【イベントレポート】「未来の住まい、心地よい住まい」
SUSONOトークイベント:1月のテーマ『住む』
松原 亨(『Casa BRUTUS』編集長)×佐々木 俊尚
テーマ:「未来の住まい、心地よい住まい」
参加してきましたーー!
編集長になられて6年が経つという松原さん。「Casa BRUTUS」自体も月刊になってから18年、ということでどんな雑誌かというところからお話ししてくれました。
発行当時は「建築」というと専門家や業界の人しか読まないだろうと考えていたが「ル・コルビュジエ」についての特集をやったところすごく売れたということで、一般の人も建築に興味があるのか、と知ったそう。
確かに元々日本人は建築に対してお金をかけるという発想が少なかったのではないか。では、どのタイミングで?となり…
80年代→とにかく車や服にお金をかける
90年代→だんだん住む場所のことを考え始める
00年代~→「北欧」ブームなどで家を整えることがよりゆたかな時間の使いかたなのでは?と気付き始める
「Casa BRUTUS」が月刊になったのは2000年ということで、ちょうど日本人が建築について考え始めるタイミングだったのではないだろうか、ということで今月のお題である「住む」ということについて話題がシフトしていきました。
▼ゆたかな時間の使いかたとはなんなのだろう
「2000年代の日本はリーマンショックから始まり、震災があったりしてもっと足元の生活をゆたかにしよう、と考えが転換されたのではないかと思われます。」
「例えば、昔は「台所」というと家の裏側の存在であり、決して表に出てくるようなものではなかった。しかし、最近では「アイランド型」のキッチン(もはや台所ではなくキッチンという呼び方になる)がリビングの中に組み込まれているものが多くなってきている。」
「それは、食べる時間だけではなく、作る時間ですらもみんなでわいわい過ごすことがゆたかな時間になると考え方が変わってきたのではないかということ。」
確かに台所は壁にくっついているものだというのが昔は当たり前だったんだよなあと、ふむふむと考えてしまいました。いま、アイランドキッチンというと「おしゃれ!」と思うようになったのも時代が変わった証拠なのかな。
▼「住む」ということが変わってゆく
「Casa BRUTUS」は毎年新年最初の1月号が「住宅特集」と決まっているのですが、実は2016年までは表紙の写真は家の外観を使っていたのですが、それが内装の写真を使うようになりました。
というのも、「暮らし方や考え方がその人のデザインになる」と考えるようになったから。
それを受けて佐々木さんも「住んでいての居心地の良さってエクスペリアとはまた別物だよね」と同調し、安藤忠雄さんの「住吉の長屋」を例に挙げ、建物に合わせてライフスタイルが変わってゆくのも住んでいるとありかな…となっていくのだ、とご自身も8年住まわれた家を例に挙げてお話ししていました。
突飛な家って、作った建築家が偉いんじゃなくて住んでいる人が凄いのだ、と。た、たしかに…!
▼光の取り入れ方からみる住むことへの変化
ここからは実際に発行された「Casa BRUTUS」からお話しが発展してゆきます。まずは、最新号『理想の家ベストサンプル』から。
今は、表紙の写真のように窓を小さくし、光を入れすぎないことによってより陰影を楽しみ親密感を楽しめるような家が作られることも増えたそうです。
「昔はとにかく光をがんがん入れて電気の力によって「明るい」ということが良しとされてきた」
「しかし、いまは蛍光灯から間接照明へと変わりつつある。光がばーーんと出ているのはあんまりかっこよくないという考えに日本らしさを取り入れつつ、同意できるようになってきた」
▼「見えない化」についての住むこと
名だたる建築家たちが「消える建築」「埋める建築」などを作っているこのごろ。
「例えばスピーカーなんかはもう壁に埋め込んでしまっても何の問題もないでしょう。ITとしても究極のかたちとしては「見えない」ことだよね。」と佐々木さんが話題をふると「確かにそれはそのとおり。しかし、「空間」はモノとしても必要なので残ると思う」と松原さんも同意し、全部が全部スマートである必要はないよなあ…とこころの中で全面同意しました。
▼わざわざする楽しみ
いま、センスの良い人たちがこぞって「アナログ」にはまっているという話題から、
「例えば、音楽なんかはいまの時代、月額いくらか払ってボタンをぽちっと押してしまえば世界中の音楽が聴き放題になる。そういう方法でしか音楽の聴きかたを知らない世代もいる。」
「そんななか、わざわざレコードを買って、プレーヤーを用意して音楽を聴くということを楽しむ人が出てくる。」
「何もかもがリアルタイムで手に入るこの時代にそうはならない、ということが愛おしいという感覚になるってすごい」
わざわざ手間をかけることに楽しみを見出す時代てすごいよね…となりました。その音楽をよりよい環境で聴くために素敵なリビングを欲しがるようになる…と、これも新しい住まいのかたちなんだなと思いました。
▼日本人は落ち着きたい欲がつよい?
「ここ最近はシンプル化が進んでいるけどよりデコラティブになっても良いのではないかな、と。というよりも「シンプル主義」は根強くあるもののどんどん多様化が進んでいるよね」
「トレンドというものは確かにあるけど昔のように一本化されてないよね。ミニマリストからヒュッゲ的なものに変わっている人もいるのかもしれないね」
「布」をテーマに発行された号から、ラグや壁に掛ける布が一枚あるだけで、部屋の雰囲気ってがらりと変わるよね…という話から、なんでも今は多様性が進んでいて、それは住まいにも確実にきているのだな、と考えさせられました。
▼所帯じみてるvsそっけなさ
部屋の様子を変えたくなったとしても例えば、スイッチカバーひとつにしても日本のはなんだか親切すぎていて所帯じみてるよね、とここで所帯じみてるを連発する松原さん。
それに比べてドイツとかヨーロッパのはとても武骨でそっけない。でもそういうものがほしいときもある。んだとか。
確かに角のまるみとか、そこまでしなくてもと思うときはあるかも…!と思いがちですが、ぴしっとしたデザインはちょっとの傾きがばれやすい上に日本人はすぐに指摘してくるのだとか。それならまあ仕方ない…のかな?
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…と、このようなかたちでトークは終わり、このあとは質疑応答。「こんな家に住みたい」をテーマに少人数に分かれて話し合い。からの懇親会でした。
風邪でのどが潰れていたので、誰とも会話できない…と思い、懇親会が始まる前には泣く泣く帰宅したのですが、テーマについてとことん向き合って生きてこられた方のお話をじっくり聞くことができるこういった機会はとても有難いなと思いました。
「住む」ことについて、わたしもここ3年くらいで様々と変わりそれに応じて考えるところも出てきたので、今回改めてじっくり向き合うことができて良かったです。
素敵な時間をありがとうございました。