白血病感染抄 Vol.2
白血病感染抄 Vol.2
今回は2018年のEuropean Journal of Haematologyからです。
(European Journal of Haematology 2018; 100: 383-385)
今回の症例(ドイツ)
25歳女性。原病はT-LBL, Rel1。アメリカで診断され、治療途中でドイツに移動。PRでPT-CY Haplo移植を施行。前処置中に下痢grade1を認めるようになり、day18にはgrade2になった。好中球が380/μLに増加すると、腹痛も出てくるようになった。aGVHDを疑いプレドニゾロン2mg/kgとbudesomide 6mg/dayの投与を行ったが、下痢はgrade3となりひどい嘔吐も認めるようになった。
便の微生物検査では、ESBL産生E.Coliが陽性。ウイルスや真菌は認めなかった。
Problem list
#1 allo-HSCT後生着前の下痢
プレドニン開始後の悪化
#2 嘔吐
#3 腹痛
鑑別
プレドニン開始後に悪化はしているものの、発症のタイミング、嘔吐、腹痛を伴う下痢ということからaGVHDは鑑別に残ります。ステロイド抵抗性なのかもしれません。
その他、移植後早期であることからCMV腸炎、TMAは外せません。
CD腸炎も大事な鑑別かと思います。
EBV-PTLDも腸管に発症することはあるが、移植後1ヶ月未満の発症はほとんどないため、可能性は低いでしょうか。また発熱、リンパ節腫脹を伴うことが多いです。
大腸生検で陰窩のアポトーシスを認めGVHD所見を認め、CMVは陰性であった。粘膜表面に卵形の構造物を認めた。。。
便でCryptosporidiumのPCR検査を出すと、陽性で返ってきた。
診断:Criptosporidiosis
paromomycin、azithromycin、nitazoxanideが投与され、免疫抑制剤の減量が行われています。
CD4が増え、下痢は治っていったようです。day105に無事退院されています。
(European Journal of Haematology 2018; 100: 383-385)
Cryptosporidiumについて
疫学
世界中に分布し、年間罹患者数は2.5億から5億人、死亡者数は年間約10万人(WHO 2010年推定)です。
本法では年間10例ほど報告されています。
同じ腸管原虫症としてはアメーバ、ジアルジアの方がクリプトスポリジウムより発症数が多いですが、死亡者数で言うとクリプトスポリジウムの方が多くなります。
水道水汚染でアウトブレイクを起こすことがあり、最も有名なのが1993年に米国ミルウォーキーで起きたアウトブレイク。2週間で約40万人が発症し、AIDSなどの免疫不全者約400人が死亡しています。
日本では1996年に埼玉県入間郡で起きたアウトブレイクが最大で、8800人の町民が発症しています。
病原体
引用:CDC https://www.cdc.gov/dpdx/cryptosporidiosis/index.html (参照21-07-28)
オーシストの糞口感染。数個のオーシストでも感染が成立する。感染すると80%で発症する。
小腸の腸粘膜上皮細胞内の細胞質外に寄生する(細胞内細胞質外寄生)。
生活史は小腸に達したoocystからsporozoiteが出てきて微絨毛に侵入→丸くなってTrophozoite→微絨毛の膜に包まれたMeront→バナナ状のmerozoiteは新しい微絨毛へ侵入し無性生殖で増殖→一部は有性生殖でoocystを形成→糞便に放出
Oocystの壁は強く、アルコールや塩素に抵抗性がある。
人に感染するクリプトスポリジウムでメインとなるのは、C. hominisとC. parvumの二つ。この二つで90%以上を占める。
その他ヒト以外の脊椎動物を宿主とするクリプトスポリジウムもAIDSの日和見感染として症例報告されている。その中でもC. muris(齧歯類)は他のクリプトスポリジウムと比べ変わっていて、サイズが大きく胃に寄生する。
感染経路
動物の屎尿で汚染された水(飲水、河川、プール)、離乳前の子牛、oral-anal sex。
流行地域
世界中で認めるが、発展途上国で発生率が高い。アジア(特にインド)、ラテンアメリカへの渡航はリスクが高い。
旅行者下痢症の3%がこれによる。
症状
小腸型の下痢。水様便、嘔吐、食欲不信、腹痛。約半数で発熱。
潜伏期間は3-10日で、無症候性シストキャリアーも指摘されている。
診断
便検査がスタンダード。ルーチンでの検査では見つけられないことが多いので、検査室にcryptosporidiumを疑っていることを伝える必要がある。
生スメアではアメーバやジアルジアに比べ小さいため見つけにくい。ショ糖遠心浮遊法が用いられる。抗酸染色をすると赤く染まり、見つけやすくなる。
便への排出は間欠的であり、日を変えて3回検査することで検査感度を上げる。
治療
免疫が正常であれば下痢は7-10日で自然治癒する。脱水補正などの対症療法。
NitazoxanideはFDAで承認されているが、免疫不全者での効果は不明。
下痢が治った後も数週間はオーシストの排出が続く。そのため下痢などの症状が治ってから2週間はプール禁止。
免疫不全者では
多量の下痢をしたり、症状が遷延することがある。致命的となることもある。
下痢だけでなく胆嚢炎、気管支炎、膵炎などを起こすこともある。
AIDS患者で重症になることが知られているように、cryptosporidiumには細胞性免疫が重要な役割を果たしている。
AIDSではCD4が200/μL以上に回復すると自然治癒することが知られている。
今回のallo-HSCT後の症例でもCD4の増加とともに症状が改善しており、免疫抑制剤の減量が治療の鍵となった可能性があると考える。
参考文献
・IDWR 2005年第2号 クリプトスポリジウム症とは(参照 2021-07-28)
・寄生虫学テキスト 第4版 文光堂
・Yellow Book 2020
・感染症クイック・リファレンス クリプトスポリジウム症 日本感染症学会(参照2021-08-04)