【一幅のペナント物語#55】"旅情"と付けるだけでロマン倍増する気がする
◉以前、映画のタイトルを掲げたペナントを紹介したが、今回は歌のタイトルを掲げているペナントを紹介する。見ての通り昭和世代なら一度は聴いたことがあるであろう「知床旅情」のペナントだ。手元の数百枚の中で、明らかに歌のタイトルから持ってきたと思えるものはこれくらいなので、そういう意味でレア物と言えそうない一幅である。地名に"旅情"と付けるだけでロマン味が増して、エモさが際立つ気がするのは僕だけだろうか。
◉描かれているのは「カムイワッカの滝」だろう。源泉から湧き出たお湯が川となり滝となって流れることで有名なスポットだ。滝のサイズに対してスケール感がバグってしまう観光船は、カラーリングとシルエットからしてオーロラ号だと思われる。2005年(平成17年)7月に知床半島は世界遺産に登録されたが、その吉報を僕はこのオーロラ号の船上で知ったのだった。登録決定を告げる船内アナウンスに、乗り合わせた乗客全員で歓喜の声を上げ拍手喝采した思い出がよみがえる。船上からカムイワッカの滝を見た記憶はすっぽり抜け落ちているが、別の日に雨と湯気の中を陸ルートから滝を昇るツアーに参加したことははっきりと覚えている。軍手をはめて、滝の斜面を大勢でえっちらおっちら登り、その先の滝壺(というかもはや温泉)にダイブするのは本当に楽しかった。
◉そんなカムイワッカの滝の左上に描かれている鳥は、天然記念物のオジロワシかオオワシだ。尾の先だけが白いオジロワシのように見えるが、この絵ではちょっと判別が難しい。
◉問題は右側のさきっちょ部分だ。灯台と観光船、そして謎の2柱の岩が屹立しているのが描かれていて、灯台はそのシルエットからして知床岬の灯台ではなく宇登呂灯台に思える。しかし、宇登呂のあたりの海上に絵のような岩がある情報は見つからず、まったくのお手上げ状態だ。どなたかご存知の方がおられたら、この謎岩の正体を教えて欲しい。
◉このペナントを見つけて以来、ふとした隙に加藤登紀子の歌声が頭の中に流れてくるので困っている。若い頃は「こんな辛気臭い歌のどこがいいのか」などと思っていたけれど、歳を取れば取るほど、こういう歌が沁みてくるようになるのは、いったいどういうわけだい?
作者の森繁久彌御大には悪いけど、やっぱり加藤さんの歌声が僕的には心地良い。「琵琶湖周航の歌」や「百万本のバラ」とかも好きな曲で、たまに聴きたくなるんだよ、加藤登紀子の歌は。
◉今回、知床に関してリサーチをしていると否が応でも目にすることになったものがある。2年前に起きた観光船の沈没事故のことだ。遺族にとってはいまだ終わった出来事ではないことは、このニュースでも伺える。
どう考えても防げた可能性が大きい事故だっただけに、遺族ならずともやり切れない気持ちになってしまう。もうすぐ、事故から3度目の春が知床に訪れようとしている。今年2月15日現在、まだ行方の分からない5名が見つかることを心から祈りたい。
◉上の記事を見ていたら、追い打ちをかけるように残念なニュースを発見。コロナと沈没事故のダブルパンチで客足が遠のいていた知床観光を盛り立てるべく頑張っていた観光船「ドルフィン」が今月いっぱいで廃業を決めたそうだ。公式HPにもお知らせがあがっていた。
昨今の燃料高騰も追い打ちをかけたフシもあって、他の観光船業者さんも苦戦していると思うが、海の上からしか見ることの出来ないスポットも多い知床観光。昭和の北海道観光シーンを牽引してきた観光地だけに、インバウンド需要も含めて、盛り立てていって欲しい。
【余談】「知床旅情」のことを調べていたら、この曲もともとは森繁氏が「オホーツクの舟唄」というタイトルで別歌詞バージョンをリリースしており、倍賞千恵子さんが素晴らしい歌唱を残してくれている。
伸びやかで力強い歌声はとても魅力的だ。「知床旅情」の歌詞よりも好きかもしれない。最後のほうに、
という歌詞が不意に出てきて「ああ、これは未だ還らぬ北方領土への想いを詠う歌なのだ」と気付かされた。