、排泄物まで見られたので、怒って先に山を下ったのだ。私はそう思い込むことにした。
突然、翔の「ぎゃっ」という声で、私は腰を抜かさんばかりに驚いて立ち止まった。
翔が立ち止まっていて、ガタガタと震えながら、足元を指さした。
翔はおよそ50センチメートルもあろうかという、緑色のミミズを踏んでいた。踏まれたミミズは苦しむようにくねくねと体を動かしていた。この緑のミミズが先ほど見た源さんの排泄物と重なって、背筋が凍るような気がした。
「なにやってんだ。行くぞ」
私の怒鳴り声で、はっと我に返った翔は、いままでに見たことのないほどの速さで山を下って行った。私も全速力でその後を追った。
やがて私と翔はいつもの道に戻ってきた。家に帰るまで私たちは一言も口を利かなかった。もちろん源さんの家も逃げるように通過した。
ひょっとして、源さんは道に迷ったのではないだろうか。どこかではぐれてしまったのに、私たちは源さんを探さずに帰ってしまった。今頃源さんは迷った挙句に野犬に噛まれて……、などと、私の想像は悪い方向にばかり進んだ。
夜遅くなり、源さんの家から、「源治が帰ってないんですけど」などと電話がかかってきたらどうしよう。私は源さんを見捨てて帰ってしまったことになる。
私はひどい罪悪感に苛まれた。もし源さんが野犬に噛まれて死んだとしたら。もし源さんが道に迷って山でのたれ死んでいたら。
すべて私たちの責任である。
その夜は眠れずに、ウトウトしたら朝になっていた。
(続く)