【小説】螢石
ホタル石は螢石。
子供に手折られたホタルブクロの流した涙。
夏祭りの夜、人々の賑わいに負けじと星々が輝く空の下。
2人の男の子の兄弟がおじいさんと一緒に、サラサラ銀に煌めく川辺を歩いて行きます。
ここはポウメラと言う田舎町。星流祭からの帰り道です。
「まだもう少しお祭り見たかったよ、おじいちゃん!」
小さな方の男の子が言いました。
「でも、もう少し遅かったらホタルの群れが見れないかもしれないんだろ。ワガママ言うなよなー。」
少しだけ大きい方の男の子が言います。
おじいさんはニコニコと笑顔で言いました。
「その通りだ。もう少し、ほんのちょっとでも遅くなったら見れなかったぞ、これは。」
その言葉と共に、暗い夜道が一斉に黄緑色に光だします。
星空が落ちてきた様な素敵な景色です。
小さい方の男の子がふと、星をひとつ飲み込んだかの様な花を見つけました。
そっと手を伸ばします。
「嗚呼、それはホタルブクロだね。」
おじいさんが言いました。
手を止めて後ろを振り返ります。
「こんなに綺麗なんだ。摘んで帰って母さん達に見せてやろうぜ。」
大きい男の子が言ったので、小さい男の子は頷いて、プチリ、手折りました。
すると、光っていた筈のホタルブクロは光らなくなりました。
「え。」
兄弟の声が揃います。
おじいさんが言いました。
「ホタルブクロはね、摘まれると光らなくなるが、ほら、花を軽く振ってご覧。」
小さい男の子が花を振ると、コロン、花の中から小さな石が一粒こぼれてきました。
青い様な、紫の様な、緑色の様な、綺麗な色をした石です。
兄弟は喜びました。
おじいさんは笑っています。
光らなくなり、石も無くしたホタルブクロは道端に捨てられました。
兄弟は気にせず、ホタルが飛び交う家への道を興奮したように話しながらおじいさんと歩き出しました。
捨てられたホタルブクロはもう光りません。
代わりに、捨てられたホタルブクロの傍の別のホタルブクロが、ぼおっと青白く光ります。
きゃらきゃら。
また子供達が歩いて来ました。
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