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三体問題



0. はじめに

これは「imtakalab Advent Calendar 2024」の2日目の記事です。

https://adventar.org/calendars/10354

著者は学部3年生で、認知科学について研究・学習しています。

最近まで上映されていた映画『きみの色』に心を奪われ、三回ほど観てグッズも買い漁りました。

その劇中歌「水金地火木土天アーメン」の歌詞に聞いたことのない熟語がありました。

とっても大変しあわせなニュースです
感動感激はちゃめちゃな運命
迷ってさまよって導かれました
こいつは絶対 三体問題

映画『きみの色』劇中歌「水金地火木土天アーメン」より抜粋

よって三体問題を取り上げ、それについて知ったことを書きました。

引用>この記事を書くきっかけとなった投稿

1. 三体問題とは

  • 同程度の質量を持つ第三の物体をある系に導入すると、その相互作用が予測不可能でカオス的な挙動を引き起こし、長期的に安定した軌道を数学的に決定することが困難になる

物理学において重要な課題のことを指します。
三つになると予測するのが難しくなるということです。

例としてある研究のシミュレーションの分析では、初期条件として地球の位置を150メートルだけ変更すると、水星の軌道離心率(小さいと円に近く、大きいと細長い楕円に近くなる)が徐々に増加し、約8.62億年後に金星と衝突する進化経路が確認されました。
また、同時に火星が約8.22億年後に太陽系外へ放出されることも明らかとなりました。

さらに、初期条件を15メートルに縮小して変更した場合でも、水星は約1.261億年後に太陽と衝突する別の進化経路が確認されました。このような結果は、太陽系のカオス的特性による微小な初期条件の違いが長期的に大きな影響を与えることを示しているといえます。

三体問題があるのなら、もちろん先に二体問題がありました。
以下、三体問題の歴史について簡単に解説します。

惑星 KOI-5Ab が主星の前を通過する様子と、その背景に他の 2 つの恒星の伴星を示す想像図。
イラスト: カリフォルニア工科大学/R. Hurt (赤外線処理分析センター、IPAC)

2. 歴史

2-1. 万有引力の法則と二体問題

アイザック・ニュートンは、万有引力の法則を用いて二体問題(地球と月、太陽と地球など)を完璧に解明しました。ニュートンの法則によれば、2つの質量は重心を中心に楕円軌道を描いて運動します。この理論は、太陽系内の基本的な天体の動きを説明するのには十分でした。

しかし、ニュートン自身が懸念したのは、他の天体(木星など)の引力が地球や他の惑星に微妙な影響を与えることで、太陽系全体が不安定になる可能性があるということでした。この問題が三体問題の原型として浮かび上がります。

2-2. ラプラスと摂動論の発展

18世紀後半、数学者ピエール=シモン・ラプラスはニュートンの懸念に応える形で三体問題の研究をさらに深めました。彼は 摂動論(perturbation theory) という新しい数学の分野を開発し、複数の天体の相互作用による小さな引力の変化が長期的には相殺されることを示しました。ラプラスの摂動論は、天体力学における安定性の証明に役立ちました。

摂動論とは?

摂動論とは、「もとの簡単な問題」を出発点にして、「その問題に少しだけ変更を加えた場合」を解く手法です。複雑な世界を理解するための便利なツールであり、波紋のように小さな変化が広がる仕組みを探るものと言えます。

例えば:

  • 天文学
    惑星が太陽を回る軌道は、ニュートン力学によれば楕円になります(簡単な状態)。
    しかし、他の惑星の引力の影響(摂動)が加わると、その軌道は少しずつ変わります。
    摂動論を使うと、その「少しの変化」を正確に計算できます。

  • 量子力学
    原子の中の電子のエネルギー状態は、ある方程式(シュレディンガー方程式)で解ける「簡単な問題」で説明されます。
    しかし、外部の電場や磁場などが加わると、電子のエネルギー状態は変わります。
    その変化を摂動論で計算することで、物質の性質を詳しく理解できます。

ラプラスの逸話

有名な逸話として、ラプラスの著作『天体力学』を読んだナポレオンが「神についての記述がない」と指摘した際、ラプラスが「私はその仮説を必要としなかった」と答えたエピソードがあります。この発言は、科学が自然現象を説明する上で宗教的な仮定に依存しないことを示すものでした。
https://www.kanazawa-it.ac.jp/dawn/110/179802.html

2-3. 三体問題の数学的挑戦

19世紀に入ると、摂動論がさらに洗練され、数学者たちは三体問題の性質をより深く探求しました。しかし、複雑な相互作用によってもたらされるカオス性のため、三体問題は一般的には解析的に解くことは不可能であることを、フランスの偉大な数学者ポアンカレが明らかにしました。

