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「料理」

 「俺たちの趣味は料理ってことになるのかな」
ニラが浮いた鶏ガラスープに溶き卵を流しこみながら彼が言う。今日はニラ玉スープと炊き込みご飯。蒸気を吐く鍋の火を弱めてタイマーをセットする。ごはんはいつも鍋炊きなのだ。目は離せないけれど、その分ふっくらおいしく仕上がってくれる。つやつやのごはんをしゃもじですくう瞬間が好きだ。
「映画もよく行くよ。アニメも一日見てるけど」
趣味ねえ。料理はどちらかというと日常だと思う。寝て食べて働く。生きるために欠かせないもの。腹が減っては何とやらだ。それを「趣味」と言われると首を傾けてしまう。
 ただ、彼にとって料理が身近になったことは素直に喜べる。実家暮らしで時間になれば食事が用意される環境に身を置く人にとって、台所は縁遠いものだ。だから、少しでも手伝う意思を見せてくれれば大げさに喜んだし、作ってくれるものは何でもおいしいく、笑顔で完食した。そうしていたらいつの間にか、台所に並んで立つのが当たり前になった。彼の変化が楽しいものであるのは私も嬉しい。
 「次引っ越すときはキッチンが広い家を探そうね」
確かに今の家は単身用なので台所は狭いし、背の高い彼に女性用の設計は合っていない。小柄な私には丁度いいものも彼のことを考えるとしっくりこなくなる。そういう違和感に気付いた時、二人で生きていることを実感する。次は台所が広くて彼の使いやすい家を探そう。肩をぶつけずに並んで料理ができる場所を。そこに住むころにはきっと趣味が日常になっている。
 タイマーが鳴る。炊き込みご飯ができた。しゃもじで混ぜて、だしの香りの蒸気を吸い込む。大好きな瞬間。隣ではニラ玉スープが器に注がれている。ふわふわの卵がおいしそうに踊っている。並べていた肩は離れ、向かい合う。手を合わせて。いただきます。

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TR: 料理 / 紙魚著||リョウリ
PTBL: 紙魚的日常||シミ テキ ニチジョウ <> 10//a
AL: 紙魚||シミ <@tinystories2202> 


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