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「歯ブラシ」

 「歯ブラシが並んでいるとうれしくなる」
 彼がなんとなしにつぶやいた。そういうのでいい。そういうのがいい。
 秘密基地が少しずつ侵略されていく心地よさ。あったものが二倍になったり半分になったりして、なかったものが増えていく。洗面台には歯ブラシが二本並んで、本棚には同じ本が二冊ある。ベッドは狭くなって、寝返りが打てない。その窮屈さを愛おしいとさえ思う。食べなかったお菓子を食べるようになって、甘いもののすばらしさを知った私はもう、元には戻れない。彼が持ち込んだ様々なものが私の生活を楽しませる。ベランダで揺れるタオルは、来週まで会えない人の気配を感じさせ、私の口元を緩めるのだ。

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TR: 歯ブラシ / 紙魚著||ハブラシ
PTBL: 紙魚的日常||シミ テキ ニチジョウ <> 1//a
AL: 紙魚||シミ <@tinystories2202>

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