リコール署名偽造事件で裏切られた?「真面目なボランティア」の実態
いよいよリコール署名偽造事件についての裁判が始まりました。新聞各社は傍聴に集まった元リコールボランティアたちのコメントを掲載し「真面目に署名活動に参加したボランティアや応援してくれた人の名誉のためにも、事務局長らには誠意をもって県民に謝罪をしてほしい」という言葉を何のサジェストもなく載せています。ルールに則った署名活動をしたか、という点においては確かに「真面目」だったかもしれません。しかし大村知事リコール運動の主張や街宣には多くのデマやヘイト、誹謗中傷が含まれていたにもかかわらず、偽造署名という「犯罪行為」に対しての「真面目」と位置づけることでそれらが隠れてしまっていることには違和感があります。そこで、リコール運動はどう「真面目」に行われていたのか、それを知った上でも「真面目にやったのに裏切られた人たち」だと思えるのかどうか、経緯や実態を解説します。
リコール運動に参加していたヘイト団体代表
9月25日、川崎市でヘイト団体「日の丸街宣倶楽部」代表の男が逮捕されました。以下、神奈川新聞を引用します。
ヘイトスピーチに反対する市民を路上に突き倒したとして、神奈川県警川崎署は25日、暴行の疑いで、海老名市上今泉1丁目、ヘイト団体代表で会社員の男(53)を現行犯逮捕した。
逮捕容疑は、同日午前9時50分ごろ、川崎市川崎区のJR川崎駅東口の駅前広場で、千葉市在住の男性(49)に体当たりして転倒させた、としている。
男は、川崎市や相模原市で外国人差別・排斥を繰り返す日の丸街宣倶楽部の代表。
この男というのは日の丸街宣倶楽部の渡辺賢一。大村知事リコール運動期間中にはたびたび愛知県に来て、主に東岡崎の駅で旭日旗を掲げて排外主義を訴えながら街宣していた男です。偽造署名発覚後には高須会長に「をいをい!不正署名の件はどうなったの?不正はいけないよね。」と引用ツイートをしていますが、果たして彼は「真面目なボランティア」でしょうか?
リコール制度を盾にしたヘイトスピーチ
リコール運動ではこの渡辺賢一だけではなく、瀬戸弘幸、西村斉、荒巻靖彦、九十九晃、小林宏介などなど有名なレイシスト、ヘイトスピーチの常連たちが全国から集結していました。彼らが街宣にくるたびに地元のリコールボランティアたちは喜び、応援し、街宣を手伝ったのです。これにカウンターとして抗議をすれば「リコール妨害だ」と騒ぎ、警察と揉めることになるなど、リコールの制度をヘイトスピーチの盾に使われてしまったというのがリコール運動当時の愛知県の状況でした。
選挙運動を盾にしたヘイトスピーチと同じ状況ですが、選挙は2週間で終わります。しかしリコール運動は最低でも2ヶ月。選挙がある地域は期間は後ろ倒し。大村知事リコールの場合8月25日〜12月19日という約4ヶ月間もこの状況が続くという地獄のようなことになっていたのです。直接請求制度を盾にした新たなヘイトスピーチの方法を編み出されてしまったかたちです。
活動当時からこれは批判されていたのですが、高須克弥会長はヘイトに加担しているとの指摘に対して「リコールに賛成して下さるかたは全て呉越同舟」と容認までしてしまう始末。愛知100万人リコールの会はヘイトだとわかっていて一緒に活動したことになります。
大村知事へのデマと迷惑行為
リコール署名の集め方にも問題がありました。チラシにはTwitterで拡散している事実誤認のデマが掲載され、ボランティアたちの街宣では知事の発言捏造も行われました。「大村知事は日頃から言ってるそうです。『愛知県民は無知で馬鹿だから、あいつらからどんどん税金とればいいんだよ』そう言ってるそうです」そんな話をでっち上げている動画も残っています。
さらには安城市の大村知事の事務所前にも在特会や日本国民党のリコールボランティアたちが街宣車を使って何度も大音量の街宣をして攻撃が行われました。路上での署名活動との名目ですが、三河安城駅前から離れた路地にある事務所。人通りはまばらで署名活動には全く適した場所ではないことからも大音量での攻撃が目的であることは明らかです。僕も間近で街宣車を見ましたが、選挙カーとは比べ物にならない音量です。これらも「真面目な署名活動をした人」に含むのでしょうか?
