王座戦振り返り⑤

第5局 静岡大学 S氏

後半戦を占う第5局は、四間飛車の出だしとなった。

正直あんまり四間も得意ではない。さっきから苦手な話ばっかりして「得意な戦型は一体何なのか?」と問われると、自分でもよくわからない。
試行錯誤によって、なんでも指せる人間になってしまったので今回も気まぐれで戦法を選ぶことにした。


腰掛け銀×天守閣美濃という、最近ではやや珍しい構え。右四間ではない。
序盤からの変化を鑑みると、相手からの仕掛けのリスクが低いこの戦型が良いと思った。最近のソフトもこの指し方を愛用している。

今回は会場が四日市市民会館から、四日市商工会議所へ変更になった。
思い出の地だったため名残惜しい気持ちがあったのだが、商工会議所にはなんと、裏口のすぐ近くにからあげ屋があるのだ。香ばしい風で哀愁も吹き飛んでしまった。

王座戦の3日間、ほとんどの選手が唐揚げ弁当を抱えていた。店は過去最高の売り上げを記録したのではないだろうか。
私もしっかり唐揚げを食べて腹を膨らませた。手ごろな価格で美味い。来年も出場できる選手はうらやましい。


しばらく進んで、互いに陣形も成熟してきた。
△4二角が気になるところで、玉頭をうまくカバーできるかがこの戦法の要なのだが、なかなか難しい。
▲6六歩くらいで一歩持っておくのも手だと思ったが、▲7七桂と大胆に動く構想を考えた。

△6四金を主に考えていて、▲2四歩△同歩▲6五桂△同金▲同銀△同桂▲2三金△6二飛▲3三金△同桂▲5三角△5二金▲6二角成△同玉▲6六歩……などと考えていたが、冷静になってみると△9五歩▲同歩△8五歩▲同歩△9六歩が痛そうなので微妙だった。

深く読みを入れて行ったつもりだったが、△5五歩▲同銀△3五歩で肩透かしを食らった。

もともと△5五歩▲同銀△4五歩▲5六歩△3五歩は▲6五桂で大丈夫と思って読みを切っていたが、先にこちらだと、▲6五桂△同桂▲6六歩△5七桂成で歩が取れるのをうっかり。
慌てて読み直してみると、思ったよりこの局面はまずそうだと思った。

負けの予感がしたので、粘りの方針へ。
▲同歩△4五歩▲5六歩△4二角▲3八飛△9五歩▲同歩△4六歩▲4四歩△5二銀▲同銀△8五歩▲同桂△同桂▲8九玉

大会になると、こういう将棋が多いなと思う。色々読んだところで読み抜けがあって、時間も形勢もまずいという。
しかし今回は、粘りの力を鍛えてきたので想定済みという気持ちでもあった(本来そうすべきではないが)

まだまだラッシュは続く。
△7五歩▲8五歩△8六歩▲9六銀△7六歩▲7七歩△7五桂▲7九桂

かなり歪な受けであるが、このドロドロ感がわりと好み。
危険な形をしているものの、どれも首の皮一枚逃れている。そして、いつの間にか相手は”攻めさせられている”展開になってきた。
△6六歩~△6七歩を一本入れたらどうだったかわからないが、本譜は
△7七歩成▲同金右△8七歩成▲同桂△4五歩▲7五桂と進行。

嫌味な歩をすべて払い、桂が大跳躍。大きく挽回したと感じた。
△7五同角▲7六歩と一旦冷静に受けて、△4六歩▲7五歩△4七歩成▲3六飛△5八と、と進む。

△5八とでは△4五銀も指摘されたが、▲3九飛~▲7九飛と収納しておけばまず負けないだろう。
よって少しでもプレッシャーをかける意味で△5八ととしたが、先手玉は驚きの広さである。歪に思われた受けが、空中要塞を築いている。

ここで急所の▲5五桂が一発入った。優勢を確信。


少し進んで、やや怖い形になったがそれでも少し足りない。
▲4三歩成△同銀▲6三桂成△同銀▲5三角が駒を渡さない綺麗な寄せになった。

投了図

最後は8六まで玉が大移動して幕切れとなった。

途中、観客が急激に増えだして異変を感じたのだが、どうやら3-3の決戦になっていたらしい。まさかそこまで追い込まれているとは知らなかった。

相手のS氏も雰囲気を感じ取って緊張していたようだが、静岡大学の選手が興奮して「いま3-3だよ!」と大声で喋ってしまうハプニングが発生。
ちょうどこちらが優勢になった局面だっただけに、それが聞こえてS氏はひどく憔悴したとか。
局後、お騒がせ人は皆さんに叱られてました。

静岡大の皆さんと感想戦ができて楽しかったです。


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