とりあえず、出力。
いつまで燻ってんだ。
ここ数年のテーマはこればかりである。
日々の仕事に追われ、酒に溺れ、何も生み出せていない。
忙しいからしゃーないじゃん、という言い訳にずっとしがみついている。
なのに、周りの連中が、
本を出した
Vtuberになって人気が出た
漫画化された
アニメになった
みたいな話ばかりにタオルケットをガシガシ噛んでいる。
やればできるのに。
いつもお前はそればっかりだ。
パソコンが壊れたから。部屋の掃除ができてないから。エアコン無いし家が暑いし朝から晩まで仕事だしそもそも才能もないしやりたいこともないしまいにちまいにち鉄板の上で焼かれていやんなるんだよこんちくしょう…!!!!
いや、言い訳ですごめんなさい。こんなクズなのに生きててすいません。周りでどんどん成功していくのを見て羨ましがってるだけですごめんなさい。自分にはなにもない。なにもないんです。でもチヤホヤされたい。いやされたくない。反応すんのめんどくさいし。でもチヤホヤされ出る奴らは羨ましいし、そういうキラキラしてる奴らだけでキャッキャしてるの羨ましすぎるけど
べつにいいや。つかれるし。眺めてるだけでいいです。うごきたくない。MPがたりません。
ほんとにそれでいいのかな…
と思ったのが、今書き始めた動機。
わかっちゃいるんだよね。なにかすれば成功するとは限らないけど、何もしないやつに成功は訪れない。
わかりきってんだけどさーーーーーー!
動き出すのってすげーかったるいじゃん。書きたいものも特にない。あとからそうだったのか!ってなるようなすごいプロットなんて計画出来やしない。
自分にできること、なんだろう…何年も勤めた仕事だって苦手な業務が山程ある。
絵はちょっと描ける。落書き程度だ。でも使い慣れたペンタブとパソコンは永遠に失われてしまった。
声は好きかもしれない。いつも声を出す仕事なおかげで鍛えられた声帯はそれなりに様々な音色を出せるし聞きやすく分かりやすく発音するのは得意だ。
喋るのは苦手だけどな!
ほんの少しだけプログラミングを我流で齧ってたけど、今はもう廃れた技術だろうし、まぁツールをいじってやる気があれば使いこなせるのかもしれないけど、ワードとエクセルが致命的に苦手で、そもそもパソコンが無いわけで。
いや買えばいいんだけどさ、こう…ちゃんとしたのとなるとハードル高いし、そもそもこの孤独死した人のようになってる部屋を片付けないと置く場所が…掃除したくねぇ!!!!
と、堂々巡りにため息をつくわけで。
「このまま、なにも成せずにダラダラ生きて死ぬのかなぁ…。自分の人生、なんの意味があったのかな…」
独身、割といい大人と言われる年齢。恋人的な相手はいたんだかいないんだかみたいなふわっとした自然消滅寸前の繋がりだし、別に声を掛ける用事もない。ただ毎日やり過ごすだけの日々。
渇望はある。やればできるのに、というぼんやりとした焦燥。けれど何が作りたいという目的が見つからない。なにかして作り上げて褒められてチヤホヤされたい。
「でも、何を作りたいか全然わからんのだよ!」
「いや、書けてんじゃん」
…は?