2-4. カオス理論とシミュレーション

20世紀以降、コンピューターの発展により、三体問題のシミュレーションが可能になりました。科学者たちはコンピューターを使って三体問題の軌道を追跡し、そのカオス性を統計的に分析しています。この結果、個々の天体の動きを正確に予測することは困難でも、全体的なパターンや傾向を理解することができるようになりました。

3. 難しい理由

三体問題とは、宇宙空間で3つの物体が互いに重力で引き合いながら運動する際、その動きを予測する問題です。例えば、太陽、地球、月のようなシステムが考えられます。

二体問題、つまり2つの物体が互いに引き合う場合は、ニュートンの万有引力の法則と運動方程式を用いて、運動を正確に解析的に解くことができます。しかし、物体が3つになると、状況は一変し、その運動を解析的に解くことが極めて困難になります。

3-1. 解析的解の非存在

三体問題の難しさの一因は、一般的な条件下で解析的解が存在しないことです。解析的解とは、数学的な式を用いて正確に答えを求めることです。19世紀末、フランスの数学者アンリ・ポアンカレは、三体問題が一般的な条件下では解析的に解けないことを示しました。これは、三体の運動を単純な数式だけで完全に表現することが不可能であることを意味します。

3-2. 非線形性とカオス的挙動

三体問題の運動方程式は非線形であり、これはシステムの出力が入力に対して比例しない性質を持つことを意味します。この非線形性により、初期条件のわずかな変化がシステムの挙動に大きな影響を与えます。

各物体が他の2つの物体からの重力の影響を受け、その相互作用が複雑に絡み合うため、運動方程式を解析的に解くことが困難になります。さらに、この非線形性はカオス的挙動を引き起こし、システムの進化が初期条件に極めて敏感であることを示します。

つまり、物体の初期位置や速度に微小な誤差や変化があると、その後の運動が時間とともに大きく異なります。これは「バタフライ効果」とも関連し、三体問題は予測不可能性を示すシンプルなシステムとしてカオス理論の優れた例となっています。

3-3. 非可積分性と保存量の不足

三体問題の難しさは、システムが非可積分系であり、保存量が不足していることにも起因します。可積分系とは、運動方程式を解析的に積分できるシステムで、十分な数の保存量(第一積分)が存在する場合に成立します。

二体問題では、全エネルギーや全角運動量などの保存量がシステムの自由度と一致し、運動方程式を統合して解析解を得るための十分な積分が存在します。

しかし、三体問題では自由度が増加し、エネルギー保存(1つ)、全運動量保存(3つの成分)、全角運動量保存(3つの成分)の合計7つの保存量しかありません。未知数が18個(3つの質点×位置・速度の各3成分)あるのに対し、保存量が不足しているため、運動方程式は高度に結合した非線形微分方程式となり、解析的に解くことができません。

3-4. 数値計算の限界

また、数値計算によるシミュレーションでも問題が生じます。コンピュータで三体問題をシミュレーションする際、計算誤差や丸め誤差が不可避的に発生します。カオス的なシステムでは、これらの微小な誤差が時間とともに増幅され、結果の信頼性が低下します。特に長期間のシミュレーションでは、この問題が顕著になります。

3-5. 特殊解の限定性

三体問題には、特殊な条件下でのみ解析的解が存在する場合があります。例えば、ラグランジュ点や特定の対称性を持つ運動(オイラーの直線解など)では、数学的な解を得ることができます。しかし、これらの解は非常に限定的であり、一般的な三体問題には適用できません。

引用>いくつかの特殊解の投稿


最新の研究

ニールス・ボーア研究所のアレッサンドロ・アルベルト・トラーニ氏が率いる国際研究チームは、独自に開発したシミュレーションソフトウェア「Tsunami」を使用して、三体問題の何百万ものシミュレーションを行いました。その結果、カオス的とされていた三体問題の中に「規則性の島」と呼ばれる予測可能なパターンが存在することを発見しました。これは、初期条件(物体の位置関係、速度、接近角度など)によってシステムの挙動に一定の規則性が生じることを示しています。

https://www.universetoday.com/168871/new-research-could-help-resolve-the-three-body-problem/

宇宙では、ブラックホールや他の巨大な天体が互いに重力で影響し合う複雑な状況が頻繁に起こります。特に、3つの天体が相互作用する場合、その運動はカオス的になり、予測が困難でした。しかし、今回の研究で「規則性の島」が発見されたことで、これらの複雑な相互作用をより正確に予測できる可能性が高まりました。

これにより、ブラックホールがどのように接近し合体するか、そしてその過程で放出される重力波のパターンを理解するためのモデルが改良され、重力波天文学や宇宙物理学の発展に大きく貢献します。

参考

資料

三体問題シミュレータ

軌道と引力についての理解を深める

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