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社員が選挙に出馬したら?
今回からは、過去の有名な判例について紹介していきます。
なお、私は文学部卒のただの社労士受験生なので、専門的な解説は期待しないでください。一応受験経験者ではありますが。あと個人的な感想が入りまくります。中立的な解釈も期待しないでください。
それから、このシリーズではCanvaのテンプレートから毎回同じモチーフを使ってトップ画像を作っているのですが、このテンプレートがだいぶ下の方にあり、まずそれを探すところから始まります。毎回使うやつは上の方に出すとかできないんですかね。
このシリーズは、この本をテキストにしています。
来月にはリニューアルバージョンが出るらしいのですが、間に合わないので今のバージョンでいきます。
このテキストどおりでいくと、記念すべき第1回は、おそらく労働法の判例の中でもっとも有名な三菱樹脂事件になるところでしたが、今週の日曜日に衆議院選挙があるということもあるので、2番目に掲載されている選挙がらみの事件を取り上げます。
青森県に、十和田観光電鉄株式会社という会社があります。名前のとおりかつては鉄道を運行していましたが、東北新幹線が開通したり、東日本大震災で被災したりして、2012年に鉄道事業の継続を断念し、今はバス会社になっているそうです。(出典:Wikipedia)
その会社で労働組合の幹部をしていたAさんは、その労働組合に推されるかたちで、地元の市議会議員選挙に出馬し、見事当選します。
市議会議員になったAさんは、会社に対し、議員をしている間は休職扱いにしてほしいと申し出たのですが、会社は、「使用者の承認を得ないで公職に就任した場合は、懲戒解雇する。」という就業規則(社内のルール)に違反するとして、Aさんを懲戒解雇にしました。そこで、Aさんは、このような就業規則は無効であり、懲戒解雇も無効だとして訴えました。
判決では、「普通の解雇にするのならともかく、懲戒解雇にするのは、労働基準法の規定の趣旨に反し、無効だ。」という結論になりました。
労働基準法第7条には、次のような条文があります。
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、または公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合には、拒んではならない。ただし、権利の行使または公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
「公民としての権利」には被選挙権も含まれるのですが、使用者は、請求された「時刻」を変更することができる。つまり、「今は忙しいから、後で行って」と言えるに過ぎないと解釈できます。議員になったので、任期の4年間を休職扱いにするというのはこの法律の想定するところではないと思われます。
だからといって「懲戒解雇にする」という就業規則を作ってしまうのはやりすぎだと思いますが、せめて選挙に出馬する前に、会社にお伺いをたてておく必要はあったのではないかと思われます。していて断られたのでやむなくということなのかもしれませんが。
その後彼がどうなったのかは分かりませんが、普通に考えて、議員が会社員と兼業したりすると、議員がその会社に便宜を図ることが容易に想像できるので、国会議員でも地方議員でも、議員と会社員の兼業はできないはずです。だから、普通の会社員が選挙に出るためには、その会社を辞めないといけません。それでもし落選したら、たちまち無職です。年齢によっては再就職も満足にできない可能性があります。
私が今まで何度もこのnoteで書いてきていますが、こういう現実があるので、まともな感覚を持っている人は、選挙になんか出ないんです。この十和田の議員さんは労働組合の推薦ということで地盤があるので、議員になってもならなくてもそれなりに地位は安定していると思われますが、世の中そういう人ばかりではないのです。いくら政治に対して主張したいことがあってたとしても、供託金の300万円と、人生をかけた挑戦はなかなかできないものです。それよりも今はnoteとかSNSでその主張をできるという便利な時代になりました。だからなおさら選挙に出ようという人は少ないのです。
…と言いながら、今回の衆議院選挙にも結構出ているんですけどね。(私の住んでいる京都には、1区に77歳主婦、2区に32歳の自称インフルエンサーが出馬しています。1区の77歳主婦は、選挙のポスターも貼っていないし、選挙公報の原稿も提出しなかったそうです。テレビのインタビューには答えているんですが、議員になって何をしたいのかは分かりません。)ただ、そこまでして主張したいことがそれかというトンデモな人が多いのが理解できません。「弱い立場のあなたを応援します!」といっても、供託金の300万円をポンと払える時点で弱者ではありません。有権者はそれを分かっています。だからいつも選挙でだれに投票していいか分からないので、投票率も上がらないのです。
どこかの会社(業界の大手だったと思います。)では、選挙の期間中は休職扱いにして、もし落ちたら従来通り仕事復帰できる制度があると聞きますが、そういう会社ばかりではありません。1回は当選しても、2回は当選しないかもしれないし、人生のキャリアがほとんど議員というのもそれはそれで民主主義的によろしくない。(特に日本の)キャリアと議員というのは相いれない存在です。
この判例はもう60年以上前のものですが、未だにこのあたりの問題は解決されません。というかもうそろそろアップデートしてもおかしくないんですけどね。なにも雇われるだけが労働ではないし。このあたりの問題が解決できれば、真に大多数の国民の立場を分かった議員が生まれるかもしれないのですが。