見出し画像

「 目の前の人と向き合い、縁をつなげて、予期せぬ波紋を起こす」 わたしたちのご自愛図鑑 vol.1 天野 光太郎

わたしたちは、対話を通じて「ご自愛」を探求するイベント「ご自愛カフェ」を開催しています。
そして、参加していただいたみなさまと一緒に「ダイニング」というコミュニティを作り、育てています。
「わたしたちのご自愛図鑑」では、ダイニングに参加するメンバーの方々をご紹介していきます。職業も生き方も人それぞれ。ご自愛も人それぞれ。
さまざまなご自愛の形を、どうぞご覧ください!


つながりを作ることで、しあわせな「たまたま」を生み出す人でいたい

−− まずは自己紹介をお願いします。

天野:池上にあるSANDOの店長をしています。肩書きはカフェの店長だけど、池上という街の中でハブの役割になったり、池上と外側をゆるくつないでいくことが、僕のやりたいことです。
店長の他に、フリーランスのプロデューサーやコーディネーターとして、音楽業界とアパレル・ダンスなどの違うフィールドを繋いでコンテンツを作る仕事もしています。
CDを作ったりライブをすることが音楽活動として捉えられることが多いけど、音楽家の思考を外に出したり、全く違うフィールドでそれをシェアしたり、音楽を鳴らす以外のことでも広い意味では音楽活動だと思っているんですよ。

SAND° BY WEMON PROJECTS
〈池上エリアリノベーションプロジェクト〉の拠点となる場所。
カフェとしての営業だけでなく、アーティストを招いたイベント、ポップアップショップや展示など、地域を盛り上げるための企画も多数開催。

画像5

−− 池上という街の中でも、音楽の世界でも、「つなぐこと」が役割になっているんですね。

天野:自分がハブになりたい思いもあるんだけど、SANDOや音楽などいろんなコンテンツの力を借りてつながっていくのが好きかもしれない。

内輪で終わることや、飽和した「何も生まれない頭打ち感」が苦手で。僕の中では「つながりを作ること」が解決策の1つなんですよね。池に石を投げる感覚と似ていて、結果的に意図していない波紋が起こったら、おもしろいなって。
ある意味では自分が苦手な状況を避けるための手法なんだけど、それが周りにとってプラスになって、あたらしいことが生まれていくと考えるとニヤニヤしちゃう(笑)

僕は、人生は「たまたま」と「意志力」の両輪で動いていると思うから、たまたまを楽しみたいし、そういうのが好きなんでしょうね。あとは、割と「おせっかいおばさん」みたいなところがあるかも。「いい人だから一回会ってみなさいよ!」ってやりたくなっちゃう。

フリーランスの道は、歩き出してみたら意外と舗装されていた

−− 様々なフィールドをつなぐ音楽活動を始めたのは、きっかけがあったんですか?

天野:楽器メーカーのFENDERにいた時に、仕事がおもしろいと思うこともあった一方で、「もっとこうしたらいいのに」と思うことが実現しにくいとも感じていたんです。
もっとおもしろくて発展性のある形で、アーティストやクリエイターにもお金が分配されるようなことをしたかった。そう考えて、既存の会社や業界にいたら自分がやりたいことができないと判断しました。

たまたま仕事が来ていたこともあって、1人でやってみようと思ったんですよね。もともと酒の席で「おもしろそう」「やりましょう」というノリで始まったものが、何となく仕事になっているんですよ(笑)

−− やり始めたら道ができたんですか?

天野:今でも道があるかはわからないですけど、とりあえず歩き出してみたら、けっこう舗装されていたっていう感じかな。「切り拓かなきゃ」と思っていたんですけど、思ったより歩けるようになっていたし、この先はもうないだろうと思っても、意外と続いている感じです。

画像3

バンド活動もしつつ、ライフワークとなるような仕事を模索した

−− 音楽活動に集中していた時期もあるんですか?

天野:大学を出て1年くらいは、バイトしながら音楽をやっていましたけど、割と早く「プロ1本は無理だな」と感じていましたね。
芸能界や芸事の世界って、勘違いから始まると思っていて。自分が天才だと勘違いするか、本当に天才か。僕は自分のことを天才だと思えるほど単純じゃなかったし、「他のことはダメだけど音楽だけはすごい」という所にも行けないなって。熱がないわけではないけど、音楽で食って行くとなったら話は別だと思ったんだよね。

その時から、横浜市のコミュニティソーシャルワーカーとして、まちづくりの仕事に携わり始めたんです。
バンド活動は、働きながら自分にとって心地よい距離感でやることにしました。

−− どうしてまちづくりの仕事を?

