ジャニーズ「NGリスト問題」再考
10月4日、NHKが「指名NGリスト」のスクープ報道を行って以降、事務所、会見運営企業、会見を担当したアナウンサーの見解表明や、更に週刊誌フライデーの会見内幕報道もあった。
そして、それらに対してネット内でも様々なリアクションが出て来た事で、かなり情報が錯綜した状況になっている。
ここで、これら情報を改めて整理してみたい。
ジャニーズファンの方達にとっても、野次馬的に興味を抱いた方達にとっても、理解に資する記事を書けたら、との思いから投稿する。
私の立ち位置について
情報を受け取る際、
「誰が言ったかより、何を言ったかが大切」
とはよく言うモノの、それでも情報発信者がどのような立場を取っているのかはその正確性や妥当性を測る上で重要なファクターだろう。
なので、先ずはジャニーズ問題を取り扱う私の立ち位置について、表明したい。
私は「ジャニーズファンではない」です。
最近はほとんどテレビも見なくなり、ここ10年でデビューした方達についてはグループ名を辛うじて知ってるかどうか。
なので、ジャニーズ事務所、及びその所属タレントの立場が良くなる事を企図して、発言する事はありません。
(それを信用するかどうかは貴方次第ですが。)
また、私は基本的にマスコミに対して厳しい論評を行っていますが、「マスコミ批判ありき」にならないよう、配慮を心掛けています。
どちらの方向にも、偏った論評を行いたくないし、この記事の読者に誤解が生まれないように記事を書きたいと思っています。
ジャニーズファンとして、この記事に辿り着いた方達へ
私が言論活動を行う動機の中心にあるのは、
「出来るだけ多くの方に、メディアリテラシーを持って欲しい」
「物事の正しさについて考える場合、感情を抑制し、理性を働かせる必要性を、より多くの人に理解してもらいたい」
との思いです。
ここで、ジャニーズファンの立場からこの記事に辿り着いた方には、出来れば冷静に事態を把握してもらいたい。
先ず、状況としては
「ジャニー喜多川氏による長期、多人数の所属タレントに対する性加害があった」
との大前提から全ての話が始まっている為、ジャニーズ事務所に対しても、所属タレントに対しても、世間的にはかなり厳しい見立てが当然となっている。
ファンの立場として、自分が好意を抱いている対象が批判的に見られているとの状況だけで、憤りを感じてしまう事は自然な気持ちだと思う。
特に、問題を起こしたのはジャニー喜多川氏であって、タレント側は被害者の可能性がある。
これで何故、所属タレントが厳しい状況に置かれるのか?と感じる事にも、それなりに理解はする。
ただ、長期に渡った性加害が露見しなかった事を以て、同事務所所属タレントも「見て見ぬ振りを決め込んだ」との見立てによって、タレントを含めて批判されるべきとの声にも、一定以上の合理性があるのだ。
私が何が言いたいのか?、
「ファンが世間一般の受け止めから大きく外れた、ジャニーズ有利の情報に集まる事は、ジャニーズにとって望ましい世間的な空気を決して作らない」
との厳然たる事実だ。
ファンの方々にはこの事を先ずは冷静に受け止め、理解して欲しいと言う事だ。
現状、世間的にはジャニーズ事務所に対して「異質なモノ」との認識が圧倒的に優勢だ。
この中で、
「ファンとして推しのタレントを支援したい」
「こう言った窮地にある時こそ応援したい」
となるのはファン心理として自然で、そこまでは世間一般も理解するだろう。
ただ、そこを一歩越えて、この問題の解釈として一般的ではない情報、それもジャニーズ事務所側が有利になる情報がファンによって積極的に拡散される状況は、その外部から見て異様な光景に映る。
野次馬的に眺めている人達は、その様子から
「ジャニーズ事務所だけでなく、やはりファンも異質な存在なのだ」
との印象を抱く事になる。
そのネガティブな印象が先入観となり、野次馬はジャニーズ事務所にとって不利な情報ほど「信憑性があるのではないか?」と期待するようになってしまう。
ファンが一生懸命に声を上げる程に、世間の見る目は厳しい方へ、厳しい方へと向かってしまうのだ。
基本的に、世間的なニュースの理解と言うのは、皆が正確な事実関係を追い続けて作られる訳では無い。
