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19-20シーズンのマンチェスター・ユナイテッド②スールシャールのフルシーズン

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■モウリーニョ解任後のケアテイカー

スールシャールの1年目18-19シーズン途中でジョゼ・モウリーニョを解任したユナイテッドフロントがケアテイカーとして指名したのがオーレ・グンナー・スールシャールでした。スールシャール就任後ユナイテッドは復調し、プレミアリーグ12試合負けなし、CLでもベスト16でパリ・サンジェルマン相手にオールドトラッフォードで0-2で敗れたものの、アウェイで1-3で勝って勝ち上がりを見せました。

しかし、最終的には失速。プレミアリーグラスト5試合は1勝2分2敗。CLもバルセロナに敗北。それでもユナイテッドフロントはスールシャールを正式監督として任命。ファーガソン退任後モイーズ、ファン・ハール、モウリーニョと外部から結果を出してきた監督を連れてきたものの、ユナイテッドらしさはなくなり、新たな哲学も芽吹かず、やりたいサッカーというのも根付きませんでした。

それらを総合的に考えるとファーガソン指揮下でプレーをし、98-99シーズンのトレブルも経験をした選手の中で、ユナイテッドU23の監督を務め、ノルウェーとはいえ監督として結果を出していたスールシャールにユナイテッド再建を託すのは自然な流れだったのでしょう。

自身最初のユナイテッドでのフルシーズンを戦う前の補強でスールシャールはこれまでの監督とは違うスタイルを見せました。ワンビサカ、ダニエル・ジェームズ、ハリー・マグワイアと英国系のプレミアでも結果を出してきた選手を獲得しました。ワンビサカ、ジェームズはまだ若く、いずれはユナイテッドの中心としてプレーできる素質のある選手を獲得するあたりはファーガソン時の補強方針をそのまま行っているようでした。

■1年目の戦い方

クロップのリヴァプールのように組織的に前線から圧力をかけるわけでもない、ペップのシティのようにテクニカルなパスワークで崩していくわけもない、ランパードのチェルシーのように後ろから丁寧にビルドアップするわけでもない、スールシャールの戦い方はいたってシンプル。細かい戦術や形を選手たちに落とし込むのではなく、「”Just go out,and play" いいから思いっきりプレーしてこい」というもの。

シティやチェルシーといったポゼッションを高めて、パスを繋ぎながら前進してくるチーム相手にはPAまでディフェンスラインを落として、そこからのロングカウンターを狙う(実際にシティ、チェルシー、レスターにはシーズンダブル)。ラッシュフォードやマルシャルといった前線の選手がプレスを始めたらディフェンスラインを上げるといったベースの戦い方はありますが、基本的には選手たちの判断や個の力に頼るというのが見て取れます。

だから選手のコンディションがいいとき、ある程度スペースを与えられて攻撃が自由に組み立てられるときはいいのですが、それらがハマらないと厳しい。リーグ終盤の連戦が続いたときには攻撃の質は落ちたし、バーンリーのようにガチガチに守備を固めてスペースを与えてくれない相手には崩しきれない。

ただ、これはスールシャールのユナイテッドに始まったことではありません。ファーガソンのときだって決してテクニカルなサッカーをやっていたクラブではありません。攻撃陣の個の力、一人一人の献身性に支えられた守備、それを実行させる選手をそろえるスカウト力、ファーガソンの人心掌握術。

モイーズには最低限の戦い方と人心掌握術がなく、ファン・ハールは選手を自身の戦い方の型に嵌め込みすぎ、モウリーニョは盟友ルイ・ファリアを失ってからますます頑固になり3年目のジンクスでユナイテッドを去っていきました。ファーガソン解任後、ユナイテッドらしさを失ったチームにらしさを取り戻させるのにはピッタリだったのがスールシャールだったのでしょう。

■それでも見せたスールシャールの戦術

最低限の枠組みを与えて、あとは選手たちの能力に期待する。そんなスールシャールの戦い方ですが、もちろん3バックや試合途中の選手交代で上手くしのいだ試合もありました。それらがすべてハマったのがコロナ中断前最後の試合だったオールドトラッフォードでのマンチェスター・ダービーだと思います。今シーズンのベストゲームだったと思います。

