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ARMORED CORE4 File.1微睡

⚠こちらの小説はAC4発売時の広告用の店頭フライヤー小説を転載した物です。わたくしちろるの作品ではありません勘違いしないでお読み下さい!

ーー1ーー

セーラはドライバーシートに身を沈めていた。
外からローターの風切り音が微かに聞こえる他は
時折、 小さくセンサが鳴るだけだ。

現在、彼女と彼女のネクストは密閉型輸送VTOLに
格納され作戦領域に向かっていた。
移動中の今もネクストの統合制御体は稼働を続け
セーラの脳には各種データが送り込まれていた。
延髄を経て脳とACの統合制御体が直接データをやりとりをするAMS(Allegory-Manipulate-System)はネクストを特徴づける最先端技術の一つだ。

現在彼女に送られているデータは作戦地域への経路、現在地経緯度、気温、気圧、高度、各種無線等。
それらの情報量は人間の五感で得られる感覚を遥かに上回る。

仮に常人がその情報量を脳に流し込まれれば、頭蓋に響き渡る轟音や意味不明の旋律、脳に異物を無理矢理混入したような重圧となる。
長時間さらされれば確実に発狂するだろう。
しかし彼女はそれを映像や音声として脳内で再現し
瞬時に把握する。

それがネクストの搭乗者たる“リンクス”の生理的特性だ。戦闘となれば今よりも遥かに多くの情報が
流し込まれ凄まじい重圧を受けることになる。
だがそれらを処理しダイレクトにネクストを
駆れなければ戦場に立つことはない。

『セーラ、今の状態はどう?』
オペレートを担当するニナ管制官が無線で呼びかけ、セーラは唇を意識した。
「問題ありません。何も。いつも通りです」
唇を微かに震えさせ、セーラは声を作る。
自分自身とマシンの境界を確かめるように。
『そう今日の任務はいつもよりも広範囲に亘るから、適応上限に気をつけてね』 
「ええ、よく分かっているわ」
セーラは明瞭な声を出した。

輸送VTOLはレオーネメカニカ社の開発局がある
ロンバルディアを出発しアルプスを越えてバルト海を目指していた。

目的地はスカンジナビア半島。
今は廃墟となった旧ストックホルム市街に反乱勢力が集結しているとセーラは聞かされていた。

「もう、眠ればいいのに」
『何か言った? セーラ』
ニナ管制官が答える。
「旧世界の亡霊が眠っていないって言ったのよ・・・・・・
歴史は私たちが世界を動かすことを選択したのにね」

ーーーー

企業連合体(パックス)は国家を武力で解体した。
その過程で多くの血を流し、街を田園を森を焼いた。だがそれは内乱とテロが続く世界に終止符を打つための戦いだった。
『そうね』
ニナ管制官はそれだけ答えた。
そして輸送VTOLの情報管理席に腰掛けながら
しばし考えに耽った。

(あれが一四歳の子供の言葉だろうか・・・)

ニナはインテリオルの研究所に連れて来られた時の
セーラを思い出した。
ライトブロンドの髪をおさげにしリンゴのような真っ赤な頬をしたとても愛らしい子だった。戦災孤児でもいつも明るく朗らかな優しい娘だった。そして思春期を迎えた今、セーラは美しい少女に成長していた。
しかし今の彼女は以前とは変わっていた。

(機械神に仕える巫女)

ふと、ニナの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
しかし今の彼女を作ったのは自分たち、企業の人間だ
・・・究極の戦闘機械を操る存在リンクスを育てるために

輸送 VTOLの航法士からドレスデン上空を通ると
連絡が入った。ニナはモニタの一つを外部カメラに
切り替え、かつてドレスデンがあった場所を眺める。

ドレスデンはヨーロッパ連合内戦で屈指の激戦区と
なった街だ。 モニタの中には第二次世界大戦の悲劇を
再現したような焼け野原がどこまでも広がっている。

この凄惨な焼け野原とて、パックスの蜂起がなければ他の無数の街にも広がったはずなのだ・・・
ニナはそう、自らの行為をそう肯定した。

ネクストとは従来のACを遥かに上回る、
新世代のアーマード・コアのことである。
それは時速千キロで疾走し、最新鋭のジェット戦闘機よりも機敏に空を飛翔する。そして攻撃を無効化する粒子装甲 (プライマルアーマー)を身に纏い、
全ての既存兵器を文字通りなぎ倒す。

最先端科学が産んだ奇跡のマン・アンド・マシン
それがネクストだ。
パックスはテロと内戦で疲弊した世界に見切をつけ
ネクストの力で国家を解体した。
そして自ら支配を始めて五年が経つ。
だが今なおネクストの圧倒的な力に屈することなく
抵抗する者が世界各地にいた。