その多くが、ニュースの概要を知り、最初に抱いたイメージに従って後続情報も理解しようとする。
(このような思考に陥る事を「認知バイアスが掛かる」と言う)
正確な情報理解なんかどうでもよく、印象論に次ぐ印象論によって世論は形作られてしまう。
これはジャニーズ問題だけでなく、あらゆる事件、社会的出来事全てで起こる事だ。
私自身はジャニーズ自体への関心が余り高くない方だ。
私が関心を抱いたのはマスコミ報道の在り方であり、そこに注目して情報を追って来た。
その中で、メディアの報じ方の問題でジャニーズ事務所にとって不利な世間的な空気が作られていると感じた。
この点で、ジャニーズ事務所に対し、またそのファンに対して同情的な気持ちを抱いている。
それ故に、これ以上、ジャニーズ事務所にとって不利な空気を作らない為にこそ、ファンの自制心を呼び掛けたい。
無理筋な擁護に見える言論、陰謀論臭い主張には、近付かない方が良い。
「このような可能性もあるかも知れない」
と心の内に留めておくのなら問題無いが、それを積極的に拡散し出すと、それが広まったところで
「ファンはこんなおかしな話まで信じ始めているw」
と奇異な目で見られるばかりで、望ましい世論の変化には繋がらない可能性が高いのだ。
私の話もそうだが、マスコミの報道内容を検討し、分析して出て来る主張は二次情報の域を出ない。
直接取材して得られた一次情報とは本質的な違いがある。
直接取材し、疑問を取材対象にぶつけ、回答を貰う作業と異なり、検討・分析した人物のバイアスが掛かる。
どんなに筋が通った解釈であっても、それを取材対象にぶつけた上で、回答を貰ったり、問われた際の当事者のリアクションを見た訳では無い以上、報道内容を越える事は決して出来ない。
二次情報の限界を正しく理解した上で、報道内容の検討・分析に当たって欲しい。
NHK「NGリスト」報道
まず、10月4日のNHKによるスクープ報道、指名NGリスト報道について。
ジャニーズ事務所会見 会場に質問指名の「NGリスト」
10月2日、ジャニーズ事務所の会見時、会見運営側スタッフが「氏名NGリスト」と書かれた紙を持っていた事が4日のNHK報道で明らかになった。
この情報(プラスアルファ)を基に、NHKが10月4日、
ジャニーズ事務所会見 会場に質問指名の「NGリスト」
とのスクープを報道した。
ジャニーズ事務所のリアクション
FTIコンサルティング社が頼まれていないにも関わらず、指名NGリストを作り、それに気付いた井ノ原氏が、「絶対当てないとダメですよ」と発言したとされる。
後に、FTIコンサルティング側はリスト作成の事実を認めた上で、
「多大な迷惑と心配かけたことを心より深くお詫び申し上げます」
とコメントを出している。
また、当日司会を担当した松本和也氏(元NHKアナウンサー、現在はフリーアナウンサー)も、このやり取りを聞いていた事から、NGリストにある記者の指名を避けようとはしていないと声明を出している。
ジャニーズ側主張を改めて箇条書きに纏める。
9月30日、会見運営を委託したFTIコンサルと打ち合わせを行った
FTIコンサルがメディアのリストを作成して来た
リスト中に「NG」との文言を見付けた井ノ原氏が「これどういう意味ですか?絶対当てないとダメですよ」と発言
これを受けて、FTIコンサルは「では当てるようにします」と回答
このやり取りはジャニーズ側全役員が聞いている
ジャニーズ側はリスト作成に全く関与していない
FTIコンサルティングのリアクション
当初は
「契約内容も含めてお答えすることは一切できません」
としか反応しなかった。
これは「契約上の秘密保持」の観点から、内部事情をクライアントであるジャニーズ事務所に無断で語る事は出来ない為、致し方ない面がある。
但し、NHK報道を受け、ジャニーズ事務所側が
「NGリストは運営側が作成したものであり、ジャニーズ事務所側は作成に関与していない」
と釈明したからには、FTIコンサルとしてもリストに関して見解を示す必要に迫られた。
10月5日、ジャニーズ事務所に続いて公式コメントを発表した。
以下、デイリーの報じたFTIコンサル公式コメント全文を示す。
他紙の報じたコメント全文も一致している為、会見に参加したメディア全体に送られたのかも知れない。
此方もFTIコンサルティング主張を箇条書きに纏める。
