小説・ちんちん短歌 第一話
公孫建(こうそんけん)は下衣を脱ぎ、ちんちんを出した。
大伴家持(おおとものやかもち)はそれを見ている。
建のちんちんは、やや怒張し、しかし完全には勃起していなかった。垂直に働く重力に、わずかに抗うように、建のちんちんは円弧を描く。
建は深く息を吐くと、その息を吐ききったまま右腿をあげ、左足は屈伸させる。そしてそのまま、足を立体的に、左右に開く。ねじれた観音開きと言えようか。
開いた股の真ん中から放たれたちんちんの匂いが、家持のいる文机のところにまで届いた。
萱の香だ、と家持は気づいた。
一時(いっとき)前、建は香鉢に衣ごとまたがり、また、萱を燃やした灰を、食らっていた。そしてその灰の香を、いま、この瞬間、毛穴という毛穴から、特に、ちん毛の毛穴から、解き放ったのだ。ちん毛が、一番、匂いを放つことができるのを、建は知っていた。
匂いを振りまきながら、建は、舞う。
そして、腹下――丹田にて、「言」を生成する。そして腹の力を使い、「言」を喉に押し上げ、喉奥から、歌を、言葉を、放つ。
「庭に立つ
麻手刈り干し
布さらす」
そして次の言葉を口に押し上げる時、建のちんちんは自ずから丸まり、睾丸に張り付いた。
ちんちんを、手を使わずに動かしたのだった。
そうするために、建はあえて、ちんちんを半分だけ怒張させ、コントロールしたのだ。こうしてちんちんを丸め、睾丸に張り付かせて、これを、「女性器」つまり、まんことして「見立て」た。
建は、この時、この瞬間のみ、女となる。
「東女を
忘れたまふな」
建は女としてそう歌い、丸めたちんちんをキープさせながら、全身から匂いを放ち、そして、舞い続ける。
脚を踏み鳴らし、空間を、手で裂く。
脚で、地鳴らしたところに「景」があらわれる。
音により、歌の中にあらわされた庭が、この場に広がっていく。
手で、空間を裂いたところに「動」が出る。
手の動かし方の、その根拠……その動機を連想させ、ついにその動きは「麻手刈り」「干し」「布さらす」を表しながら、歌中の主体の身体が出現する。ただの手の動き。しかしその動きで、「人」が現れるのだ。
建は舞う。ちんちんを出し、舞う。歌う。言を出す。匂いを出す。空気を沸かせ、その場に居る者の肌を揺らす。
このようにして、建は、目の前の、観客である家持のために、舞った。
これが、公孫建のラストダンスだった。
(続く)
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