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ナンパについて行った話

東京で知らない人に話しかけられて、それに反応したところでいいことなんて何もない!と常々思ってきた私は、今まで路上で誰かに話しかけられてもほぼ無視してきた。ナンパ以外にも次々と向かってくる勧誘はテンポよく交わしていかないと最終的にきっとひどい目に合う、と思っている。
30歳くらいまでは水商売のお誘いも多かった。髪が茶色い時もしくはスカートが短い時はその手の人が名刺を渡そうと近付いてくる。わかりやすい。非常にわかりやすい。笑っちゃうくらいわかりやすい。
最高記録は五反田駅。何人かで待ち合わせしていたのに私以外全員遅刻という状況で駅の改札付近に立っていたら、その間に4人くらいに名刺を渡された。五反田で働いていたら人気者だったのだろうか?五反田か。。。あまり嬉しくない。

なのに1度だけ、知らない人に声をかけられてついて行ったことがある。それも若い頃ではなく多分40歳くらいの時。
なぜ覚えているかと言うと、私は35歳~37歳まではロンドンに留学していたので、今親しくしている人はロンドンから帰国した後に知り合った方が多い。その日待ち合わせをしていた彼もそのうちの1人。

場所は銀座。食事の約束をしていた。どんな時でも待ち合わせには早めに行くようにしているのだけれど、銀座ということもあってファッションビルでも見て歩こうかなと普段よりも早く着くように行った。なのに、少し歩きまわったら思いのほか疲れてしまった。待ち合わせの時間まではまだ30分ちょっとある。疲れちゃった、座りたいな、どこかでお茶でもしようかな?と思いながらしばしポーっと佇んでいた。
そんな胸の内を見透かされたようなタイミングで声をかけられた。「あの、良かったらお茶でも飲みませんか?」いつもなら「あ、いえ、すみません」みたいな感じで目も合わせずサッと立ち去るのに、疲れていたしあまりにもナイスタイミングだったので思わず「この後待ち合わせしているので、30分くらいしかいられないですけどいいですか?」と言ってしまった。言いながら自分でもびっくりした。近くのカフェに入って、お互いの名前とか仕事とか少し話したような記憶。でも、正直あまりよく覚えていない。特にガツガツ質問されることもなかったし、今度どこか別の場所で会いましょうと誘われることもなかった。とりわけ悪い印象もなかった。最後に一応「Facebook やっているのでもし良かったら探してください」と言って別れたけれどメッセージは来なかった。
今となっては名前も顔も思い出せないけれど、あの人はあの時なぜ私に声をかけたのだろう?


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曽根瑞穂
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