報道されたリストは「会見準備資料」
会場使用時間の制限もあり、円滑な運営準備の為に自社が作成、運営スタッフ間で共有
ジャニーズ事務所は作成・共有に関与していない
実際の会見では、このリストに関わらず、登壇者、司会者の判断で指名を行った
司会者・松本和也氏のリアクション
司会を担当したのは元NHKアナウンサーで、現在はフリーアナウンサーの松本和也氏だ。
「会見でNGリストに従った進行が行われたのか、否か?」が問われる中、ジャニーズ事務所、FTIコンサルティング以外の会見を取り仕切る当事者だった松本氏に対しても、その実態について説明責任を求める声が上がっていた。
これに応え、10月6日に松本和也氏も公式のコメントを発表する。
松本和也氏が設立したプレゼンやスピーチなど、喋り方に関する講座などを行う株式会社マツモトメソッドのプレスリリースとして、NGリストに関し、松本氏へ問い合わせが多い内容に対しての回答となっている。
企業のプレスリリースを配信するサービスを行うPRTIMESでの回答を引用する形で、他の媒体同氏のコメントで記事を配信している。
此方も箇条書きに纏める。
「NGリスト」は手元にあり、顔写真のあった質問者の数人についてはその位置も伝えられたが、質問者の順番等で具体的指示は無かった
リストに沿って指名を行ってはいない。その理由は、9月30日の打ち合わせにおいて、井ノ原氏とFTIコンサルとのやり取りを直接聞いていたから
司会として心掛けたのは、時間的制約のある中で一社一問を守ってもらい、端的な質疑に導く事、偏りの無い指名にする事
但し、最初の方はオンエアに間に合うよう、生放送中のテレビ局に対して優先する部分があった
「指名されないのはおかしい、茶番だ」と騒いだ記者2名については、大声で質問を繰り返し、東山氏、井ノ原氏らの回答を何度も受けており、その為、一社一問の原則から指名しない事にした。(※時間泥棒による追加情報。この2名はNGリストの上段に書かれていたArcTimesの望月記者、尾形記者の事)
指名の途中に松本氏が「顔を覚えられなくなってきました」と言ったのは、既に指名した記者全てを覚え切れないとの意味であって、リストの顔写真との確認などに関わるような話ではない
メディアの受け止め
NHKがスクープ報道するまでの経緯の”推測”
※小見出しにある通り、あくまで「推測」です。
基本的に報道される内容については、どんな媒体でも情報の正確性は大切になる。
テレビ、新聞等の大手マスコミの場合、報道する内容に関しては複数の情報源から同じ情報が得られなければ報道しない、のような内部ルールがあるらしい。
この「複数」は、「複数人が言っている」だけではダメで、「その人たちが聞いた情報を辿って行ったら同じ人が発信源だった」では結局情報源は1つしか無い事になる。
「根源となる情報を知り得る複数のルートから確認が取れた」場合に、報道OKとなる訳だ。
ただ、特ダネスクープに関してはこの内部ルールの適用が厳密に出来てない場合もあるようだ。
この場合、報道内容的には大きなスクープなのに、他局、他紙の後追い報道が出ないと言った状況が発生する。
大体、こう言った場合は、功を焦ったメディア企業の勇み足で、複数ルートからの情報確認が取れなかったもの、結果的に誤報だった可能性が高くなる。
逆に、1社スクープに焦った他局、他紙が「こう言った内容の報道があった」との形式で後追い報道を行ったものの、スクープした社だけが適切な表現を使っていて、後追い報道の中では報道されている内容はほぼ同じながら、細部で事実と異なる表現が混入し、後追い報道したメディアが総じて訂正報道せざるを得なくなる、なんて事も発生する。
週刊誌報道だとソースのダブルチェックはそこまで厳密に求められないようで、編集者が信憑性を強く感じた場合には一人の告発証言だけで大々的に報道し、後で名誉毀損などで訴えられる事が起きたりもする。
情報源を公開出来ないタイプのスクープ報道もある為、裁判で争って負ける場合も少なからずあるし、情報源のリーク者が確かに存在する場合でも、物証、証言の不十分さを認定される形の敗訴もある。
大手マスコミより訴訟が多くなりがちな理由がここにある。
取り敢えず、テレビ、新聞は基本的に情報源のダブルチェックを行っている事だけ、把握してもらいたい。
