「さくら道」
桜が咲くことが幸せなことではないのです。
また春が来たねと言い合えることこそが幸せなのです。
ねえ、ずっと僕の隣を歩いてくれませんか
さくら道 / Aqua Timez
三月の末。私の生活は薄桃色の花で埋め尽くされる。街路樹、公園、車窓からの景色、職場の敷地。どこもかしこも桜が咲いている。散りゆく花びらで景色がぼやけるほどだ。桜が咲くことは私には当たり前で、幸せの象徴ではなかった。
五月。君と出会った。桜はとうに散って、ホタルが飛んでいたね。何度目かのデート。ホタルを見に行こうと約束したのに、生憎の雨で、ホテルへ行ったのは最低なジョークだ。大きなベッドの上で二人笑った。
夏。年々暑さが増している。汗は私たちの隙間を埋めて、肌がぴたりとくっつく。べたつくそれは不快なものだったけれど、君となら悪くない。
秋。風が冷たくなってきた。私の視線は長袖に隠れる君の骨ばった指に釘付けだ。衣替えはいつも私に新鮮な発見をくれる。
冬。体温の高い君に抱きしめられる安心を知る。寒がりで冷え性な私を温めようとする君は愛であふれていて、私は大嫌いだった冬を少しだけ好きになる。
春。私たちは二人で過ごす春をまだ知らない。桜が咲きそうだよ、と膨らんだつぼみの写真を見せてくれる君。花が開くことを楽しみにしている君を見るのは幸せだ。
来年。君にあの歌を贈ろう。一緒に過ごす二回目の春。ねえ、私には桜が咲くことは幸せなことではないんだよ。また春が来たねと君と言い合えることこそが幸せなんだよ。
だから―。
この続きは直接君に伝えるよ。
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TR: さくら道 / 紙魚著||サクラ ミチ
PTBL: 紙魚的日常||シミ テキ ニチジョウ <> 7//a
AL: 紙魚||シミ <@tinystories2202>
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