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白血病感染抄 Vol.1

血液疾患の感染症を症例報告から学ぶ「白血病感染抄」のVol. 1です。

今回は、Transplantation Infectious Disease 2021年12月の症例報告です。

Transpl Infect Dis.は臓器移植や造血幹細胞移植のおける感染症の予防や治療を対象としたジャーナルです。

では症例に参ります。


症例

63歳男性
疾患: DLBCL stage Ⅳ 第1再発期

主訴

発熱、頭痛、嘔吐

経過

R-CHOPで寛解後3年で再発し、R-IVAC療法+MTX髄注の方針。

1コース目から2週間時点で、頭痛、発熱、嘔吐が出現した。
1週間好中球は500/μL以下のタイミングでの発症とのことです。

身体所見についての記載なし。CT検査が行われ、肺に複数の空洞を伴う結節影を認めています。

GM-CSFを使用後、気管支鏡を行い、培養検査に提出されています。

その後すぐに左膝関節に痛みを認め、関節穿刺を施行しています。関節液内には多数の好中球を認めています。

頭部MRIも施行され、前頭葉に2つリング状の病変を認めています。

problem list

#1 DLBCL
#2 発熱
#3 頭痛
#4 嘔吐
#5 肺の空洞を伴う結節影
#6 左膝関節炎
#7 脳膿瘍疑い

鑑別

再発したDLBCLに対して化学療法を行ったところ。好中球減少が続いていたところに発症した肺、関節、脳への播種性の感染症を起こしていることが疑われます。

好中球減少、化学療法に伴う細胞性免疫低下、液性免疫低下があったと考えられます。

肺と脳に感染巣を作る感染症としてはある程度限られてきます。

Aspergillus、Candida、Mucor, Cryptococcusなどの真菌感染はあり得ます。今回はアメリカの報告なので、Coccidioidesも鑑別に挙がるかと思います。
その他、結核、NTM、Nocardia、ブドウ球菌による敗血症性塞栓症も鑑別かと思います。梅毒も空洞病変や脳膿瘍様の病変を作ることがあります。

診断

気管支鏡の培養検査で、Aspergillusに加えて、Lomentospora prolificansが陽性となり、血液培養と関節液培養からもL.prolificansが陽性となりました。

診断: 播種性Lomentospora prolificans感染症 (Scedosporiosis)

その後の経過

今回の症例の症状は発熱、乾性咳嗽、関節痛のみで神経症状は特になかったようです。

発熱時にCTで肺の結節影を認めた時点で、VRCZ+MCFGの投与が開始され、GM-CSFも速やかに投与されています。

おそらく抗真菌薬と速やかに好中球が回復したことで、5日後には解熱し、血液培養は陰性化し、脳の結節も改善していますが、左膝の関節炎は改善せず、Terbinafineも追加で投与されています。

しかし、関節炎は改善なく、5ヶ月後にアンプタされています。

Scedposporiosisの治療中はリンパ腫の治療は中断していたわけですが、アンプタ後の感染の経過もよく、リンパ腫が再度悪化してきたタイミングで自家末梢血幹細胞移植を予定されます。

移植前のR-GemOx4コースはScedosporiosisの再燃なく治療でき、CRに至ります。

しかし、自家移植(前処置BEAM)を施行し生着した1週間後にScedosporiosisが再燃し、生着後28日で亡くなってしまいます。

コメント

今回は好中球減少、細胞性免疫低下、液性免疫低下のある患者に対して起きた播種性のLomentospora prolificans感染症の症例でした。

Lomentospora prolificansは以前はScedosporium prolificansまたはScedosporium inflatumという名前でした。

免疫正常者にも感染することがあり、外傷や手術に関連して起こります。

Scedosporiumといえば、津波肺というイメージですが、東日本大震災の時の症例報告を見ると、メインはScedosporium apiospermumですが、Lomentospora prolificansも津波肺を起こしています。

マンデルを開きますと、免疫低下の人では、細胞減少性の化学療法や造血幹細胞移植の患者で好中球減少時の発熱で発症することが多いようです。

AMPH-Bの効かない真菌であり、なかなか抗真菌薬での治療がうまくいかず、死亡率の高い感染症です。Discussionで取り上げられてるL.prolificans感染の55例の報告では、平均生存期間が22日となっています。

今回の症例も好中球減少の回復があってL.prolificans感染症の割に長期生存できたとされていますが、マンデルに書いてあるように細胞減少性の化学療法がリスクであり、FNで発症することが多いということですから、好中球の免疫が大事なのでしょう。

なかなか効く抗真菌薬がない真菌であり、AMPH-B+ペンタミジン、テルビナフィン+VRCZ or  ITCZ or MCFGのシナジー効果が期待されているようです。

VRCZ+テルビナフィンの使用報告があり、実際にこの感染症に出会った時には、この組み合わせから始めるのが良さそうです。

今回の症例はGM-CSFとVRCZをすぐ使ったところがよく、長期生存い繋がったのではないかを思いました。
ただ真菌はやはりしぶといですね。アンプタまでしてScedospoiosisと戦い、Auto後にすぐ再燃しあっという間に持って行かれてしまっており、Scedosporiosisの怖さを再確認できました。

論文

Fatal recurrent disseminated Lomentospora prolificans infection during autologous hematopoietic stem cell transplantation: A case report and review, and discussion on the importance of prolonged neutropenia

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