創作サバイバル小説【タイムダウン】
【タイムダウン】
第一章【暗闇からの誘い】
俺の名前は溝口蓮
30歳の会社員だった。
俺は暗闇で目を覚ました。
回りには何百人はいるだろうか、だんだん視界が晴れ、目に飛び込んできた風景は、無機質なコンクリートで覆われたトンネルの中だった。
上を見上げると天井は5m程はあるだろうか。
俺はいったいどうして。
思えば急転直下の人生だった。
1ヶ月半前
仕事で乗用車を運転中、人身事故を起こして会社をクビになった。
サービス残業が続き、前日あまり眠れず、ついうとうとしてしまい、赤信号を無視してしまった。
被害者は女子高校生で足を骨折する大ケガを負わせてしまった。
転職活動しても車しかろくに運転してこなかった俺はたいしたスキルもないから採用されず。
そんな失意の俺に治験をしている「ライフサイクル」という会社からDMが届いた。
手当たり次第にバイトや治験に応募していたからだ。
負担軽減費は3ヶ月で1000万という治験だった。
【条件】
①健康体
②運動神経に自信がある
③学生時代にスポーツをしていた④独身。
⑤現在無職。
簡単にクリアしている項目だったので藁にもすがる思いでWeb応募した。
しばらくしてから受付完了の返信があり、説明会の場所と日時が明記された案内状が家に届いた。
治験説明会の当日になり、ビルの地下会場に行って席に座ってからの記憶がない。
その後真っ暗になって気付いたらこのトンネルの中だった。
突然どこからともなくスピーカーから野太い声がした。
「皆さん今日は!ここは地下100mの世界。
総勢100名。
皆さんは今日から生命力を試される試験に立ち向かいます。
我々は長年このトンネルを堀り続け、ハワイへ通じるところまできました。
皆さんにはここからハワイへ行ってもらいます。
内容は疲労調査試験となり、試験の概要に最後まで適合された方に負担軽減費をお支払い致します。
まず試験の説明をします。
①毎日24時間で100キロのラインを通過してもらいます。
100キロ毎に区画ラインを定め、タイムオーバーになるとトンネルが閉まり、海水が侵入してきます。
つまり溺死するか、生き残るかになります。
皆さんは選抜された方々です。
100キロくらい楽勝でしょう。
ハワイまでの距離はおよそ6,200キロ。
ここ、東京からハワイを目指していただきます!
各100キロ地点に到達すると食料の入ったサイドバッグと寝袋をご用意してます。
そしてその中には当社で開発した疲労回復治験薬、
【リフレクターA
350ml】のドリンク剤を1本入れています。
それを必ず飲んでいただき、更に100キロずつ進んでいただきます。
ここで注意していただきたいのが、早く100メートル地点に到達しても待機区画があり、先には進めません。
24時間が経過したのちゲートが開きますので、それから24時間100キロを繰り返しクリアしていただきます。
ですので早めに100キロをクリアし、待機して体を休めていただく事が得策かと思います。
今皆様の腕には
①現在の疲労度
②時刻
③区画までの残り距離
以上を表示する時計がセットされています。
皆様の足元には同意書とペンがありますので、本日の日付とお名前をフルネームで記載下さい。書けましたら光で照らされた枠に紙を置いて下さい。
コンピューターで読み込みます。」
10分くらい経っただろうか。
再びスピーカーから
「それでは定刻が近づいてきたので試験を開始致します。」
ビイィーーーー!!
僕は耳がつぶれる程の音を聞いて耳をふさいだ。
俺は死ぬのか?
漠然と立ち尽くしてしまっていたが、みんな死にたくないから一斉に先の見えない暗闇へと走り出した。
俺は時計を見た。
時刻は午前0時
いよいよ命をかけた試験が開始された。
第二章【脱落者の断末魔】へと続く
第2章【脱落者の断末魔】
ハァ、ハァッ
俺は息をきらせながらひたすら走った。
途中歩いたりしながらも駆け足で2時間程は歩いたり走ったか。
時計をみたら残り22時間で20キロを走っていた。
残り80キロだ。
なぜか絶望した気持ちになりつつもとにかく前を向いて走った。
体内時計では今午前2時な為、なぜか体が重い気がする。
俺は朝6時頃まで寝て一気に距離を詰めていこうと考えた。
とにかく寝よう。
俺はトンネルの端で横になった。
目を閉じてもたくさんの人が走って足音が何度もこだましてきた。
しかし疲労がたまっていたため、スッと寝れた。
朝起きたら午前7時だった。
俺は再び先を目指す事にし、最初は歩いて徐々に走り出すことにした。
【残り時間は15時間】
だいぶ走れてきただろうか。
5時間かけて40キロは走った。
区画残り40キロまできたが、目の前に異変を感じた。
生理現象だから仕方ないが、尿の臭い、そして大便がちらほら散見されるようになる。
そして目の前には道の真ん中で足首を押さえて倒れている男がいた。
俺は声をかけた
「大丈夫ですか?」
男:「たぶん、アキレス腱が切れたと。残念ですがここまでのようです。」
俺:「弱気にならず、もう少しの辛抱です、頑張りましょう!」
彼の名前は林佑樹 25歳
元々塾の講師だった彼はパワハラで会社をやめ、フリーターとして働いていた。
元々陸上部だった彼は、大金が入る治験に魅力を感じ応募した。
彼には恋人がいて、今回の治験で入るお金は家を買う資金に充てる目的だった。
しかし、今靭帯が切れたか、足に故障を抱えてしまった。
肩を担ぎ上げ、俺は彼と歩み出した。
当然歩いたていた為、スピードは落ちる。
それでも休憩しながら歩き続け5時間で20キロ進んだ。
残り20キロであと12時間。
何とかなりそうだ。
また少し休んで進み、100キロ区間に到達した時には夕方6時になっていた。
林と安堵した顔を見せあい、達成感に満ちた笑みを交わした。
待機区間にはトイレやサイドバッグがあり、寝袋もあってすぐに横になった。
おっと【リフレクターA】も飲まないといけなかったので、ふたを開けて一気に飲み干した。
強烈な酸っぱさと、後味の悪いパセリのような苦味が残った。
中身はクエン酸や薬草等も入っていそうだ。
しかしパンパンだった足元が普通の状態に戻るような気がした。
また午前0時には新たな100キロが待っているのだ。
俺は6時間ギリギリまで寝て起きようとした瞬間だった。
ビィーーーー、ビィーーーー、ビィーーーー
区間ゲートが閉まる5分前からの合図でサイレンが鳴り出した。
そして、上から透明な分厚いアクリルボードが降り出した。
すると後方から足を引きずってこちらへ向かってくる人影がみえてきた。
「急いで下さい!」
僕は思わず声をあげた。
しかし、無情にもゲートは閉じてしまった。
彼はぐじゃぐじゃになった顔をゲートに押しあてながら手でずっと叩いていた。
絶望した顔、生きたいと願う顔、全ての感情をだして涙を流している彼を見ると涙が出てきた。
やがて水が徐々にトンネルを埋めつくし、彼は首を押さえながら絶命した。
第三章【徐々に襲いかかってくる魔物】へ続く