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【53/54話覚書】他人に分け与えることができればもっと楽しい(スキップとローファー)

2023年8月25日更新のスキップとローファーの感想と、現時点での咀嚼具合を残すための覚え書きです。53話の感想は書いていませんが、ちょっと触れます。
一応先に伝えておくと、これは私の現時点での解釈であり、他の方の解釈の否定でも未来の自分の否定でもありません。

それでは行ってみましょう!
スキップとローファー53・54話のネタバレがあるので注意してください!


気を張らなくて良い関係

 都会の進学校の日常を普段描いた漫画の中で石川帰省ののんびりとした描写が続くと時間感覚が緩くなる気がします。ページの作りもなんだかダイジェスト描写が多くて、みんながたくさん土地を巡って思い出を作っている様子が補完できました。
 市場見て、アイス食べて、ナオちゃんに奢ってもらい、車の窓から海を眺めるページ、みんな楽しそうでこちらも微笑ましくなる。みつみ実家に遊びに来てから、志摩くんだけでなくミカちゃん、迎井くん、ゆづ、まこの飾らない関係がたくさん描写されていますね。今回の話では志摩くんは色々ポカをするんですが、取り繕わずそのままで嫌われないことに改めて気づきました。
 他の方の感想を見ていると、化粧せずすっぴんで砂浜を歩き帰っていたミカちゃんや寝起きの頭のまま出てくる女子陣に触れていた方がいらっしゃいました。気の置けない友達でも化粧してバッチリ着飾ったり気まぐれにいつもとは異なる特別な装いをしたくなる時があるので、着飾らない=本当の友達ではないですが、そもそも今日のコンディションがどうかとか気にせずいられることって素敵だと思います。
 坂道で足を滑らせてしまったり、お腹壊したり、普段のそつなく待ち受ける出来事を流してしまいたい志摩くんにとっては予定していないイベントでちょっとリズムが崩れる。でも、いつも学校で見せるパブリックな顔と違っても、その違いにすら触れない友達が志摩くんにはいます。迎井くんは銭湯で志摩くんに相談した際に、いつも志摩くんをどう認識しているかを共有していました。この場面のように、普段は相手の選択を尊重するがアドバイスを求められた際に手を差し伸べる準備ができていること、それが現代で受け入れられやすい理想の友達像だと思います。(是非は置いておいて)

一挙一投足が気になる志摩くん

 予定外のイベントに挙動がおかしくなる志摩くんですが、好きだと自覚した(と思って良いと思います)相手にどう思われるか一挙一投足が気になって来ました。相手の目前でおかしいことをして幻滅されないか、悪いイメージを与えないか、自分の気持ちが相手に気づかれないか、(周りの望む自分を演じられているか)とか瞬間ごとに意図を行動に反映させたいと思って頭がぐるぐるする。もう日常生活が送れなくなりそうです。学校来てね!
 でも彼らは友達同士なので、変な格好したり失敗しても気にしません。そのことに志摩くんも気付けました。それに志摩くんはみつみの入学式の一件があっても友達を続けましたし、人間としてそつなく動けたりスマートであることは良質な人間関係には絡まない。そしてそこを気にせず好きになってくれたみつみは、今まで志摩くんが考えていた恋愛の枠組みから全く離れた枠組みを持っています。

53話の赤面はどういう意味なのか

 前回の53話で志摩くん一面赤面ENDを決めました。私が53話のブログを書かなかったのは単純に咀嚼できなかったからでしたが、ちょっと書いておきたいことがあったので残しておきます。
 先にみつみが志摩くんに渡していたキーホルダー・煎餅・チョコレート・バインミー・カニ🦀はどういう意味を持っていたのか。メタ的に考えると、①みつみの「分け与える能力」の象徴、志摩くんからしたら②みつみに感情を表明してもらった記憶になると思います。

 みつみは他の人と感情をシェアするのが好きです。それに共感能力は高い方で、口には出さずとも想像力を働かせることができる。作品の端にも散りばめられていて、共感できないことを恐れるより共感できる可能性を信じるタイプ(と敢えて書きます)。

・バスの車窓から見える東京の夕焼けと田んぼを高嶺先輩と見る。
・文化祭の説明会に出席したあと規模の大きさに対する驚きを志摩くんに伝える。
・化粧の練習をした後にミカちゃんに電話をかけて失敗を一緒に笑い合う。 ・バスケ試合に志摩くんに浅漬けを渡したいと思うから渡す。

わたし

 みつみが渡したキーホルダーは「自分が慕う相手からもらうからプレゼントは嬉しい」という気持ちを理解し合えた瞬間、煎餅も「志摩くんの隠隠滅滅具合を察してささっと変える」気遣いなどみつみの共感能力を表していると思います。以上から、作品的にはみつみの持つ「感情をシェアする能力」をまとめたと解釈できます。
 続いて一人しか選べない俎上に乗った恋愛編では、テイクアウトで一緒に食べるには場所を用意する必要があるバインミーを買ってくる特別仕様に「相手を喜ばせたい」という感情が出ていました。
 いずれにせよ、志摩くん視点では「自分を楽しませたい・喜ばせたい」という気持ちを表明してもらった記憶になるでしょう。
 以上から、たった一個の特別な感情から志摩くんが連想したキーホルダー・煎餅・チョコレート・バインミー・カニ🦀は①みつみの「分け与える能力」、志摩くんからしたら②みつみに感情を表明してもらった記憶と解釈します。

 志摩くんはそこからみつみのどういうところが好きで、誰といたら自分は心地よくいられたのか、を理解して赤面したのではないでしょうか。
 みつみの他人の反応を恐れず分かり合えないことを諦めず共感を目指す姿勢が好きで、自分がしたくても出来ない無意識の理想的な人格を持つ人物であること。みつみは自分にも分け与えてくれるし、決して押し付けではないから心地よい。こんな人なかなかいないですね。

 そして不器用ながらも志摩くんも感情を返そうと行動を起こしたこともありますね。クリスマスにハンドクリームを渡して喜んでくれることに心地よさを感じていました。プレゼントは自己満足でしかないが渡したいから渡す、という「利己的」な姿勢は確かに志摩くんの恋愛感情の萌芽だったと今は思います。
 志摩くんがみつみに対して通常対女子モードと違ったのは、「自分も誰かに分け与えたい」とアファーマティブな姿勢をグロテスクな世の中に対して初めて持った相手だから。

 ここからは作品に私の思想が入り込みます。苦手な方は読み飛ばして下さい。
 志摩くん引いては現代人に必要なのは、他人に対して期待せずお互いを放っておく消極的な多様性ではなく、共感を目指す積極的な多様性だと思います。この作品が好きな理由は、消極的多様性を推進せず、積極的多様性が人間同士の繋がりにおいて必要だと啓蒙しているように解釈できるからです。ダイバーシティに&インクルージョンと受容性が付け足されて記述されることが多いのも、消極的多様性だけでは、他人に期待せずにいた方が楽ではあるけれど解決することが出来ない問題も出現するから、だと思っています。
 人には共感してくれる人が必要だし、共感できなくても最大限受容してくれるような仲間がいればもっと人は幸せになれる、というメッセージが軽快に語られるこの作品が大好きです。

以上で53・54話の感想と解釈を終わります。次のお話も楽しみです。
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