イタリア北部を発ってから僅か二時間後・・・
輸送VTOLはバルト海を横断し現在はスカンジナビア半島の沿岸上空を航行中だった。

ーー2ーー

旧ストックホルム市街までは約十分の距離である。
輸送VTOLの外部カメラからかろうじて残っている町や村が望めた。そして先に射出した小型の無人偵察機
からもリアルタイム映像が送られてきていた。

セーラはそれまで計器類のチェックをしていたが、
データが来ると同時に脳内で映像データの処理を行うそれに伴い脳が膨大な量のアドレナリンの放出を
始める。脳内の糖分が不足し底のない飢餓感と不眠のような重苦しさが彼女を襲った。
しかしセーラはそれに耐え映像を脳裏に再生した。

ストックホルムは五百年の歴史を持つ古い街だったが、今では世界中どこにでもある廃墟と化していた。

石積みのアパートメントは壁しか残らず、聖堂は天井が焼け落ち真新しい高層建築も半ばから折れていた。 インフラは完全に破壊され、人が生活している様子はない。ただメラーレン湖に浮かぶ二万四千の島々だけが北欧のヴェネチアと呼ばれていた頃の面影を残していた。しかしその島々を結ぶ橋の多くは失われ孤立している。確かに反乱勢力が身を潜めるには都合のいい場所だった。

(戦闘にはいい舞台だ)

セーラは民間人を巻き込まずに済みそうなことに
安堵した。ネクストのメインシステムが起動し
ジェネレータの冷却音がコクピット内に響き渡る。

そして無人偵察機と偵察衛星の情報がリンクし、
作戦用のマッピングが行われると、現在把握している排除対象が光点で明示された。 島々に点在するその数をセーラは二十と見積もる。 確かに最近ではなかなかお目にかかれない規模の反乱勢力だった。

『セーラ、準備はいい?』
ニナ管制官から確認の無線が入った。
「はい・・・・・・いつでもどうぞ」
セーラがネクストとの接続レベルを適応上限まで開放すると戦闘モード用の映像データが延髄に流し込まれた。そしてセーラの目に輸送VTOLのペイロードの壁が見えるようになる。ペイロードのハッチが徐々に開きネクストを固定していたジョイントが次々に解除されていく。

セーラは飛行ユニットを意識し、確認する。
計算上の出力特性に異状はない。
機体を固定するジョイントは全て外された。
ネクストがレールの上を滑り出したかと思うと、
アズライトブルーの巨体は眩い陽にさらされた。

ーーーー

飛行ユニットにエネルギーを送り、推進力を得て高度二〇〇〇を維持。セーラが輸送VTOLを見ると戦闘に
巻き込まれないよう急上昇していた。
滑らかな曲線で構成された蒼い機械神は北欧の蒼空に融けながら排除目標を目指した。

セーラは迫り来る対空ミサイルの群に気づいたが
回避行動をとらずに直進を続ける。PAを起動させ
オーバードブースト、一気にミサイルの群を突っ切る。
対空ミサイルは次々とネクストに着弾した。
PAの表面が春雷のように輝き、無数の輝く枝を生じさせたが衝撃が貫通する前兆は皆無だ。
白煙と爆炎そして爆発の衝撃波の中をセーラは力で
押し切った。乱暴な戦法だが・・・彼女は自らの
“ブルー・ネクスト”を信じ切っていた。

セーラはブルー・ネクストを急降下させ超低空飛行で中世の面影が残るアパートメント街の谷間を疾翔する

建物の陰から二足型MTが現れて銃口をセーラに向けたがMTが照準を終える前にブレードで斬って捨てた。 爆発音が響き渡る頃、ブルー・ネクストは街路の角を曲がり、次の目標を探していた。

(・・・・・・弾薬が保てばいいけど)

圧倒的な機動力と絶対的な防御力を誇るネクストだが攻撃力に関してはノーマルと比べて絶対的な差はない駆動系のパワーの分より多くの武装を装備できる
程度だ。

セーラはクイックブーストでアパートメント街を抜け湖上に出た。人間が住まなくなって五年経った
メーラレン湖は静かに深く澄んだ蒼を湛えていたが、
ブルー・ネクストのブースタが穏やかな湖面に大きな波を生じさせた。

小島の一つからノーマルが飛び出しグレネードを撃ってくる。 セーラはそれを空中で回避し、マシンガンを連射しながら最大戦速で突撃。 ブレードを横に薙いでコアと脚部を一刀の下に切り離した。
間をおかず今度は四方の島々からノーマルの
スナイパーライフルによる狙撃を受ける。
しかしそれもセーラはクイックブーストで回避した。 普通では直撃必至の攻撃でもネクストが回避できるのはAMSの恩恵による。