「そのくすぶってる愚痴だけで、1200字超えてるって…。全然書けるねお前。テーマさえ与えればめっちゃ転がるわ。おもしれー」
「おもしれー、じゃねーんだが。なんだおまえ……」
スマホから、視線を上げて、絶句した。
思わず川柳になっちまったがそれはそれ。
ごちゃごちゃしたワンルームマンションの一室の窓際、居心地悪そうに背筋を丸めた長身痩躯の銀髪ロン毛紳士。見覚えない光景だが凄く見慣れた姿。
「なんで居るんだよ、ここに」
「いやー、話すと長くなるんだよねこれがさー。はじめましてひさしぶりーって感じになるけども、うん。まぁ君が困惑するのも無理はないし、ボクの姿がそう見えるのもまぁ、理屈は薄々わかってんじゃないかな?我は汝、汝は我…的なアレっていうかー」
「うっさい黙れその顔で微笑むなメフィ…」
「フェレス、って呼んで?」
いやまぁ、あれだ。若気の至りというか、わかる人には心当たりがあると思う。暇だった一時期、自分はとあるネットゲームに毎晩入り浸り、キャラクターの姿と名前を被ってそっちの世界で生きていた。そいつは自分の2つ目の体というよりは、感覚としてはガンダムみたいな自分の愛機…に近いような感じ。現代のようにヘッドセットとトラッキングツールで仮想空間に入り込むような高度なものじゃない。ほとんどの情報は自分や同席者の書き込むテキストデータ。その少ない情報から脳内にレンダリングされた鮮やかな空間は、いわゆるSFによくあるサイバースペースのようなもんだっただろう。ニンジャスレイヤーのコトダマ空間って言えばヘッズはわかってくれるけど、たしかにあの頃…本当にそこに接続できてた感覚はあって…
その頃のアバターが、コイツである。
顔だけは良い、性格最悪の悪魔。
あの頃の若気の至りの再現性高すぎて、死ぬほど恥ずかしくなってしまう。
「…で、フェレス。今更錆びきったオレを笑いに来たのか?」
「いやぁー、そこまでボクも暇じゃないですしー?たまたま別件でアテが外れたもんで。
ボクとお前のよしみだ。格安で契約してやってもいい。お前は今、くすぶっている。渇望を持て余している」
…そうだろう?とこちらに手を伸ばす笑顔がいちいち美しすぎてひどく気に障る。彼になりきっていろんな相手を口説いたり騙したり絶望に落としたりという一夜の擬似演劇に寝る間も惜しんではまり込んでいた記憶がじわじわ戻ってきて悲しくなる。あの頃の切れ味と万能感、もう戻ってこない熱狂。本当に何やってんだろ、自分…
「願いをきいてやろう。お前の魂と引き換えに」
足元に散らばるレジ袋を踏みつけながら、フェレスは顔を近づけてくる。銀糸の髪が揺れ、赤い瞳が心の底まで射抜くようにこちらを見つめてくるものだから、ベッドの端に座ったままだった自分は、後退るように背中を倒した。
「……っ、なんでも、……なんでもいいの、か?」
「あぁ、なんでもいい。悪魔に二言はないさ。なんでも、きいてやる」
こくりと喉を一度鳴らして、反らしかけた目を戻した。
「なにものかになりたい。何になりたいかまだ分かんねーけど、何かを作り上げて評価されて……ちやほやされたい!!すげーって言われて、売れて金も貰えてえいがとかそういうのにも、なって!!!」
自分でもびっくりするほどの勢いで言葉が転がりだす。中身も文法も全くなってない荒削りな渇望。具体性のかけらもない。
「でも、でもっ……!おれにはなにもねーし、書きたいものも思い浮かばないし…っ!」
「あるじゃん。書きたいもの。今めっちゃ出てるじゃん?」
虚を突かれて、目をシパシパさせた。
「いや、こんなのただの愚痴……」
「それでよくね?明治とかの有名な文豪とかさー、自分の愚痴とかしか書いてない奴らばっかじゃん?それで作品になって後世まで残るなら、これだってあり、じゃないかなー」
「そう、かな…?」
たしかに、と納得しかけた。太宰とか啄木とか、あまり読んではいないけど、そういうの、あったような気は、する。
「そーそー、そうだよー!そういうことだから、頑張って?」
「……へ?」
「頑張っ…て?」
ちくしょう、こいつはこうだった。やたら顔だけはいい。むかつく。
「願いは き い た し?叶えるとは言ってないし?」
「貴様……」
ひらりと優雅にターンして、汚い部屋に埃を立てないでほしい。
「だってさー、今のお前の魂なんてなんの価値もないじゃんー?もっと充実して輝いてないとさー」
それはたしかに。
「だから、なにものかになってみせろよ。ボクの認めるすごいお前になってみたまえ。
時よ止まれ…ってやつ、な?」
悪魔に魂を売ってみたら思ってたのとなんか違うんだがクーリング・オフは効かないんですか
みたいなのが始まるか始まらないかはわからないが、これだけ書けたのは小さな一歩かもしれない。