NHKは10月2日時点で、女性スタッフの持っていた紙に「氏名NGリスト」の文字がある事に気付いていただろう。
通常のカメラの精度ではステージを漫然と映した映像のアップであのサイズの文字を拡大し、読めるようにするのは困難だ。
(そうじゃなければ、他のテレビ局も映像を拡大しただけで自社映像から同じ情報を報じる事が出来たはずだ。)
NHK側のカメラが運良くズームアップした所に「NGリスト」が飛び込み、特ダネスクープに繋がった。
(運良くビデオチェックで気付けたのか、NHK側でどう認識したのかは正直何とも言えない部分ではあるが、確証ある情報は今のところ何も出て来ていないので、これ以上は踏み込まない}
ただ、経緯はどうあれ、NHKは気付けて、他社は気付けなかったスタッフの持つ謎のプリントについて、NHKだけが報道するチャンスを得た訳だ。
NHKとしてはこれを報道する為に、ジャニーズ事務所、及びFTIコンサルティングの両社に事実確認を求めただろう。
その回答が得られた所での今回のスクープ報道と相成った、そう推察する。
但し、第一報では「NGリスト」に関して、両社の回答内容では裏取りが出来た訳では無い事が明らかだ。
ここにNHKの第一報のアーカイブを紹介する。
10月4日、19:00付けの報道内容だ。
FTIコンサルティングは「契約上の秘密保持」を理由に回答を拒否し、ジャニーズ事務所も認知していないと主張している。
つまり、第一報を報じた時点では、両社からは情報源のダブルチェックに使える情報は入手出来ていなかったのだ。
それでもスクープ報道として報じたからには、取材VTR中の「氏名NG」の画像確認だけでなく、少なくとももう一つは直接的な情報のタレコミがあった事が推察される。
「『氏名NG』の意味について、他に可能性は無いだろう」と強く推認出来る程度に、具体性のあるタレコミでも無ければ、両社が否定している最中に報道に踏み切れないと思う。
報道機関にとって一番恐ろしいのが、世間的な注目が集まっている事件に関し、1社独占スクープ報道を行った上で、それが誤報だと判明してしまう事だ。
報道内容が両社にとって不利となる情報の為、誤報であったならば両社にとって大きな報道被害を与えた事になってしまう。
その場合、報道を許可した担当者は懲戒処分を免れないだろう。
そのリスクを越えられる程度に、信憑性を感じられる人物から素性を明かされた上でこの情報がリークされた、と見るのが自然に思う。
(ただ、私はメディア関係者でも無いし、メディア関係者の知り合いもいません。自分が見聞きしたメディア関係者の報道に関する情報を正しいものとし、推論を述べているに過ぎない事は留意してください。
鵜呑みは厳禁です。)
そして、ジャニーズ事務所がNHK報道を受けて急遽公式見解を事務所HPにて発表する。(記事上部にリンクあり)
NHKはこれを受けて、ジャニーズ事務所側の見解を「まったく知りません」から公式見解に合わせて書き直している。
これが現在閲覧できるNHKの報道内容だ。
此方も一応、魚拓を貼っておく。NHKのウェブ記事は何時まで閲覧可能か分からないので、情報共有用として。
10月5日、0:21付けの第二報だ。
ジャニーズ事務所側主張が「運営企業が作ったリストであって、我々は関与していない」との内容の為、NGリスト自体は存在していたと証明される事となり、これでNHKのスクープ報道が完全なガセネタではない事も判明した。
ジャニーズ事務所の公式声明は「会見において記者の選別を依頼した事実は無い」としているものの、「NGリストが存在していた」との部分に焦点が当たり、他局、新聞、週刊誌を始め、ネットメディアでも大きく取り上げられる事となった。
NHKを含む大手マスコミの「NGリスト」報道に関して
大手マスコミが、「NGリスト」の存在を以て、記者会見の在り方に懐疑的なコメントを発するのは、致し方ない事だろう。
特に、今回の騒動発覚後、大手マスコミは「ジャニーズ事務所と持ちつ持たれつの関係性」があった事が、各方面から非常に問題視されて来た。
ジャニーズ事務所、運営企業、司会の松本アナの3者の公式的な見解自体には齟齬が無く、「その通りかも知れないな」と判断可能な内容ではある。
