TM NETWORK meet CITY HUNTER in Shinjuku ~時代を超え、次元を超えて~
TM NETWORK Tour 2023『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days 〜DEVOTION〜』report by てっち衣装部
Chapter.1
はじまりは、記憶の中のチャイムから
Seciton.1 「新宿」というテーマ
2023年の秋は一体どこへ行ってしまったのだろうか。いつの間にか遅い紅葉が終わり、北風が吹く冬が訪れていた。まるで、遠い時空の彼方に瞬く間に消えていったような秋だった。
暑さの残る9月7日。府中の森芸術劇場からスタートしたTM NETWORKの今回のツアー。「40th FANKS intelligence Days」のタイトルはそのままに、先行シングル・そして最新アルバムのタイトルでもある「DEVOTION」とサブタイトルが付けられている。
Day10の府中からDay25となる11月30日の東京国際フォーラムまで全12都市16公演という、昨年の東名阪ツアーと比較するとかなり本数の多い、長い長いツアーとなった。
開演前の会場。ステージ上には3つの大きなLEDスクリーンがそびえ、スクリーンが映し出すビルの屋上には広告が流れる。「Get Wild」発売当時の懐かしいCMや最新の小室さんのフォト・ブックの告知、そしてコラボレーションをした(といっても過言ではない)「劇場版シティーハンター天使の涙(エンジェルダスト)」のCMも。そして客入れのBGMはビジョン広告の音ばかりではなく、街の喧騒がとてもリアルに聴こえてくる。時にけたたましいサイレンの音も。たくさんの人が行き交う、大都市の人いきれまでもが取り込まれていた。
そう、ここは、「新宿」。
舞台上に新宿の街が再現されている。
TMのコンサートで街がテーマになったのは初めてのこと。空想の世界の街はあったかもしれない。しかし、今回の「2023年の新宿」のように、ここまでリアルな街をフィーチャーしたことはなかった。
客電が落ち、開演。
ビルの群れに夕焼けが反射する。昼から夜へ。宵闇がステージの上の「新宿」の街を包んでいく。
Section.2 小室哲哉の「記憶の中」にある新宿
そこに流れるのは前衛的でどこか懐かしさも感じるチャイムの響き。驚くべきことに、この曲は小室さんの作品ではない。
このチャイムはクラシック・現代音楽家である黛敏郎作曲の「新宿小田急百貨店の時報音楽」。実際に1980年代まで新宿駅西口広場で時報を知らせる音楽として流れていた。
小室さんの自著やインタビューをまとめた本にも、幼少期の彼が特に印象に残った音のひとつとして、このチャイムのことが記されている。
小室哲哉と坂本龍一の音楽論について書かれた『楕円とガイコツ』でも、上述の2冊の書籍で小室さんがこのチャイムについて語っていたことが記述されている。同著では、同じエピソードでも小室さんの発言がそれぞれ微妙に違っていたことに着目し、分析を加えている。
「sus4」(サスフォー)とは浮遊するような、遠くへ行ってしまいそうな着地しないコード、と言われている。「sus」は「suspended(サスペンデッド:吊るす)」の略で、「sus4」は3度の音を吊るして4度にするという意味がある。コードの長短を決める3度の音が含まれないため、メジャーでもマイナーでもない曖昧さから、不思議な響きが生まれるコードとされる。
小室さんの記憶の中で、コードとメロディーの間に存在する新宿西口のチャイム。それは1970年開催の大阪万博・東芝館で流れていた冨田勲のシンセサイザーの音色とともに、小室哲哉の音楽の原点のひとつといえる。
どこかへ漂うような「小室哲哉の実際の記憶の中にある新宿の音」からはじまるライブ。このとき観客は彼の音楽家としての歴史の一部に触れていた。この仕掛けは、時代も次元も何もかもすべてリープした超越感を醸し出す。まさにタイムマシンのように。
2023年の新宿に紛れ込んだ3人の潜伏者たちの映画のような映像。それぞれのスタイルで街に足を踏み入れ、何かを調査をしている。街の衝撃や刺激が込められたようなOP曲「Avant」。気持ちが急かされ、じらされる展開に胸が躍る。客席を上下に照らす赤いサーチライトの演出。潜伏者のリーダーの思惑通りなのか、激しい高揚感の中、閃光とともにTM NETWORKの3人が登場する。ここから「TM NETWORK」と「シティーハンター」という2つのストーリーが急速に結びつき、ひとつのショーへと昇華していく。
不思議な「エモさ」は加速していき、彼の記憶の音から、最新の音の世界へと引き込まれていく。
Chapter.2に続く
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