天野:まず1つは、もともと大学で福祉を勉強していたから。介護などの現場というよりは、人の暮らしや豊かな暮らし、ウェルフェアのような広い意味での福祉に関わってみたかったんです。
介護などの施設があるのって、まちでしょ?まち全体をよくしたら、もっと暮らしが豊かになって、住んでいる人たちが楽しくなる方がいいなって考えたんです。

もう1つは、私生活と仕事を分けることや、土日を待つような生活は嫌だと思っていたから。
僕の親父はずっと横浜の美術館で学芸員をしていて、子どもの頃から土日もいたりいなかったりしたし、夜帰ってくるのも遅かった。その姿を見ていて、仕事の仕方はこういうものだと思っていたんです。それに、大人になって気づいたんですけど、親父から仕事の愚痴って聞いたことがなくて。仕事と生活が地続きで、仕事をライフワークとしてやっていたんだと気づいた時に、自分もそういう生き方や働き方がいいと思いました。

福祉は概念。誰かのアイディアが、他の人の選択肢になる

−− 学生時代から「広い意味での福祉」に興味があったんですか?

天野:興味があったというより、大学で勉強していて、日本の福祉の政策や制度に対して疑問に思うことしかなかったんですよね。本当に対象者のためになっているのかな?って。
それと、福祉という分野だからか、周りの学生には「してあげたい」「助けてあげたい」と言っている人も多かったんだけど、それに対して「何目線なんだろう?」とも感じていた。

画像4

学生時代に実習でデイサービスに行った時、自分の中でのルールが「相手を敬うこと」だったんです。「してはいけないこと」は守るけど、歳をとっていようと、障害があろうと、基本的に人とのコミュニケーションは誰に対しても同じだと思っているんです。僕はそのスタンスなんだけど、そうじゃない人が多かったな。
実習の間だけの関係なんだけど、ずっと続くような関係が築けた方が楽しいじゃん。
福祉って言葉がつくと、多くの人は敷居が高いイメージを持つんだよね。
でも、本当はそんなの全くないんですよ。

−− 確かに。福祉と聞くと、自分から遠い場所の話だと感じてしまうかも。

天野:福祉って、ロックンロールやパンクみたいに、概念なんですよね。
つい型にはめたくなるんだけど、本来はもっと広い意味で考えるべきもの。
「誰かのために」や「こうしてあげよう」じゃなくて、もっと柔軟で自然体なものなんじゃないかな。

僕は福祉の例え話として、よくベンチの話をするんだよね。
空き地にベンチを置いたら、ある人にとっては休憩の場所になるし、ある人にとっては遊び場になる。誰かの考え方やアイディアが、それぞれの人にとって有益な選択肢になればいいと思うんだ。その連鎖が続くと選択肢が増えて、まちとかコミュニティがより良くなっていく。それが僕の考える、大きな意味での福祉かな。

コーチングを学んで、もっと「人そのもの」と向き合っていきたい

−− これからトライしてみたいことはありますか?

天野:今ね、コーチングの勉強をみっちりしているんです。いずれはコーチとしての活動もしたいですね。
横浜市のコミュニティソーシャルワーカーをしていた時に、相談員のような仕事をしていたんです。福祉の勉強をしたから専門知識はあって、子育てや介護の特定の範囲なら、相手に対して答えを導き出せる。
ただ、僕はもっと人そのものの心理や目的に興味があったんですよね。

FENDERにいた時は、アーティストから楽器のことだけじゃなくていろんな相談を受けました。当時はコーチングなんて知らなかったけど、クリエイターに対して僕の価値観をアドバイスするのは違うと思っていたから、「どういう音を出したいのか」「どういう音楽が作りたいのか」を導き出す役回りでいたんですよ。
僕自身も自分で目的を導き出すのは苦手だったんだけど、そんな時にコーチングの存在を知りました。

−− どの仕事をしていても、一対一で目の前の人と向き合うことは一貫していますよね。そのためのツールとしてコーチングが出てきた感じでしょうか。

天野:それまでは直感でやっていたと思うんですよね。コーチングって本を読んでできるものだとは思っていなくて、人との関係の築き方の得意不得意や、性格もすごく影響すると思うんですよ。
となると、僕に向いてるんじゃない?と感じたところがスタートでした。

画像5

まだ勉強し始めて最初の段階ですけど、答え合わせしている感覚に近いです。
今まで自分が考えていたことや相手に対するスタンスが、コーチングという文脈の中ではどうだったのか。
講習の中で僕がコーチングをされるんですけど、身近だけど紐解いて考えたことがないことを聞かれるんです。「あなたにとって信頼って何ですか?」「幸せってなんですか?」というように。改めて掘り下げて言語化する作業がこんなに難しいんだなって、勉強になります。

−− コーチとして、どんな人にコーチングをしてみたいですか?

天野:いろんな人にコーチして話を聞いてみたいですけど、福祉の現場にいる人たちにコーチングを受けてもらいたいな。必要なはずなんだけど、意外と縁がないんじゃないかな。
労働環境的に重労働だし、思いや目的が埋もれやすいと思うから、その火を絶やしてはいけないなって。

−− あだ名が「天野店長」から「天野コーチ」になる日もそう遠くなさそうですね!

