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作画崩壊?つまらない?『日本沈没2020』をテーマから読み解く

コンニチワ!サブカルおじさんTISM!です。

 今日はNetflixオリジナルアニメ『日本沈没2020』を紹介します。このアニメは「作画崩壊」と言われたり、いわゆる「ネトウヨ」の方々から批判されたりしてTwitterでネガティブな話題になっていますね。そこで僕が実際見てどう感じたのかを書きたいと思います。

 Twitterでよく見る指摘について僕の解釈を書きますのでどうしてもネタバレをします。見てない人は気をつけてくださいね。

1. 100%中立の評論はあり得ない

 感想の前に僕のスタンスを書いておきます。どんな批評や感想も100%中立など存在しません。書き手がどんな人なのかわかれば、読み手がそこを差し引きしながら読めるはずです。

 まず僕はアニメファンではなく、映画ファンです。映画を見る中にアニメもあるし、必要なら今回のように映画でないアニメも見る、という程度なのでアニメには詳しくありません。

『日本沈没2020』の監督は湯浅正明さんです。

湯浅政明さんの作品では

『四畳半神話体系』

『夜は短し歩けよ乙女』

『夜明け告げるルーのうた』

『きみと、波にのれたら』

『DEVILMAN crybaby』

『映像研には手を出すな!』

を見ています。「湯浅政明監督だから」という理由で見ているので湯浅政明ファンと言ってもいいかもしれませんね。

 原作『日本沈没』は読んでいません。映画やドラマも見ていません。なので、そことの比較はできません。

 実写、アニメに関わらず「推しキャラ、役者」がいたことはありません。「推す」なら作品単位なので、あえて「推し」と言う言葉を使うならば「箱推し」でしょうか。人よりキャラクターの造形にこだわりが無いと言えるかもしれません。

 こんな書き手の感想です。よろしくお願いします。

2. 作画崩壊?

 一番よく見かけるツイートに「作画崩壊」というものがあります。僕は2話まで見た時点では「湯浅政明監督の作品リテラシーがないからそう思うのだろう」と思っていました。なぜなら湯浅政明監督は人物や動物などをかなりデフォルメして描く作品が多く、そここそが湯浅政明監督作品の魅力だからです。

 例えば『夜は短し歩けよ乙女』のこんなシーン。

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 これは手を引かれて空を飛んでいるシーンなんですが、作画の正確さよりもシーンの勢いや伝えたいことを重視して、かなりデフォルメした表現になっていますね。これを作画崩壊と感じているのではないか、と思ったのです。

 (湯浅政明リテラシーがあるから良い、ないから悪いという意味ではありません。知らないのは仕方のないこと)

 ですが、最後まで見て、確かに今回はデフォルメでは片付けられないかな、と思うシーンがいくつかありました。例えばある施設にカイトが潜入するシーンでは、物語の必然性はないのに動きがカクついたりしていますし、1話で安定していた陸上シーンと10話の陸上シーンを見比べても筋肉の躍動とはとれなくもないが…と苦しい擁護にならざるを得ないところがありました。湯浅政明監督やサイエンスSARU(『日本沈没2020』制作スタジオ)の作画に慣れているかいないか、の問題では無さそうだ、というのが僕の感想です。

 僕はキャラクター造形や作画にそこまでこだわりはないので、あまり気になりませんでしたが。

3. 『日本沈没2020』のテーマ

 ネットで「つまらない」「意味がわからない」と言う意見を見ていると、おそらく「日本が沈没するパニックアニメ」としてだけ見ているのかな?と思うツイートがたくさんありました。もちろんそれはストーリーの話なので当然なのですが、このアニメにははっきりテーマがあると考えると全てに一貫性が見えてきます

 それは「【国】って何なのだろう?」ということです。国土が国でしょうか?政府が国でしょうか?宗教?人?習慣?それを考えさせる作品になっていると思います。

 それを考えると「意味がわからない」と指摘がある部分もわかるようになります。しかし、ストーリーだけでも自然に見られて、そこがテーマとも合致している作品が理想であることは間違いないですし、湯浅政明監督はそれができる監督だからこそ少し残念な部分もあったかな、というのが僕の感想です。「つまらない作品」と断罪するほどの作品ではなく、レベルの高い要求をしたくなる作品だと思っています。

 Twitterでの指摘が多い部分を、テーマに沿って僕なりに解釈してみます。

4. なぜ主人公をハーフにしたの?