だが、ジャニーズ事務所らの公式見解をそのまま伝えた上で、「じゃあ、NGリストの問題はここでお終いですね」とテレビ局、新聞が言い出した場合、
「やっぱり大手マスコミはジャニーズに忖度してるに違いない」
との声が上がるのは火を見るよりも明らかだ。
テレビも新聞も、事ここに至ってジャニーズ事務所に対し宥和的で同情的な姿勢を示す事は、自分達への世間的な風当たりを強くするばかりで、自分達の立場も悪くする上に、ジャニーズ事務所への批判的な声が強くなる事も予想され、誰も得する結果を生まないのだ。
その為、ジャニーズ事務塑擁護と取られかねない発言を極力避けるよう、事実関係の話をした後で、「それでもNGリストが作られてしまった状況は如何なものか?」との構成で、予防線を張るような報道を行っている。
「NGリストが実際にどれだけの意味を持っていたのか?」と乖離した所で、マスコミ報道が進んでいる事は事実としてあるけれども、ここを理由として大手マスコミ報道への攻撃を行うのは、余り生産的ではない。
これはこれでファクトベースの報道が出来ていないとの観点から問題はある。
だが、「我が社のこれまでのジャニーズ事務所との付き合い方にも問題がありました」と反省しながら、完全な中立的立場からこの話題を語る事など不可能なのだ。
テレビでの追加的報道
また、「NGリスト」が生まれた背景に関して、テレビ局の取材によって、より細部の情報も出てくるようになった。
此方は10月5日夜のニュースゼロでの報道内容。
※上が日テレニュースの元記事、下はその魚拓
此方は10月8日の真相報道バンキシャの報道内容。
※上が日テレニュースの元記事、下はその魚拓
これらの取材内容から明らかとなったやり取りが正しいとの前提で考えるならば、
「ジャニーズ事務所がNGリストを作成するよう求めた訳では無い」
事が読み取れる。
ジャニーズ事務所が求めた事は、9月7日の会見で発生した出来事に端を発する。
一部記者からのアウティング(性的志向について本人の了承を得ずに広める事)や、性被害に遭ったのかどうかを問い質し回答強要する行為、性的な行為に関する詳細についてわざわざ質問中に入れ込む行為があったのだ。
これらをセカンドレイプ、二次被害として認識し、これが再び起こらないような対策をジャニーズ事務所がFTIコンサルティング側に求めた。
この対応策として、FTIコンサル側が9月30日に持参した資料が件の「NGリスト」だった訳だ。
これらの追加取材で得られた情報は、NHKのスクープ報道後になされたジャニーズ事務所、FTIコンサルティング、松本アナら3者の公式見解と齟齬する所が無い。
ただ、それをそのまま報じるのでは、やはり「ジャニーズへの忖度」が疑われると心配しての事なのか、
「『NGリスト』が作られた背景にジャニーズ事務所の要望があった事実」
にフォーカスし、あたかも公式見解と現実との間になにがしかのギャップがあるかのような表現になっている。
加熱する週刊誌報道
一方で、週刊誌報道に関しては、世間的なウケを意識して、新たなスクープ的情報が出て来た訳でもないのに、煽情的なタイトルでNGリスト問題をより大きく煽る方向で次々に記事が出されている。
だが、事実関係だけを拾って行くと、やはり3者の公式見解と完全に齟齬が生じているような内容では無いのだ。
幾つかの週刊誌報道に関しては、改めてジャニーズ事務所から「事実無根」のプレスリリースが出されている。
世間的な耳目を集める大きな話題である事から、まさに書き入れ時とばかりに、”攻めた”報道を行っているように見える。
また、今現在のジャニーズ事務所の置かれた立場を考えた場合、少々のライン越えでは名誉棄損訴訟の可能性は低いと踏んでいるのかも知れない。
世間的にはそれほど同情できないレベルの誤報で、法廷闘争を挑んだ場合、報道被害を被った側のジャニーズに対し「反省が足りないのでは?」との方向で批判が高まる恐れもある。
世間的受け止め
ここまで述べた通り、マスコミ報道の中心は
「NGリストが作られていた」
との事実に焦点を当てている。
ジャニーズ側が依頼して作らせた訳ではない事に触れた場合でも、
「NGリストが作られた事自体の責任は少なからずジャニーズ事務所にもある」
との前提で報道されているものが多い印象。
また、ネットの反応の多くも、
