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かけだしフリーランスの背中を押してくれた人
現在、大学事務として働いている。
この仕事は、フリーランスとしては3つめになる。
2つめは、webライター。
1つめは、整理収納だった。
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整理収納と一言でいっても、仕事内容は多岐にわたる。「講座の開催」「自宅紹介」「SNSでの発信」「記事やコラムの執筆」「個人宅やオフィスに出向いて整理収納作業」など。私の場合は「タスカジ」というプラットフォームを利用して、個人宅に出向き、整理収納をしていた。
きっかけは、趣味の延長でとった「整理収納アドバイザー1級」。得意な整理収納を仕事にしたら、楽しいのではないかと考えた。
今思えば、そんなわけあるはずもない。「好きを仕事にしました。毎日楽しいです!」なんて人、一体何人いるのだろうか。お金という対価をもらう以上、一定の質を提供しなければいけない。そしてそれを「好き」だけで達成するには限界がある。
案の定、はじめてすぐにプレッシャーに押しつぶされそうになった。
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当時のタスカジでは、予約は1枠単位で、1枠あたり3時間というルールがあった。それはつまり、依頼主の家を訪問して「こんにちは!」と挨拶をしてから3時間後には、部屋の中を依頼主に満足してもらえる状態にして「ありがとうございました」と、去らなければならないということを意味している。
3時間。
3時間で、ヒアリングをして、ゴールを設定し、指定された場所を片づけ、最後のあいさつをして家をでる。正直、ギリギリの時間だ。場所やモノの量によっては全然足りない。「いる・いらない」は依頼主に判断してもらうので、この判断に時間がかかる人の場合は、もっと時間が足りなくなる。
その日、玄関のドアをあけた向こうに、どんな部屋でどんな人がまちかまえているのか、まったく想像がつかない中での、3時間の死闘。
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ある家は「はじめまして」と入った玄関から足の踏み場もないほどモノがあふれていた。私と依頼主でせっせと汗をかきながら片づけた結果、ようやく1m四方の床が見えた。
ある家は、そこまでモノがないものの、家族の遺品整理という目的だったため、片付けの途中で依頼主が泣き出して困った。そして、私もはじめたばかりだったので、一緒に泣いてしまったのだ(大失態)。
ある家では、モノの場所を相談していると夫婦ゲンカが勃発した。「そうやっていつも私ばっかり、どうして管理しなきゃいけないのよ!」と1人が怒り出し、想定外の時間がかかった。
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パチッとうまくいったときの高揚感がある一方、ストレスがものすごかった。モノを移動するので体が疲れるのはもちろんそうなのだが、それ以上に頭を使う。ただ単にパズルのように片付けるだけではない。
もうやめようかな。予約全部キャンセルしたい…。
そう思ったことも少なくない。
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そんな私だが最終的には100軒以上の家を訪問した。
続けられた理由は、リピーターの存在だ。
大抵の場合、整理収納は、ある1つのスペースでは終わらない。たとえば、台所を片づけていて、タオルが大量にでてくるとする。そこまでたくさんのタオルは台所にはいらないので、洗面所に移動したい。するとタオルを収納するスペースをつくるために、洗面所を片づける。すると今度は、洗面所ではなく、寝室にあったほうがいいものがでてくる...という具合だ。
人によって考え方は違うと思うが、私の思う理想的な片づけの手順は「各スペースを順に片づける→すべてのスペースを1周したら、最後に全体で調整する」という流れだ。これを実現するとなると、もちろん3時間が1回では終わらない。家の広さにもよるが、数回~10回以上かかる。依頼主にとっては、お金も時間もかかる。
これを、一緒にやりたいと言ってくれる人がいた。
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仮にBさんとしよう。Bさんは、別の依頼主Aさんの友達で、Aさんからの口コミで私のことを知って予約してくれた。
はじめて訪れたBさんの家は、立地もあると思うが、モノが散乱し部屋の空気は心なしかよどんでいた。Bさんは「片づけが苦手だけど、がんばってやりたい」と言い、2人でいろんなことを話しながらせっせとリビングを片づけた。
その次は物置き、その次は子供部屋、その次は寝室、その次は台所...と、何度もリピートしてくれて、家全体を片づけていった。
私は、Bさんが知り合いからの口コミで私に依頼してくれたこと、さらに、何度も何度もリピートしてくれたことが、本当に本当に嬉しくて、Bさんの家から帰るときは、いつもなんとも言えない達成感と、もっとがんばろうという気持ちに包まれた。
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フリーランスは、完全に失敗も責任も感謝も自己責任の世界。はじめてフリーランスとして整理収納の仕事をした私は、その厳しさを肌で感じた。
お客さんと対面で向き合うと、落ち込むことも多かったけど、それ以上に、目の前の相手に自分が役に立っていると実感できる瞬間が、心が震えるほど嬉しかった。
Bさんの他にも、リピートしてくれた人はたくさんいたけれど、私にとってBさんは、整理収納の仕事をはじめた初期に出会い、かつ、今ふりかえっても一番多い回数訪問した特別な存在だ。
フリーランスとして働き始めた私に、自信をくれたBさん。口数は少なくて、静かな人だったけど、優しい笑顔にいつも励まされた。何度もリピートしてくれたおかげで、Bさんと過ごせたたくさんの時間は、私の宝物だ。これからも、フリーランスとして働く自分を、ずっと支えてくれるだろう。
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