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珈琲を啜る
珈琲を啜る
あれは、夜が夜でなくなる頃のこと
まだ長い一日に目配せしてはため息
熱い熱いと汗をかくグラスの横で葉巻を吹かせるカップ
珈琲を啜る
珈琲は啜られる
僕に啜られる
隣の彼女に啜られる
斜向かいの老人に啜られる
啜る音だけが反響し
それはこの場所に特異的な強迫観念を生み出した
啜らなければいけない
僕は珈琲を啜らされているだけかもしれない
あるいはこの喫茶に
あるいは、珈琲自身に
珈琲を啜る
入学式帰りの学生が入店
今日も啜る
子を授かったばかりの母親が入店
今日も啜る
杖をつく老婆が退店
今日も珈琲を啜る
珈琲を啜った
朝が朝でなくなる頃に
カップの底にこびりついた渋とグラスで溶けた氷が
僕に一日の終わりを示唆した
絵:えすけーぷぐりっち
字:リズム
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