「事ここに至って、まだ報道に圧力を掛けようとするとは」
との形式でジャニーズ側への批判が強い。
そして、時事系や芸能系の話題を扱うYouTuberなども、この受け止めを前提として話題を扱っている様子を幾つか見掛けた。
先ず、ジャニーズ事務所自体への印象が相当悪い中で、このような報道に触れたのだから、更に悪印象を募らせる事になるのも致し方ないと思う。
人は、あくどい事をするような人・組織だと一旦認定すると、その人・組織は継続的にあくどい事をし続ける可能性をより大きく見積もるようになる。
扇動に弱い大衆の例(安倍晋三元総理の場合)
※メディア自体の問題、世論形成に興味が無い方は、飛ばしてもらって構いません。
その典型例が安倍晋三関連の報道と、それを受けての世論変化だ。
(私個人は安倍晋三を高く評価していて、マスコミ報道がおかしかったと思っている。ただ、ここではその内容を掘り下げる事はしない。また、安倍晋三への読者の印象を変えようと試みるものでもない。政治的傾向は置いといて、取り敢えず読んで欲しい)
マスコミ報道では、特にモリカケ問題以降、真に何が問題なのかをさておいて、相次ぐ疑惑とそれに対し不十分に見える総理の対応、そしてその態度に注目を集める構成で延々と疑惑報道を繰り返した。
結果として、疑惑とされる個々の事案の何が問題なのか、自分の口で説明出来る訳でも無い人でも、かなり多くの国民が
「安倍晋三は後ろ暗い所のある政治家」
「政治家として能力があるのかも知れないが、潔癖とは言えない人物」
との印象に流されたと思う。
自民党の支持率がそこまで落ちていない状況でも、政権支持率が低い状態が特に政権後半に多くなった。
一旦、疑わしいとの方向で印象付けられてしまうと、疑わしさを強める方向の論評に信憑性を感じるようになる。
この先入観は、自力で解消出来るようなものではないのだ。
扇動に弱い大衆の例(飯塚幸三氏の場合)
※メディア自体の問題、世論形成に興味が無い方は、飛ばしてもらって構いません。
2019年に発生した東池袋自動車暴走事故の容疑者、飯塚幸三氏に対する世間的な受け止めでも同じ構図があった。
予め言っておくが、私は別に飯塚幸三氏を擁護したいとは思っていない。
事故による結果の重大性、また、身体能力面で運転に支障がある現実を受け止め、運転自体を諦めていたなら避けられた事故としての側面から、飯塚氏の責任は非常に重いと考える。
だが、その一方でメディア報道の過熱と飯塚氏の”真意”を巡るネット言論の暴走によって、必要以上にその人間性を貶める言説が蔓延ってしまった。
逮捕されなかった事から”上級国民”とのワードがかなり流行った。
だが、被疑者が負傷していた場合に逮捕を回避する事は警察対応として、通常の行為なのだ。
一旦逮捕すると、48時間以内に身柄勾留の請求を裁判所に求める。
認められれば10日間の拘留が可能となる。
更に、取り調べに必要な期間として再拘留手続きを行い、これが裁判所に認められれば更に10日間の拘留が可能だ。
通常、勾留期限ぎりぎりまで捜査・取り調べを行い、そこで検察に捜査情報、取り調べ調書を送り(送検)、検察が起訴すべき案件かどうかを判断する。
逆に言うと、一度警察が逮捕すると20日余りの後ろが区切られた状況に置かれるのだ。
この長くない時間制限において、被疑者の体調不良で医療的判断により取り調べが困難となると、それだけ取り調べが不十分な形で送検せざるを得なくなる。
予め体調不良での取り調べ不能な日数が予想し得ない状況で、犯人が逃亡する危険が非常に低い場合は、逮捕を回避し、体調面で問題無い時に任意の取り調べを繰り返し、十分な捜査が尽くされた後に送検する方が、警察にとっても検察にとっても難しい判断をしなくて済む。
飯塚氏の逮捕回避は、単純にこの意味合いだけで発生したものと解釈するのが自然だ。
「飯塚氏が逮捕されなかった事が異常なのだ」と言いたい人達は、その後に飯塚氏よりも更に高齢のドライバーによる自動車事故で逮捕されたケースを持ち出し、飯塚氏への特別待遇を語ったりしていたが、運転手の健康状態の情報が無ければ、飯塚氏への対応の是非など語れないのだ。
また、逮捕回避が何らかの政治的意図によってなされたとの推測が如何に無理筋か説明する。
事件発生直後では、その事故原因について、世間の誰もが詳しい内容を把握していない訳だ。
