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白血病感染抄 Vol.9 ノカルジア

白血病感染抄 Vol.9

「白血病感染抄」は、血液疾患患者の感染症のCase reportを元に、勉強したことを書いています。
長い長い血液疾患治療の中の一部である感染症の部分を抜き出して見ていきますので、感染「抄」としました。

本日はノカルジアの症例を扱います。

◼️Thyroid nocardiosis: Case report and review of the literature.

Transpl Infect Dis. 2021 Aug;23(4):e13594.

原発性骨髄線維症から急性骨髄性白血病に進展した60歳男性が、同種造血幹細胞移植後に肺と脳と甲状腺に膿瘍を認めた症例です。

退院後すぐにキノコ狩りに行ったというのが、香ばしいですね!

膿瘍を穿刺して培養に提出し、原因微生物はNocardia farcinicaと判明しています。

PCP予防のST合剤の内服がちゃんとできていなかった症例かなと思って、読み始めましたが、なんとST合剤耐性のノカルジアでした。

このcase reportの考察にも書かれていますが、フランスからNocardia farcinicaの6/149 (4%)がST合剤耐性であったと報告されています(Clin Microbiol Infect. 2019 Apr;25(4):489-495.)。

ノカルジアとは

Nocardiaは、土壌や野菜などの植物、水などの日常的な環境に存在します。キノコにも付いていたのでしょうか?
糸状、数珠状のグラム陽性好気性放線菌であり、抗酸性を示します。そのためキニヨン染色で染まり、同じ放線菌であるactinomycesとの鑑別に使用されます。

日和見病原体であり、細胞性免疫低下がリスクとなります。HIV患者ではCD4 100/μl以下の時にノカルジア症を発症しやすくなると知られており、高度の細胞性免疫低下で発症しやすくなります。

ノカルジア症は典型的には多数の膿瘍を形成する化膿性感染症であり、亜急性から慢性の経過をとります。

ノカルジアの感染臓器

ノカルジアは吸入することで感染し、典型的には肺に空洞性病変を生じます。肺外疾患はノカルジア症の約50%にみられまふ。中枢神経に感染しやすい病原体であり、ノカルジア症の44%で脳膿瘍を認めます。ノカルジア感染の診断がついた時には、中枢神経系の画像検査を推奨している人もいます。少なくとも神経学的変化や人格の変化を認めた時には、脳膿瘍を疑う必要があります。肺と脳以外にも、あらゆる臓器に感染を起こすことがあり、本症例では甲状腺に膿瘍を形成しています。

ノカルジアの予防

PCP予防で投与しているST合剤で、ノカルジアも予防できるとされています。Molina AらはPCP予防をST合剤からアトバコンに変更してから、ノカルジアが1/575例から9/411例に増えたと報告しています(Biol Blood Marrow Transplant. 2018 Aug;24(8):1715-1720.)。

ST合剤で予防中している時期にも1/575でノカルジア症を発症していますが、ST合剤内服中のブレイクスルーは必ずしもST合剤耐性ではありません。日本からallo-HSCT後のノカルジア症のケースシリーズが報告されていますが、その症例の中にST合剤で予防中のブレイクスルー症例があります(Int J Infect Dis. 2019 Dec;89:154-162.)。この症例のN. abscessusはSTに感受性があったとのことです。

まとめ

今回の「白血病感染抄」では、同種造血幹細胞移植を受けた60歳男性に発生したノカルジア症を取り上げました。

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