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虫とり(3)

 源さんの家の裏の広くて曲がりくねった坂道を山のほうに上っていくのがいつものルートだった。最初のうちはゆるい傾斜で脇には住宅が立ち並んでいるが、やがて道は舗装されていない砂利道になり、民家はなくなる。そこから約10分ほど歩いたところに例の「立ち入り禁止」の道がある。
 そのまままっすぐ進んで数十メートルほど歩けば、いつものクワガタムシを捕まえる場所に行く。このあたりにはクヌギやコナラの木が生い茂っていて、いかにもクワガタムシがいそうな場所だった。
 「立ち入り禁止」の脇道の前には看板があるが、看板をすり抜けると容易に中には入れる。緩い坂道になっていて、覆いかぶさるように道の脇に木々が生い茂っていた。坂道を上った先がどうなっているかは、こちらからは見えない。
「ほら、見ろよ。あそこに茂ってる葉っぱ。あれは間違いなくクヌギの木だぜ。誰も行ったことがない場所だから、ウヨウヨいるに決まってるさ」
 源さんが興奮した調子で叫んだ。
「よし。行こうぜ」
 翔が先頭を切って歩き始めた。いつもはわんぱく者の翔だが、こういう時には頼りになる。上気した顔で後に続く源さんのあとを、私は恐る恐るついて行った。
 道は細く、日が差していないせいか土は湿っていた。土独特の匂いが鼻腔をくすぐる。進むたびにだんだんと暗くなり、私の不安な気持ちは増していった。先頭を歩く翔はずんずんと先に進む。源さんもあたりをきょろきょろと見渡しながら、物珍しそうに歩いて行く。
 遠くで犬の鳴き声がした。
「おい、あれ、野犬だぜ」
 振り向いて、翔が言った。
「近くにいるのかな?」
「さあな。でも噛まれたら、狂犬病で間違いなく死ぬな」
 当時はまだ山に野犬が多く、親たちは野犬に噛まれたら狂犬病になるから気をつけなさい、とよく言っていた。さすがに野犬に噛まれることを考えたら、ぞっとした。
「野犬がいるから立ち入り禁止なのかもしれないな」
 それとなく引き返すことを勧めたつもりだったが、二人はいっさい構わずに、先へ先へと進んでいった。
 やがて私たちはクヌギの木が立ち並んでいる場所に辿り着いた。50メートルほど急傾斜の小道を先に上ると、太陽光の差し込む場所に出るらしく、そこがあたりを見渡せる場所になっているようだった。

(続く)

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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