【一幅のペナント物語#53】らくがきのようなユルい味わいで描く"天下の険"
◉ひと目見て惚れこんでしまった「箱根」ペナントをご紹介しよう。どう見ても、あまり気合いが感じられない「箱根」の金文字の横に、さらに輪をかけて気合いの入っていない人夫が、キセル吹かしてご機嫌な菅笠の爺さんを乗せた馬を引いている。遠くには富士山、その手前は芦ノ湖だろうか。富士山のデフォルメ具合と、左右の山のタッチの落差も気になる。ボーっとしているように見える人夫と、うつろな目をしている馬を見ると、この爺さんの行く末がとても気になるではないか。
◉左下の街道道しるべには「箱根八里」と「箱根の山は天下の険」と書かれている。滝廉太郎が作曲したことでも知られる唱歌「箱根八里」は、1901年(明治34年)に誕生しているので、もはやこの道しるべもオーパーツである。全体に漂う微妙な余白の間も含めて、味のある作品だなあと僕は思ってしまったが、昭和の当時は、値段が安いこともまたペナントが人気になった理由と聞くが、果たしてこれを「欲しい!」と思った人がどれくらいいるのだろうか。
◉「箱根八里」というのは良く耳にしてきた言葉だし、「大変な山道、峠越え」というイメージだけはあるのだけれど、西日本在住の僕は実際に目の当たりにする機会も無く、どういうルートなのか気にかけたこともなかった。国交省のサイトによれば、
だそうで、歌のルートを実際に辿ってみたという、音楽ライター・小島綾野 さんの記事(下記)は、読んでるだけで息が切れそう。そんなアップダウンの激しいこの約32kmを、昔の人たちは1日で踏破した人もいると知って「うそだろー?」とムサシ刑事ばりに呟いてしまった。
箱根駅伝の5区・6区は、この箱根八里の小田原~箱根間と、ほぼ同じルートを走っていると想像するだけで、こむら返りを起こしそうだ。
そんなハードな「箱根」の道行きを、あんなのんびりなタッチでペナントにしてはいけないのでは? と改めて思う。2018年(平成30年)には日本遺産にも認定されてるんだぞ。まあ、この人夫さんには何の罪も落ち度もないのだけれど・・・