王座戦振り返り⑧

2021/12/24 8R 北海学園(T氏)

チームの方針としては、ここで全勝をして次に弾みをつけたいというものだった。しかし王座戦は下剋上万歳のチーム戦。全国の舞台では何が起こるかわからない。士気は全力のまま挑んだ一局だった。

第8局は阪田流のような出だしになった。
北海学園とは親交があり、T氏の棋力などもある程度把握していたつもりでいた。棋力差がある場合、じっくりした展開でリードを積み重ねるのが定石であるが、この△3三角を見てそうも言っていられなくなった。

無論、▲4八銀と無難に指すべきだとも思ったが、対阪田流なら明確に形勢は良くなる。よって、やはり踏み込まなければいけないと思った。そういう信念を持って将棋をやってきたのだから、こればかりはつける薬もない。

▲3三角成△同金▲6八玉△9四歩▲9六歩と進める。

よくソフトの棋譜を見ていると、一様に▲3八銀を優先する。それについては理由がわかるまで▲6八玉と指し続けるつもりだった。「△6五角を気にしているのだろうな…」という程度の認識だった。

しかし、こんな大舞台でその理由を突き付けつけられるとは。

△8四歩と突かれた瞬間、電撃が走った。この表現に一切の脚色はない。
本当に「痺れた」という他なかった。

まず▲6八玉型で早繰り銀を食らうとまずいというのは知っていた。
さらに△9四歩と▲9六歩が入ったことで一手早い攻めができる。
もっと言えば、△3三金型なので普通よりもう一手早い。

この時点で避ける筋はいくつか考えた(8筋を切らせるなど)。
しかし、どうも棋理に反する気がして手が伸びなかった。この際、プライドなど気にしていられないのだが、真っ向勝負で対応できると判断してしまった。

以下一直線で△7五歩の仕掛けまで進む。
ここに来る道中で、▲4六歩を突かずに▲4六角を残しておく筋のことも忘れていて、初めに▲3八銀と上がらなかったことをずっと悔いていた。
結局仕掛けられ、▲4五桂と飛ぶにしても形が中途半端だし、かといって最善形もわからず非常に混乱していた。
一方相手は考えることはほとんどなく、ノータイムでどんどん飛ばしてくる。時間すらも自分を追い詰めてきた。

△3二金はやや甘いと判断した。
しかし、完全に体が前のめりになっており、▲7六歩から収める順が頭になくなっていた。銀交換すれば▲7七桂から両桂跳ねが見えているので、そうなれば十分に良かったはずだ。

勢いあまって▲2四歩。
△同歩▲同飛に△3三角と打たれ、また青ざめる。

正直に言うと、この角は打ちにくいと判断していた。
▲4五桂の当たりになるし、▲3四飛で四段目を押さえられるので、大抵受けきりだろうと思っていた。しかし、読んでいくにつれて▲6八玉型のせいで△8六歩に対する受けが全く効かないことに気付き始める。

やがて▲2五飛も読んでみたが、結局銀に当てても意味がないし、何にしろ▲4五桂が全然痛くない。

どんどん焦る。時間もどんどん減っていく。気付けば持ち時間が20分以上差ができていた。

やがて、結局勝つとしたら▲3四飛しかないと決断する。

△8六歩▲同歩と進む。

△8六同銀▲同銀△9九角成▲8三歩△7二飛▲7三歩△同飛▲7七桂△7六香…と読んでみるが、他にもいろいろ変化があるし難解だと思っていた。
こうなれば結局右辺に逃げだして、ねじり合いにしてしまうつもりだった。
一直線から抜け出せば、勝負の余地は十分だと思っていた。

しかしやがて△7六歩に気付く。▲8八銀△8七歩▲同金△8六銀は明らかにまずい見た目をしている。
そうなると負け…と思っていたが、棋力に関係なくその攻め筋は第一感であろう。当然、少考の後△7六歩と打たれる。

▲6六銀とかわすのも考えたが、結局攻め方のわかりやすい局面になってしまう。明確な狙いがある上、こちらは受けが難しい。棋力差の関係ない、最悪の展開である。
本当に負けすら覚悟していた。第8局にして、今大会で一番の大汗が流れる。

ここでほぼ持ち時間を使い果たしていたが、なんとか3分ほど残して▲8三歩と打った。
どうやって対応されても自信がないし、もはや考えることもなかった。
しかしぼやいてばかりも仕方ないので、△8三同飛と△7二飛と△8七銀成、どれについても深く考えてみた。

△8三同飛▲8四歩は飛車を取れるのが確定なので、▲8二飛が残る分やや得。
△7二飛は▲3三飛成で、飛車を渡してしまうがとにかく試合は長引く。
△8七銀成は▲8二歩成△8八角成▲5九玉で…かなりまずい形をしているが、とにかく勝負形にだけはなるだろうと思った。
とりあえず、まだ戦えると言い聞かせるしかなかった。

後手の選択は△7二飛。よって▲3三飛成から銀得の方針を選ぶ。

以下△3九飛と打ちおろされる。
正直この対応は非常に頭を悩ませた。▲7九歩が第一感だったが、△1九飛成~△8四香(△7三香)というわかりやすい狙いができる。その上、こちらから攻めは無いし、受けも難しい。
次に▲5九金も考えた。しかし△1九飛成から△2八竜だと結局銀を消費するし、△2六歩と垂らされて、やっぱり”わかりやすい”負け方である。
なんとか捻って、なんとかわかりにくい手…。そう考えて▲6九銀と渾身の粘りを放った。

なるべく△2六歩の脅威を避け、珍しい形を作ることで「わかりにくさ」を演出する方針だった。正確には▲5九銀だったかもしれないが、時間もなかったのでなりふり構っていられない。

△1九飛成に▲8二歩成△同飛▲8五歩とじっと受けた。

とにかく粘って長引かせる。いつかは相手にミスが出る。その信念だけだった。
次に▲5五角を見せ、やや△2六歩とは打ちにくいと思った。
しかし△6四香がしっかり堅い。△2六歩と打たれていたらかなり滅入っていた気がする。

しかし本譜は△8三香だった。難しい局面にしたことで、やっと少しの綻びが見えた気がした。

▲5五角と打ち、光明がわずかに見えた。
△8五香▲8二角成△8六香に▲5五馬と引いたのがポイント。

▲8七歩だと△同香成~△8八歩でまずかったが、▲5五馬~▲8二飛で回収する順が見えて、ようやく優勢になったと実感した。

このあたりから、かなり相手の手の流れが変だったが気にしないとして、手堅く▲7八歩と受ける。これでほとんど勝ちが確定した。

投了図

終わってみれば大差の勝利となったが、途中の焦りようは尋常ではなかった。いったん力を抜いて戦ってほしいという仲間の期待とは裏腹に、大会で一番の苦戦を強いられた。
よく自滅することを指摘されるが、今回は何とか持ちこたえてきれいにまとめ切ったことは、わずかながら成長と捉えることにした。

この一局でかなり体力を消耗したが、幸いほかの対局が長引いていたことで十分に回復できた。
次戦に備えてランニングまでしてきた。運動すると、とても頭に良いらしい。変わり者だと思われたかもしれないが。

最終戦はいよいよ全勝対決の大決戦である。

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