高須 VS 烏合の衆
さて、逮捕された渡辺賢一が街宣をした岡崎市といえば、リコール期間中に選挙があったので12月19日が署名期間の最終日になる県内で一番遅くまで署名期間が残った地域。そのため10月19日、岡崎市には「愛知100万人リコールの会 岡崎事務室」ができ、リコール運動後半戦の拠点になるはずの地域でした。高須克弥会長も事務室を訪れ ツイートをしています。
しかしこのあと不正署名があるのではないかとTwitterが騒がしくなると、11月7日には高須会長の体調不良を理由にリコール運動の活動休止を発表します。これに反発したのがリコール期間を残した岡崎事務室。最後まで署名期間を全うするとして署名集めを続行するのです。この対立で高須会長が岡崎組に言い放ったのが「烏合の衆」。岡崎事務室やリコール続行を応援する人たちは自ら進んで「烏合の衆」を名乗り、活動をつづけました。そして偽造疑惑を追及するリコールボランティアの急先鋒として、反高須、反事務局の色を強めていきます。
彼、彼女らの中には排外主義政党である日本国民党の党員も含まれていたり、ヘイトスピーチ常連の受任者もいて、一般のリコールボランティアらをリクルートする場にもなっていました。実際に党員になったり、百万円を超える高額な寄付をする者も現れました。偽造という犯罪行為に反対し追及までしていた彼、彼女らに、このことを知った上でもなお「純粋な気持ちで取り組んだ」のだからと同情する気もちになるものでしょうか。
"日本人へのヘイト"ポスター事件
今年7月、リコール運動の発端ともなった「あいちトリエンナーレ」の中の企画展「表現の不自由展・その後」の再展示を含む「私たちの『表現の不自由展・その後』」が開催されました。開催前から大きな話題となり、会場となった市民ギャラリー栄前では爆音で抗議活動が連日行われました。
ここに参加したのもまた、反高須、反事務局の岡崎組を含む大村知事リコール運動に参加したボランティアたちでした。ヘイトスピーチを繰り返す「頑張れ日本!全国行動委員会」や、リコール運動でも活躍した「愛国倶楽部」、「在特会」などの姿も見られました。その中で事件は起こりました。
公安2課によると、女は7月3日午後3時10分ごろ、名古屋市の施設「市民ギャラリー栄」に無断で侵入し、ホワイトボードに「日本人へのヘイトスピーチも許さない」などと書かれたポスター数枚を貼った疑いがある。法務省が作成した「ヘイトスピーチ、許さない」というポスターを加工したものだという。関係者が気づき、中署に通報した。
犯行現場の写真をリアルタイムに投稿したアカウントがリコール運動で活躍したボランティアであることから、彼女の犯行ではないかとみられていています。抗議活動をする人たちが集まっている場で行われたこの事件、周囲の人間も止めなかったのかという疑問も湧いてきます。この行為が許されない犯罪であることは当然ですが、立場の弱い者へのヘイトスピーチ防止を呼びかけるポスターを目の敵にした犯行にそれ以上怒りが湧いてきます。この事件はリコール運動事後に行われましたが、リコール運動と地続きの事件であると断言します。
まとめ
ここまで書いてきたとおり、大村知事リコール運動はまともな運動ではありませんでした。主戦場はTwitterで行われ、そのデマとヘイトを見て扇動された一般の人たちがリコール制度の名の下に実際に集まり、ヘイトスピーチに加担してしまった運動だったのです。こんな運動の果てに偽造署名事件が起こるべくして起こったのです。
今の報道だけを見ていると、偽造署名を知らずに活動していた人たちがあたかも「裏切られたかわいそうな人」のように見えることには苛立ちを隠せません。偽造署名などなくても非難に値する運動だったし、実際に非難されていた運動だったのです。それが前代未聞のリコール署名偽造事件に上塗りされてしまっただけなのです。
彼、彼女らの中には今でも排外主義やヘイト、デマをツイートしたり拡散したりし続けている人がたくさんいます。今は偽造署名の報道になるのは仕方ないかもしれませんが、大村知事リコール運動とは何だったのか、「真面目に署名活動した人」とはどんな人だったのか、しっかりと検証して報道して欲しいと思います。