【一幅のペナント物語#65】昭和30年代の女性が選ぶ観光地⑤「磐梯高原」
雑誌『旅』の1960年(昭和35年)9月号の特集「女性におくる」で紹介された「女性の好きな旅先24」で選ばれた東北の観光地3選、二カ所目は「磐梯高原」。選出の際には「裏磐梯」でラインナップされています。
◉ペナント観察:安物感が否めないチープなデザインと仕様
メインに描かれている二つの山は、標高の高さから察するに、向かって左が大磐梯(1816m)、右が櫛ヶ峰(1636m)のようです。ペナントとしては初期の仕様のもので、不織布にフェルトを使って表現されています。ピッケルの絵が山岳テイストを醸し出しています。その下でピンク色に咲くのはシャクナゲの花でしょうか。サイズも小ぶりな製品で、安価で大量生産されたのか分かりませんが、何故だか僕の手元には同じものが全部で3枚も集まってしまいました。
◉乙女を誘う神秘の水面「五色沼」
福島30座のひとつにも選ばれている福島・会津を代表する名峰・磐梯山。その麓に広がるエリア全体を「磐梯高原」と呼ぶのだと思いますが、その北側一帯を「裏磐梯」と呼ぶのだそうです。紹介したペナントは描かれた山の位置関係からして、登山者に人気の八方台登山口がある猪苗代町側、すなわち「表磐梯」からの景色のようなので、今回のセレクトとしてはちょっと微妙かもしれません。でも今、手元に見つけたのはこれしかなかったもので。
それはそうと『旅』の中で女性たちに人気があるとラインナップされた「裏磐梯」。その大きな理由はやはり「五色沼」の存在が大きいように思います。その名の通り、青に留まらず赤や緑など、個性的な色を湛える湖沼群は探勝路も整備されていて、ロマンチックを気軽に味わえるロケーションになっています。朝靄に包まれた幻想的で静かな森に眠る神秘の湖は、当時の乙女たちの心を震わせたのでしょうか。
◉磐梯山の荒々しい山肌を望む「裏磐梯」
一方でこの五色沼を始め、裏磐梯を象徴する無数の湖沼群は、磐梯山の一角を成していた小磐梯(推定標高1750m)が、1888年(明治21年)に水蒸気爆発で跡形もなく山体崩壊し、その山屑なだれによって生まれたものです(下記画像参照)。麓の街道筋にあった集落や温泉地は甚大な被害を受け、500人余りが犠牲になったそうです。明治維新以降、最大規模の火山災害ということもあって、これを機に日本赤十字などによる災害ボランティア活動の整備が本格化したのだとか。
壊滅的被害で荒れるままだったこの地域を、地元出身の地域開発者・遠藤十次郎らが中心となって緑化を進め、1950年(昭和25年)には国立公園の指定を受けるまでに再生しました。この雄大で風光明媚な景観は人の手によって再生されたと知って驚きます。裏磐梯は東京からも約2時間半という距離ということもあって、観光だけでなく登山客も含めて多くの人を惹きつけ、東北有数の観光地へと発展したようです。都会に近いというのは、やはり観光分野では生き残りの必須条件ですよね。
◉今年も5月26日に山開き、なんと記念ペナントも!
「裏磐梯」にちなんだ最近の動きを調べていたら、<第67回 磐梯山開き>のお知らせを発見してしまいました。今月末にあたる令和6年5月26日(日)、7:30からはなんと記念ペナントも、先着2000名に配布するのだとか。
どんなペナントなのかなーとワクワクして調べたところ、毎年共通のデザインで日付やメッセージを入れ替えるような感じで、小さな記念ペナントを作って配られているようです。以下は一昨年のもの。記念ハガキも定番のようですね。いいですね。近くだったら貰いに行きたいところです(山登りは体力的にさすがにキツい)。
◉コロナ禍明けて人気復活の「裏磐梯」
昨年6月に『じゃらん』が発表した「人気観光地 満足度ランキング2023」では、裏磐梯は東北で5位にランクイン。前年度の18位から大躍進しています。コロナ明けで開放的で自然溢れるロケーションが再び注目されているのかもしれませんね。
こうやって昭和のペナント記事を書いていると、リアルタイムで日本全国の季節の移ろいをキャッチアップできて楽しいです。