場合によって、飯塚氏が何らかの薬物(別に違法性のあるドラッグの事では無く、処方薬で服用後に運転等をしないよう注意されるタイプの薬は存在する)によって前後不覚に陥っていた可能性だってある。
原因が飯塚氏本人にある事が捜査後、間もなく発覚する可能性を考慮するならば、仮に政治的に逮捕をストップさせる権限を持つ人間がいたとしても、そう簡単にそんな判断を行える訳が無いのだ。
また、警察側だって通常と異なる政治判断に関して、妥当性が無いものに対しては現場で憤りの声が発生するだろう。
官僚組織は政治家の方を向いて仕事をしているのではなく、官僚組織の上層部を伺いながら仕事をしている。
そして、官僚組織上層部は、政治家に阿るのではなく先例主義に従って判断を行う。
上層部にとって恐ろしいのは政治家ではなく、先例を作り上げて来たその組織のOBらなのだ。
(また、高級官僚として天下り先を差配するのも組織OBなので、組織OBへの反抗は退職後の人生に直接関わる)
仮に誰かの政治的判断によって現場捜査に介入した直後、そうすべきじゃなかった事情、それも到底隠しおおせるような性質ではない話が判明すれば、通常とは異なる警察対応が何処から発生したのかの追及が始まる。
この時、不当な政治介入があった事は現場からの不満の声として幾らでもリーク情報が流されるだろう。
事件の概要も分からぬ内に、無理筋の被疑者擁護で捜査現場に介入する動機なんて誰にとっても発生し得る訳が無いのだ。
また、行政組織は縦割り意識が非常に強い。
警察官僚が、経産省の有力OBだからと言って、何らかの配慮をしたくなる理由も全く発生し得ない。
警察・検察の通常対応を知っていれば、また、官僚組織がどのような行動原理に従っているかを理解していれば、”上級国民”との揶揄に正当性など全く無い事が直ちに分かる話だ。
にも拘らず、未だに”上級国民”云々を語るネット言論は少なくない。
一旦、その疑わしさを信じた人達は、その疑わしさを強化する方向で情報を集めようとしてしまうからだ。
別の話として、飯塚氏が「自動車側の不具合」を訴え続けた事に関して、「寿命まで逮捕・拘留を避ける為の法廷戦術に違いない」との声も上がっていた。
一つの可能性として、そう考える事は自由だ。
だが、「可能性の一つとしてある」と認める事は、「他の可能性を考慮しなくて良い」と言う事にはならない。
捜査、及び裁判における検証で飯塚氏の認知能力に問題は無かったとされるが、一般に高齢になるほど瞬発的な判断力は低下する。
事故現場よりかなり手前から一貫して加速し続けていた事から、異常を認識し始めてなお、飯塚氏は自分が踏んでいるのがブレーキに違いないと確信したのだろう。
通常、この手の踏み間違え事故において、被疑者は事故と言う結果から遡って、自身が踏んでいたのがブレーキでは無くアクセルだったのだろうと受け入れる。
飯塚氏の場合、一貫してブレーキを踏み続けたのだと主張した。
自動車メーカーによる車両に残る記録データからもアクセルのみが踏まれていた事が証言されてなお、自身の踏み間違えを認めなかった。
第三者視点では、飯塚氏の主張は客観的証拠によって否定されたと見える。
そして、飯塚氏も早くその客観的証拠を受け入れ、自身の誤りを素直に認めるべきだと考えるのは自然な事だ。
また、被害者遺族の心情を慮り、被告人の態度に不誠実さを感じる事も感情的には理解出来る。
だが、当人的にどうしても納得し難いとなった場合、裁判を通じて自身が信じた内容を主張し続ける事は被告人の権利なのだ。
傍から見て妥当性が無いと判断し、そう主張する事はおかしな事では無いが、だからと言って、むやみやたらに被告人の権利を制限して良い訳でもない。
そこに「拘留・禁固を避ける為の法廷戦術」の意図を想像しても構わないが、それが確定的な事実であるかのように語るのは明らかに言い過ぎだ。
そこまで言い切るのは、そう推察出来る何らかの直接的証拠が出て来てからにすべきだ。
自分がもし被告人の立場になり、世間的な受け止めと自分自身の思いに乖離が発生した際に、世間的受け止めに合わせるよう自身の主張を不本意ながら変えざるを得なくなった場面を想像してみて欲しい。
貴方はこれを「被告人の人権が尊重された裁判」だと思えるだろうか?