セーラはすぐに反撃を試みたが狙撃してきたノーマルは既に遮蔽物に隠れ、残り三機も同様に姿を消していた。セーラは訝しみ、口を開いた。

「ニナ。 今回の敵は妙な戦術機動をとる。解析して欲しい」

ーー3ーー

セーラには今回の敵の行動が単なるヒット・アンド・ウェイとは思えなかった。普通、包囲を完了すれば
攻勢に移るものだ。

『ええ、それはこちらも気がついていたわ。 遅滞行動をとっているんじゃないかしら』
間髪入れずにニナ管制官から返答があった。
「逃げる?これだけの戦力を集結させたのにまた
ゲリラ戦術に戻すつもりなのか? 向こうもネクストの投入があることくらいは想定しているはずだ」
『そうね。 でも反抗のために戦力を集結させたのではなく別に目的があるとしたら遅滞行動をとるかもしれない』
「別の目的? それは何?」
『そこまでは分からない。 ただ、敵の動きから遠ざけたい何かがどの辺りにあるかは分かるわ。少しかき混ぜてみてくれる?』
返事をする間も惜しみ、セーラは後退したノーマルを追い始めた。

そしてすぐに崩壊したビルを遮蔽物にしているノーマルを発見し、セーラはマシンガンをバーストで撃つ。

ガン、ガン、ガンと乾いた音がコクピットに木霊したマシンガンの弾はビルを突き抜けてノーマルに命中
ノーマルはビルから離れジャンプして水路の上に出る

ノーマルを直接視認し、セーラは一瞬の間も置かずにマシンガンのトリガーを引いた。ブルー・ネクストは発射の反動を腕関節部だけで吸収し、極めて正確な
射撃を行う。無数の弾が跳躍中のノーマルを捉え、
数秒後にはその装甲を完膚無きまでに変形させた。
そしてノーマルは湖中に没し、数秒後、巨大な水柱を上げた。
まだ敵機を現す光点は複数残っていた。
セーラは次の目標を発見次第、サイトに入れ、ロックオンしトリガーを引く。 結果、敵機は破壊される。
その一連の動作をセーラは機械的に続けた。
数分が経過し、ロックオン対象がなくなった頃、
セーラは都市部の郊外まで来ていた。
周囲に廃墟はなく、かつては大農地だった荒地が広がっていた。レーダーの光点はもう現れなかった。

(・・・・・・これで終わり?)

訝しんだセーラはセンサの情報を細かく拾った。
そしてデジタル暗号化された軍事無線がまだ

ーーーー

飛び交っていることに気づいた。
その時、ニナ管制官が悲鳴を上げた。
『セーラ、敵の目的が分かったわ。 反乱勢力は民間の造船ドック跡で巡洋艦を作っていたの。あの遅滞行動はセーラを新造艦から引き離すためだったのよ!』
輸送VTOLも当然にデジタル暗号をキャッチしていたのだろう。
「新造艦・・・それは何?」
『一六〇メートル級の、おそらくイージス艦。 今、出航したわ・・・それに・・・・・・』
ニナ管制官の言葉が終わらない内にブルー・ネクストの統合制御体がセーラに警告を促した。
セーラはセンサを確認しその意味を瞬時に把握した。地下五〇メートルで核融合反応級の高エネルギー反応が生じていたのだ。

(クリーン!?)

クリーンは放射能を出さない究極の核兵器である。
ただし普通の核爆弾と違って起爆に極めて複雑で繊細なプロセスを要し、核融合炉を搭載する構造上、巨大なものになる。 兵器としては使い勝手が悪く量産されなかったのだがそれを地雷化したに違いない。

地下の高エネルギー反応は激しさを増し制御不能寸前のプラズマが更なる核融合を促し数秒後、ごく微量のプルトニウムを熱とヘリウムに完全変換した。

セーラは脳裏でPAの出力を最大にしブルー・ネクストをフルブーストで宙に翔け上がらせる。
ネクストは最先端科学を結集して作られた戦闘機械
だが核融合反応に耐えられるかどうかまでは誰も
分からない。

地面が衝撃波で盛り上がり、割れた。
そして大地を閃光が貫き、刹那の間に天に楯突くかのように青い空に広がっていく。しかしブルーネクストはまだその青い空を飛翔していた。

地上に降りた太陽の輝きから逃れられず、
セーラは静かに光球に飲み込まれていったのだった。

ーー1話完ーー