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 僕の解釈したテーマは「【国】って何なのだろう?」だと言いました。すると当然、住んでいる人のことにも考えが及ぶはずです。ハーフ(ミックス、ダブル)の主人公を置くことで、僕らがそのことについて深く考える理由を与えています。お父さんが日本人、お母さんはフィリピン人。子供たちの「母国」ってどこなのでしょうね?日本?フィリピン?それとも両方?とてもいいキャラクター設定だと思います。

5. シャンシティの話が浮いている

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 シャンシティ、住人は否定していますが宗教の街と言っていいでしょう。ここでは宗教は国なのか?を考えさせられます。住人はなに不自由なく暮らし、満足もしていますが、自由の裏には独房があり、大麻があり、銃があります。それでも崩壊していく街を「ここが自分たちの居場所だ」と言い運命を共にする住人たち。ここぞとばかりに財宝を奪って逃げようとする幹部。シティという名称ですが国の縮図かもしれません。そしてそのトップには家族がありました。

 宗教と国というテーマのエピソードなのですが、確かに浮いています。マザーの能力も本物なのかトリックなのかはっきりとは描かれませんし、ちょっと怪しい不安感を感じたまま終わっていきます。ストーリーだけ追っていると「よくわからない」という感想もわかります。もう少し脚本のブラッシュアップが必要だったのかなとは思いますが、テーマには沿っていますね。

6. 右翼の脱出船

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 ここはとてもわかりやすいですね。国とは人種なのか?ここで主人公たちのハーフ(ミックス、ダブル)設定が活きてきます。「純粋な日本人」だけを乗せるという脱出船に、人種によって排除された主人公たちは憤りを隠せません。そして日本国旗を掲げて出港した船は事故により爆発霧散してしまいます。作り手の「差別は許さない」という姿勢がここにははっきりと現れています。

 このシーンの前、人を選別して乗せる国が用意した脱出船もそうです。富士山の爆発でうまく出港させられませんでしたよね?ここでも同じことをしています。もしかすると、その後、漂流中にすれ違った廃墟と化した大型船はこの船かもしれません。

 なので、右翼だから爆発させたのではありません。差別をしたから爆発させたのです。一部「ネトウヨ」の方々がお怒りのようですが、それこそ意味不明です。差別をしない自負があるのなら、この右翼はあなた方のことではありません。このシーンに怒るということはレイシストだと認めることになってしまいます。冷静になってください。

 主人公はじめ登場人物たちは国について、日本について考えていきます。それはラストの10話でよくわかるはずです。「ネトウヨ」さんたちも、もちろん僕も大好きな美しい日本の風景たちが次々に出てきます。右翼や愛国者さんたちが全く怒る筋のないお話です。落ち着いてくださいね。

7. 突然のラップ

 これもよく嘲笑ぎみにツイートで指摘される場面です。僕はこのシーン、むしろこのアニメの中のハイライトだと感じた場面です。

 それはズバリテーマそのものを語り合うシーンだからです。

 このシーンがラップでなくセリフだったところ想像してみてください。どうしようもないお説教になるか、説明セリフの応酬で目も当てられないダサいシーンになっていたはずです。『DEVILMAN crybaby』ではKEN THE 390、般若などバリバリの現役ラッパーや、木村昴というラップの上手い声優にラップをさせていた湯浅政明監督ですから、キャラクターそれぞれの【国】に対する考え方を、意思表明させるツールとしてラップという方法を取ったのだと思います。

 ラップする3人(+1人)がラップバトルのように相手の考え方にアンサーをしていくのです。しかもここではあえて決着をつけない。最後にカイトがはぐらかす。それぞれの考え方を否定しない作りになっていると感じました。

 このシーンは、地上波テレビでの『フリースタイルダンジョン』や、キャラクターラップなるジャンルを産んだ『ヒプノシスマイク』のヒットで、ラップが市民権を得た今だからこそ成立する手法です。これらに触れてない人や苦手な人には滑稽に映るかもしれませんが、理解のある人は確実に広がっていて、そんな人たちには伝わる手法だと僕は思います。

8. 10話の解釈

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 ラスト、日本は沈没して、生き残った日本に住んでいた人たちは近隣国に助けてもらいます。オリンピックに日本選手団が登場すると満場の拍手で迎えられますね。

 国土がなくなっても日本国民はいるし、写真や映像として日本の記憶は存在し続けます。今は無い美しい日本や活気のある日本の姿です。そして家族との記憶がここで伏線回収されることで涙腺を刺激されるのです。少なくとも国とは国土のことではないのではないか?と思わされるラストです。見た人それぞれが「【国】って何なのだろう?」そんなことを考えさせられるとってもいい作品でした。

9. まとめ

 長々と書いてしまいましたが、どうでしょうか?納得できる人が1人でもいたら嬉しいのですが。

 全体の僕の評価としては、テーマとストーリーが完全にうまく噛み合ったとは言えない出来で、ストーリーだけ取り出すと、ちょっと説明不足なところができてしまったかなあと思います。作画は確かに今回ちょっと雑さが出てしまったかもしれません。再度書きますが「つまらない」と断罪するほどの作品ではなかったと僕は感じました。名作をたくさん産み出してきた湯浅政明監督にはもっともっと高いレベルの作品を期待してしまいます

 この作品に限らず、「意味がわからない」「つまらない」と感じたら、どうしてそう感じたのか考えたり、面白いと評価している人が具体的にどこを評価しているのか、聞いたり調べたりすると、好きになる作品が多くなってもっともっと趣味が楽しくなるんじゃないかなあ、なんて思いながら書きました。

読んでいただきありがとうございました!

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