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ちときん 新しい抗CMV薬 Maribavir

おさ菌です!
ちときんでは、血液疾患と感染症について記事を書いています。

本日は、「新しい抗CMV薬 Maribavir」についてです。

Maribavir

日本では今年の6月に承認されたばかりの薬です。青色の錠剤です。

略語はMBV、商品名はリブテンシティといいます。"Living with Tenacity"が由来だそうです。

本日は、そのTenacity=執念、粘り強さ が伺える、承認までのながーい歴史を紹介します。

Phase 1から承認されるまで

Phase 1 studyは1996年から開始され、2002年に論文として日の目を見ます (Antimicrob Agents Chemother. 2002 Sep;46(9):2969-76.)。6種類のdoseで、薬物動体、抗CMV活性、安全性を見ています。対象は、無症候性のCMV排出を伴うHIV感染成人男性で、MBVにより精液中のCMV sheddingが減ることが示されました。

この結果を受けて、Phase 2 studyが行われます (Blood 2008; 111: 5403–10.)。同種造血幹細胞移植後の方にCMVの再活性化予防としてMBVの内服が行われます。doseを100mgを1日2回、400mgを1日1回、または400mgを1日2回の3種類で行ったのですが、予防効果としては容量反応性が見られず、副作用を最小限に抑えるために、この後のphase3では100mg1日2回が選択されることとなります。この選択が失敗でした。

CMV infectionの一次予防としてMBVの承認を得るべく、phase 3のdouble-blind, placebo-controlles, randomised trialが行われます (Lancet Infect Dis. 2011;11(4):284-292.)。先ほどの結果を受けて、MBVは100mg 1日2回内服を生着後から開始としています。
世界90施設、681人の試験でしたが、結果はplaceboと差を認めず、negative studyに終わります。

negative studyとなった原因は、MBVの容量が少なかったからとされています。その他、血球減少をきたさない薬なのに、生着後から内服させるという戦略がよくなかったとか、サンプルサイズ計算で用いていた予想よりCMV diseaseの発症率が低くなったということも原因と考えられているようです。

この論文は2011年の論文で、こけてしまったために、MBVは承認されることなく、2015年で特許が切れることとなります。

諦めることなく次のphase 3試験 (SOLSTICE試験)が行われます。今度は、MBVの量を400mg 1日2回内服に増量し、別の抗CMV薬で2週間治療してもCMV DNAが下がらないような移植(固形臓器も造血幹細胞も含む)後患者を対象として、試験が行われました。controlは他の抗CMV薬です。

8週間治療後のCMV除去率は55.7% vs 23.9% (p<0.001)とよい結果を出すことができ、これを受けてアメリカでは2021年に承認、日本では2024年承認となりました。

phase 1を開始してから25年も経っての承認です。なかなかの粘り強さを感じます。

まだまだ粘り強さは続きます。

MBVのpreemptive therapyとしてVGCVとの非劣性を目指して

さらにもうひとつphase 3 studyが行われました (CID 2024; 78(3): 562–72)。造血幹細胞移植後のpreemptive therapyとして、MBV 400mg 1日2回 vs VGCV (バルガンシクロビル) 900mg 1日2回のRCTです。

これら薬剤を初回無症候性CMV感染を起こした時から8週間内服させて、治療終了時点でのCMV除去率をみるのがprimary endpointです。MBVの非劣性を示すのが目的でした。

結果としては、MBVはVGCVに対して早期かつ高頻度に薬剤耐性が発現し、8週間の時点での非劣性を示すことができませんでした。

このstudyにおいて、3週間以上抗CMV薬を内服できた患者は、それぞれ241人ずついて、MBV群で耐性変異を獲得したのが24人(10%)、VGCV群で耐性変異を獲得したのが6人(2.5%)と、MBV群で高頻度に薬剤耐性が発現しています。

治療期間中にCMV DNAの再燃を認めたのが、MBV群で14人 (5.8%)で、この14人の内12人が薬剤耐性変異を獲得していました。一方、VGCV群で 0人 であり、有意にMBV群で早期の薬剤耐性が発現しています。

この研究は、VGCVの内服が可能な血球数がある程度ある患者が対象となっております。具体的には、好中球数1000 /μL以上、Hb 8 g/dL以上、Plt 2.5万 /μL以上の方が組み込まれています。

血球数がある方に関しては、薬剤耐性の問題がありますのでMBVよりVGCVを使用した方が良いかと考えます(そもそもMBVには初めから使用する適応はありませんが)。

MBVの使い所

SOLSTICE試験の結果を見る限り、他剤で治療開始し、十分な治療効果が得られない時の変更先としては良い選択肢と考えます。CMVの治療開始後2週間までは耐性でなくてもウイルス量が増えることがあるので、3週目でもウイルス量が減らない時に、MBVの使用を検討するのがよいでしょう。

バリキサが使用できないような好中球数500 /μL以下、血小板数2.5万 /μL以下の症例こそ、MBVの真価が発揮できそうですが、このようなポピュレーションに対しての抗CMV薬の比較を行った試験はありません。
保険適応から考えるといきなりMBVは使えませんので、ホスカルネットから開始し、難治性のときにMBVヘ変更するといったやり方になるでしょうか。

実際に使われるようになってくると、経験値や報告が増えて、MBVの使い所がもっと分かるようになってきます。今後の報告にも注視していきたいと思います。

抗CMV薬の治療選択肢は広がりつつありますが、それぞれの特性を正確に理解し、適材適所で活用していきたいですね。


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