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虫とり(11)

 翌朝、私は昨日逃げ出した翔を捕まえて、絶対に白状させてやろうと意気込んでいた。
 いつもは遅刻すれすれの学校に、30分も早く行って、翔を待ち構えていた。来たら逃げ出さないように、押さえつけて、絶対にやつが知っていることを吐き出させよう。そう思っていた。
 ところがいつまで経っても翔が現れない。やがて朝礼が始まり、先生が教室に入ってきた。
 翔の野郎、逃げ出しやがったな。でもそんなことをしても学校もクラスも同じだ。このまま欠席し続けるわけにはいかない。学校に来たときが翔の運のつきだ。しつこく付きまとって、真実を聞き出してやる。私は強く決心した。
 休み時間になり、私は当時一番親しかった村主章(つくりあきら)にぼやくように言った。
「翔の野郎。休みやがって」
 村主はきょとんとした顔をした。
「翔って、誰?」
「爪下翔だよ。変わった名字のやつ。俺、あいつと小中とずっと同じ学校だったんだ」
「だから誰だよ。爪下って?」
「同じクラスにいるだろ。爪下翔」
 村主はあたりを見回すと、いぶかしげに私の顔を覗き込んだ。
「そんなやついないぜ。それに今日はクラスの人間は誰も休んでないぜ。ほら、机は全部埋まってるだろ」
 そう言われて教室を見渡したのだが、たしかに村主の言うとおり、すべての机は埋まっていた。
「い、いや、だったら、爪下翔は……?」
「だからあ、爪下なんてヘンテコな名前のやつなんていないって言ってんだろ。おまえどうにかしちまったのか?」
 村主は心配そうに私を見た。
 私は半狂乱になったように、教壇まで走っていって、教壇の上にあるクラス名簿を穴が開くほど見つめた。
 たしかに爪下翔なんて名前はどこにもない。
 私は頭がおかしくなりそうだった。源さんだけではなく、翔まで消えてしまった。それも失踪したというのではない。存在自体がまったく消滅してしまったのである。
「おまえ、ちょっと疲れてるかもしれないぜ。今日は休んだらどうだ?」
 村主は私を憐れむような目で見ながら、そう言った。

(続く)

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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