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白血病感染抄 Vol.6

白血病感染抄 Vol.6

今回はちゃんと白血病の感染症を扱います。

◼️急性骨髄性白血病に対する venetoclax + azacitidine 寛解導入療法中に発症した Lomentospora prolificans 症

臨床血液. 2024;65(8):742.

特に捻りはない分かりやすいタイトルで、そのままです。
急性骨髄性白血病と診断された方が、VEN+AZAで治療を開始され、その治療中にLomentospora prolificans という真菌の感染症を発症したという報告です。真菌を疑う肺の結節影を認め、L-AMBを開始したものの、残念ながらすぐ亡くなられています。亡くなった日に、血液培養からL. prolificansが陽性となっています。

VEN+AZAの治療中にどのように真菌予防をするのがよいのか気になったので、調べてみました。

VEN+AZAの真菌予防

このVEN+AZAですが、azacitidine単剤に比べてvenetoclaxを併用することで、白血病に対する治療効果は高まったのですが、好中球減少が長期続くという問題点があります。

長期の好中球減少は、糸状菌感染のリスクとなりますので、真菌予防についてどうするのがよいか気になるところです。今回の症例報告では、真菌予防はFLCZで行われていました。

VEN+AZA治療中の真菌予防について、後方視的研究がいくつかあります。

①コロラド大学病院からの報告では、侵襲性真菌感染症(IFI)の既往のない新規AMLの患者のVEN+AZA治療中のIFIの発症率を見ています(Open Forum Infect Dis. 2022 Sep 24;9(10):ofac486.)。

144人中IFIを発症したのはprovenが2人、probableが6人、possibleが17人でした。provenとprobableは全てアスペルギルスと判断されているようです。あまり真菌予防を行わない施設のようで、真菌予防をされていたのは10人だけです。予防の内容は、anidulafunginが6人、FLCZが4人、ISCZが1人です。この10人は誰1人IFIを発症しなかったとのことです。

②もうひとつはチェコ、オーストリア、スロバキアからの報告で、こちらもVEN+AZAで治療中の新規AML患者の真菌感染症発症を調べています(Br J Haematol. 2024 Jul 23.)。

こちらは186人の患者のうち85人(46%)が抗真菌予防を受けています。真菌予防を受けた患者の1%(n=1)、予防を受けていない患者の5%(n=5)が、真菌感染を起こしています(p=0.222)。ただこの報告の真菌感染は、全員Candidaで、侵襲性カンジダ感染症は1人だけであり、残りは口腔カンジダか食道カンジダです。
この報告では抗真菌薬予防の有無で真菌感染症の発症に有意差はありませんでした。また誰一人、糸状菌感染は起こしていません。

台湾からAZA単独またはVEN+AZAで治療を受けたAML患者61人の真菌感染症の報告がされています(Front Cell Infect Microbiol. 2022 Nov 30;12:1012334.)。

AZA単独38人の内、3人が抗真菌薬の予防が行われています。一方で、VEN+AZAは23人中18人で予防が行われており、ほとんどがPSCZが選択されています。
proven or probable真菌感染症を発症したのはAZA単独で6人(16%)、VEN+AZAで6人(26%)でした。

VEN+AZAの1人がFusariumのprovenで、あとは全員血液かBALのGM陽性によるprobableです。この研究では抗真菌薬予防はIFIの発症を下げています(p=0.024)。しかしながら、IFIの発症と予後には関連はありませんでした。

抗真菌薬予防が必要かどうかは、現時点での報告を見る限りでは十分な根拠はありませんが、①③の報告ではprobableのアスペルギルスが多く、②の報告ではCandidaばかりです。施設間の差が大きそうです。
VEN+AZAを防護環境下でできるのか、施設の侵襲性肺アスペルギルス症の発症頻度などの施設毎の状況で、抗真菌薬予防を考えられるのがよいかと思います。


Lomentospora prolificans

今回の報告ではLomentospora prolificansが原因微生物です。以前はScedosporiumと呼ばれていた糸状菌です。

Scedosporiumは土壌、汚染された水域、堆肥、牛や鳥の糞から分離されます。L. prolificansは、スペインやオーストラリアのような暑く乾燥した国で優勢だそうです(Clin Microbiol Infect. 2014 Apr;20 Suppl 3:27-46.)。

本症例は金沢からの報告ですので、暑く乾燥しているイメージはありませんね。個人的には土壌や堆肥などの曝露があったか気になりますが、本文中には職業や趣味などの記載はありませんでした。

L. prolificansは、血液腫瘍患者などの免疫不全者のIFIや津波肺の原因微生物となることがあります。致死率は高いことが知られています。

播種性L. prolificans感染症の症状としては、発熱が最も頻度が高く、他の症状はどの臓器に感染しているかによります。今回の症例のように肺に感染していることも多く、呼吸困難、咳をみとめることがあります。その他、中枢神経、皮膚、眼球、心臓、骨に感染を起こすことがあります。血液培養は75%で陽性となります(Pathogens. 2022 Dec 31;12(1):67. )。

ScedosporiumはL-AMBが効かない真菌として有名で、第一選択薬はVRCZとなります。ただ、L.prolificansはVRCZの予防中に発症してくる症例も多く(Mycoses.2020; 63: 437-442.)、VEN+AZA中に抗真菌薬でL. prolificansを予防するのはなかなか困難かもしれません。

まとめ

VEN+AZA治療中の真菌感染症、特に予防について考察しました。
L. prolificansは稀ですが、感染を起こしてしまうとなかなか厳しいです。

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