虫とり(5)
人の表情など読んでいる余裕もないほど切羽詰まっていたのか、源さんは意を決したようにうなずくと、草むらのほうに尻を押さえてぺっぴり腰て歩いて行った。
源さんが草むらで腰をしゃがめた時に、翔がニタニタと笑いながら言った。
「おい、クソしてるところ、見に行こうぜ」
私もいたずら心がうずいたと言えば嘘ではないが、さすがにそれはひどいと思ったので、「やめとけよ」と言った。
「なんだよ。ノリが悪いな」
「さすがに源さんが可哀想だろ」
翔も私に止められてまで見に行くつもりはないようだった。つまらなそうに舌打ちをして、足元の土を蹴っていた。
やがて源さんが帰ってきた。
「やっぱ下痢か?」
「うん。もう大丈夫。帰ろう」
翔がいたずらっぽい顔で「じゃあ、ブツを確認しよう」と言い出した。
まだお腹が痛いのか、源さんは小さな声で「やめてくれよ」としか言わなかった。私も翔を止めようとしたのだったが、翔は草むらのほうに走り出して行った。
私も翔のあとを追った。
「やめろって。趣味が悪いなあ」
草むらのところで翔が立ち止まった。
「人のクソを見るなんて悪趣味だ。早く行こうぜ」
私が翔の肩に手をかけたときに、翔が草むらの奥を唖然とした表情のまま見下ろしていた。
「おいっ」
私が肩を引っ張っても、翔は一点を見つめたままだった。そして人差し指で草むらの奥を指さした。
「あれを見てみろよ」
翔の言う先を見た私は驚いた。そこにはおよそ人の排泄物とは思えない、緑色で光沢のある液体があったのだ。液体はスライムのような粘性のある液体で、緑色につやつやと光っていた。それは生まれてから私が見たこともないような奇妙なものだった。さすがに薄気味が悪くなり、「帰ろうぜ」と言った。
翔もはっと気づいたように、「そうだな」と言った。
(続く)
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(怖い話です)