スールシャールはチェルシーやリバプール、シティといったボールポゼッションで上回られることが目に見えている相手には3バック(5バック)を採用し、PAの幅を3バックで埋め、サイドはウィングバックで対応するという守備をさせていました。この試合でもそうでした。

ボールポゼッションは27パーセント、それでも枠内シュートでは上回り、2点しか奪えませんでしたが、ジェームズとマルシャルが先鋒になり危険なカウンタ-を何度も繰り出しました。ボールを持てた時間では3バックの左に入ったショーが中盤のラインまで顔を出してポゼッションの手助けをする。

守備面では右ウィングバックのワンビサカがスターリングの仕掛けをしっかりと封じ込め、マルシャルとジェームズの2人はただ引くだけではなく、シティのポゼッションをけん制。チームとして統率の取れた守備を見せていました。

より押し込まれる時間が増えた78分には疲れが見えて、スペースを与えようになり、同サイドでピンチを生み出してしまっていた左ウィングバックのウィリアムズに代えてバイリーを投入。ショーをウィングバックに出す。マクトミネイをマルシャルに代えて投入にして中盤に運動量を注入。バイタルエリアを埋める仕事を与えました。ハイテンションのゲーム、1点リードで守備のリズムが取れている中、選手を変えるというのはある意味リスクのある采配です。それでも一つのピンチからスパッと選手の立ち位置も含めて変化を加えました。

最後はブルーノ・フェルナンデスに代えてイガロを投入。前線で時間を作れる選手を配置するといった采配。3バックでのスタート、スペースを埋めて前線のスピードのある選手を活かすカウンター、終盤の選手交代とスールシャールの戦い方が功を奏した試合といっていいでしょう。

■来季に向けての課題

スールシャールがユナイテッドらしいサッカーをと書きましたが、このままではプレミアの優勝は厳しいと言わざるを得ないでしょう。組織的なテクニカルなサッカーができないと厳しい時代で、個の能力に任せるだけではプレミア優勝やCLでの復権は難しいと思います。

例えばモウリーニョ。スパーズの監督に就任した際にアシスタントとして採用したのはリールでアシスタントコーチを務めていたジョアン・サクラメント。まだ31歳です。こうして新しい戦術や戦い方を吸収しようとし、それをピッチ上に落とし込もうとする姿勢はさすがモウリーニョだなと思います。

例えばアルテタ。シティでペップのアシスタントを務め、シーズン途中でアーセナルの監督に就任したアルテタはバルセロナのカンテラ、ソシエダ、エバートン、アーセナルと色々なクラブ、色々な監督の下でプレーしていたし、ペップの右腕として多くの戦術的な引出しを吸収したはずです。

ユナイテッドでスールシャールを支えるアシスタントはマイク・フィーランとマイケル・キャリック。フィーランはファーガソン政権末期を支えたアシスタントだし、キャリックは言わずもがなユナイテッドで現役を終えてそのままコーチングスタッフに入閣しました。二人が決して悪いとは思いませんが、他の国のスタイルを持っている戦術的なサポートができるコーチングスタッフが一人いると違うのかなと思います。

特に攻撃面、ビルドアップのデザインができるコーチングスタッフは必要ではないでしょうか。シティやリヴァプールを見ているとあっさりと最終ラインからサイドの選手までビルドアップできるし、そのサイドの選手が前を向いて仕掛けられる状況を生み出しています。中盤の選手も決定的なパスを出せる状況にある。しかもそれがチームとしてデザインされているように見えます。

ユナイテッドのゲームを見ているとCBが開く、マティッチやポグバといった中盤の選手が降りてくる、SBが高い位置を取るといったビルドアップの基本系はありますが、そこから先に相手のブロックの中に入っていく、サイドプレーヤーに仕掛けられ状況、バイタルエリアでのコンビネーションというとこまでいけません。最後のアタッキングサードは個の能力に任せるのはいいのかもしれませんが、そこまでの手順はチームとしていくつかデザインしておいた方が良いのではないでしょうか。

特にユナイテッドは典型的な9番タイプのフォワードがいるわけではないので(イガロはいますがあくまでバックアッパーという理解です)、困ったら前線にロングフィードではボールを捨てるだけです。スピードがある選手が揃っているので、カウンターのスペースを与えてくれるチーム相手はいいですが、ユナイテッド相手にはスペースを埋めて引いてくるチームが多いだけに、それを崩せるような攻撃パターンは必要でしょう。

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