王座戦振り返り⑥
2021/12/23 6R 京都大(S氏)
ライバル校、絶対に負けられない勝負が始まる。
第6局は、ダイレクト向かい飛車の出だしとなった。
開始から5手目だが、ここで少考。普段なら絶対に△7七角成とするところである。
ただし、後手番での研究はしておらず、飛車先が伸びていないことでどれくらいデメリットが生じるのか、すぐには判断できなかった。最善を目指すのがモットーであるが、さすがにわからないものまで踏み込むほど勇敢ではない。
持ち時間も十分にあるので、△1四歩として端歩突き越しのメリットを享受する方が効果が大きいと判断した。
最序盤から揺さぶりをかけてくる、なんとも実戦的な戦術である。
10手ほど進めた図。
てっきり穴熊を目指すものだと思っていたが、▲4八銀上で混乱する。力戦系に持ち込む狙いだと悟ったので、時間を割くのを避けるようにした。
相手がこの形を想定して、十分な研究をしているとは考えにくいので、確実な形に持っていくのが最優先だろうと考えた。
さらに10手ほど進んだ図。先手陣がどんどん不気味な形になっていく。
大抵こういった形というのは、距離感が難しかったり急所がわかりにくいという強みがあるのだが、膨大な棋譜並べの蓄積があるので見覚えのない形に遭遇することはそうそうない。そのように自負している。
ならば残ったのはただの愚形であろう。さっそく△5四角と咎めに行く。
局後の感想では「打ちにくい印象」とのコメントがあったが、かなり打ちやすい形だったと思う。意見が分かれるところだ。
ここでかなり時間を投じ、▲6五歩と突き出される。
△同桂▲同桂△同角▲6七金右と、かなり捻った受けを繰り出してきた。
しかしこうなると角の打ち得に思える。
△5四角と引き、これは優勢が確定した…と思ったのだが、▲5五歩△3六角に▲2八桂を見落としていた。
▲5五歩と突かれてヒヤリとする。
ここで不本意ながら時間を投じた結果、△3六角~△1四角~△2三角のルートを発見した。
端は詰められるが▲2八桂の負担の方が大きいと判断し、けがの功名ということにした。
かなり駒の利きが複雑になってきた。
後手の狙いとしてはとにかく桂頭を負担にさせたい。しかし巧妙に桂の利きがあって、どれほどの反動を生むかわからなかった。
最後の時間を使い、追われるように△3一玉を着手。手の善悪は難しいが、△4二玉まで行けば安定するし、損にはならないだろうと考えていた。
▲5七銀上と進行。ますます見覚えのない形になっている。先手は左辺が異常に手強いので、桂頭を破ったところで反動を食らうと、玉の広さにいなされて負けてしまうことが予想される。
手堅く、かつ素早く迫っていく手が必要だった。
思い切って△3五歩を決行する。
▲同銀なら△4三桂▲3四歩△3五桂▲3三歩成△同桂でどうなるか。かなり難解だが、△6七角成が見えているので、実戦的に指しにくいだろうと思っていた。
本譜は△3五歩に▲2七角と受けてきた。
△4三桂は打ったが、あと一押しがほしいというところ。
ここで△3四銀と力強く繰り出した。
対局を観戦していた人、皆に言われたのが「気持ち悪い」
たしかに、異常な形である。改めて見ると、よりそう思う。
しかし、形の急所は見極めているつもりだった。角と桂の頭は丸いので、△2五歩と突っかけてやれば蟻穴から一気に崩壊する。
本譜は▲5六銀としたので、満を持して△2五歩と仕掛ける。
最後の追撃というところか。しかし何を迷ったか△2二金という謎の逃げ方をしてしまう。
たしか、△4二金左だと△4一角と引かされたときに壁になってしまうのが気になったのだが、どうやっても角を引かされないので、何か幻を見せられていたのだろう。
△2二金に▲3六桂△3五銀▲同銀△同桂▲4四桂と一気に激しくなる。
こうなると、かなり先手玉の広さが目に付く。
玉の周りに何もいないが、うまく縛らないとスルスル逃げられてしまいそうだ。一瞬負けすら覚悟したが、気を取り直して最善を指すしかないと思った。
△2七桂成▲同玉△2五歩
怖すぎるが、勝つにはこうするよりない。
▲3二銀から清算され、おかわりの▲4四桂が刺さる。
普通に見れば負けそうな局面だが、唯一先手陣が露出しているのが救いだ。
△4二玉に▲3二金から王手飛車の筋も見えるが、あまり駒を渡すと危ない形なので、なんとかバランスは取れているように見えた。
むしろ、△4八角が気持ちの良い縛りになるので、このあたりでは勝ちを意識していた。
△3八歩の叩きに▲同玉とした局面。
一瞬逃がしたかと冷や汗をかいたが、△3六桂が決め手の縛りになった。
絶妙に王手で抜かれにくい上に、この一手でまったく受けなしになっている。
▲2七玉の逃げには再度の△3八歩が決め手になった。
思ったよりも自玉の耐久力があることに驚きつつ、最後まで慎重に進めて無事必死までこぎつけた。
難解な局面から一気に抜け出して、綱渡りの攻防になった。
投了の声を聞くまで、まったく安心できない勝負だった。といっても、一応読み切った上での危うさだったゆえ、局面を自分がコントロールできているという自負はあった。接戦とはいえ、制勝と評価したい出来だった。
これにて2日目が終幕した。特に濃い内容の2局があったが、それでも体はほとんど疲れを感じていなかった。体力をつけて行った、といえばそうかもしれないが、休み方だったり、時間の使い方だったり、盤外での進歩が顕著に感じられた。
翌日はいよいよ優勝を懸けた大決戦である。調子は上々、休息も十分に、良い将棋ができるのではないかという予感があった。
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