ご自愛も福祉も、「型にはめないこと」が大切?

−− 天野さんにとって、ご自愛とはどんなものですか?

天野:ご自愛について考えれば考えるほど、概念なんですよね。「これがご自愛です」と言えなくなっています。
今の世の中の流れからいくと、ご自愛も型にはめたくなるかもしれないんだけど、ご自愛ってファッションやステータスではないよね。むしろ対極にあるものだと思っていて、本質を考えたいな。流行の発信の仕方とは逆だと思うけど…

画像6

−− 型にはめようとしない方がいいんですかね?

天野:ご自愛について、それぞれが考えていることが違うと思うんですよ。それぞれが考えるご自愛について、ゆっくり丁寧に紐解くのがいいかなって思うんです。
今まで気づかなかったけど、いろんなことにご自愛が当てはまるかもしれないよね。
音楽を今まで何となく聞いていたけど、ふとした瞬間に涙が出てきて「これはご自愛なのかも?」と考えられる人が増えたらいいなって思います。

−− ご自愛のスタートは「自分自身」だとして、「みんなでご自愛」をしていくにはどうしたらいいのでしょう?

天野:ご自愛の選択肢を増やすのがいいんじゃないですかね。

−− 福祉の考え方とつながりましたね!

天野:みんなそれぞれのご自愛の選択肢があって、選択肢が増えることでご自愛する時間が増えるでしょ?
例えば「ご自愛フェス」をやるとするじゃない。それは「ご自愛フェスをすること=ご自愛」と思っている人からの提案だと思うんだよね。「僕はこの場にいる時が超ご自愛なんだけど、みんなもどう?」って。
いろんな選択肢を提案して、みんながご自愛について考えられたり、気づけるようになることがこの集団(ダイニング)の本質的な意義なのかも。

不安や悩みは尽きなくても、その中でご自愛の最大公約数を探したい

−− ご自愛することが難しいと感じるのはどういう時ですか?

天野:ご自愛できない状況は、不安や悩みがある状態なんだと思う。
執着や妄想が不安や悩みの根源だと言われているけど、ご自愛することで執着や妄想や、そこからくる「こうせねばならない」「こうあるべき」という硬さを徐々に柔らかくすることができるんじゃないかな。
みんな不安や悩みはあるんだけど、その中で一緒にご自愛の最大公約数を探せたらいいよね。
ご自愛へたどり着くためのシチュエーションやコンテンツは無限にあると思うからさ。

−− いろいろな入り口があって、取り入れられるものから取り入れて準備体操をしつつ、さらに自由な選択ができる自分になっていくのかもしれないですね。

ダイニングは、生活の中にある「あたらしい遊び場」

−− 天野さんがダイニングに参加してれたのは、何がきっかけでした?

天野:とあるオンラインイベントで荒井ちゃん(tiny peace kitchen代表)と話す機会があって、タイニーピース・ダイニング(現・ご自愛カフェ)のことを教えてもらったんだよね。
「ご自愛のイベント?何だそれ?」と思う気持ちも半分くらいはあったんだけど、なんか気になって参加してみたのがきっかけかな。若者の言葉で言えば、バイブスですね(笑)

−− 天野さんはダイニングの中で「ご自愛おんがく部」として日々発信していただいていますが、ダイニングは天野さんにとってどんな場ですか?

天野:いい意味で、特別ではないですね。ご自愛についてのコミュニティなんだけど、「ちょっと飲みに行こうよ」と言える人たちがいる場所。生活の一部にあたらしい遊び場ができた感じかな。

−− ダイニングに期待することはありますか?

天野:居心地がいい場所になっていればいいし、それが続けばいいと思う。
あとは、僕らが考えていることがダイニングという村の中だけで終わらずに、外に向かうことが大事だと思っているよ。
僕らの活動を宣伝やプロモーションをするんじゃなく、拾ってくれる人がいて、鳴門海峡みたいに渦を巻いていくといいな。ダイニングが渦の中心となって、自然と人が巻き込まれていくような形になれば理想だよね。
ご自愛について考えたことがない人にも「この場にいたら楽しそう」と思ってもらえたらいいよね。

−− 今後、SANDOでのご自愛カフェ開催もありえそうですか?

天野:できると思いますよ。運営陣がキッチンに立って、バースタイルにして。荒井ちゃんがトークしたり、懇親会があったり、いくらでもやりようはあるんじゃないかな。

−− すごく楽しそう!そう遠くない未来に、ぜひ実現させたいです。
天野さん、ありがとうございました!

画像6


今回登場していただいた天野さんは、「ご自愛おんがく部」の部長としてダイニングコミュニティの中でおすすめの曲をご紹介してくださっています。
そんな天野さんが選曲するプレイリストの第一弾ができました。
「 タイニーのご自愛プレイリスト vol.1 『インストでご自愛』 」
なぜインストなのか?選曲に込められた思いも合わせて、ぜひお楽しみください!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?