このように被告人が世間的な受け止めによって糾弾される事を「人民裁判」と呼ぶ。
ネット内では「寿命まで逃げ切る為の法廷戦術」との主張が圧倒的に優勢になり、実際の裁判の結果が出る前から「人民裁判」によって、被告人に対する人格攻撃が止む事無く続いた。
しかし、一審が被告人主張を全面的に認めない有罪判決で終わった直後、飯塚氏はそれまでの主張を全て諦めた。
自身の運転ミスであった事を認め、遺族らに反省の弁を述べた。
更に高齢を理由とした裁量的執行停止を求める事もしなかった(要は刑務所収監を回避する手続きを行わなかった)。
この事は、「寿命まで収監を逃れる為の法廷戦術」との評価が完全に外れていた事を示している。
本来ならば、「法廷戦術」云々で飯塚氏の”真意”を語っていた人達は、この点について認識が誤っていた事を認めるべきだ。
これで飯塚氏の善性が証明出来た訳では無いにしろ、悪く言い過ぎた部分について、一旦はそれが不当な行為だったと言うべきだ。
だが、そのような事は起こらなかった。少なくとも、ネット言論での主流にはならなかった。
未だに飯塚氏に関して不誠実な対応をし続けた悪辣な人物、”上級国民”としての特権意識で逃げおおせようとした不徳の人物とする評価の方がネット言論では多数派だ。
下手に飯塚氏への評価について、妥当性を欠いてると指摘した所で、「お前も特権を受ける側の人間か?」と明後日の方向から食って掛かられる事だろう。
世間的な空気と言うのは、事程左様に「現実に何があったか?」と乖離したイメージの中で作られるのだ。
そこに真正面から異論を唱えた所で、情報を精査し直し、見解を改める人間などほとんどいない。
「逆張り野郎が何か言ってらぁw」と物笑いの種になるのがオチだ。
ジャニーズ事務所に対しても、ほぼ同じ事が起きているし、今後もその空気はほとんど変わらないだろうと見る。
ジャニーズ事務所に相当強いマイナスイメージを抱いた人達は、事務所にとってネガティブな情報ほど「やはりそうだったか」と鵜呑みしやすくなるし、事務所にとって有利な情報は疑って掛かり、何らかの情報工作が始まったのではないか?と警戒する。
「世間的空気」は事実では無く、情緒によって作られる
大衆の空気は、ジャニーズファンや、ファクトベースで報道内容への疑義を唱える私のような少数派が、どれだけ努力しようが基本的に変えられない。
ジャニーズファンの立場として、どうにか世の中の空気を変えたいと思う人は少なくないだろうが、その希望が大きい程、後になって受ける絶望も大きくなる。
客観的な情報を整理し、世間的な受け止めとのギャップがどのように発生したのかを言語化しておくくらいが二次情報発信者として出来る限界だ。
出来る事、出来ない事を冷静に受け止めてこそ、説得力ある論評が可能になる。
そして、「本当のところ、何があったのだろう?」と改めて情報を精査したい人が一人でも多く現れる事を願うしかないのだ。
一部ネットにある「氏名NG」と「指名NG」への疑義に関して
実際の会見時にスタッフが持っていた紙の資料には「氏名NG」と書かれていた。
これを以て、「『指名NG』と報じたNHK報道は誤報だ」との声が一部にある。
だが、ジャニーズ事務所にしても、FTIコンサルティングにしても、
「氏名NGであって、指名NGではありません」
との抗弁は行っていないのだ。
ここに特別な意味を見出そうとするのは筋悪の推定だ。
第一報の直後なら、まだこの指摘にも多少は意味があったかも知れないが、現実として「指名NG」の意味合いで公式見解が出されている以上、ここを幾ら掘り下げても、何も得られるモノは無い。
そう言った部分に関しては上掲リンク記事に概ね賛同する。
但し、そこにだけ注目し、全般的なマスコミ報道批判の論調をあらかた纏めて陰謀論チックなものと片付けるのもまた、情報に対して真摯な対応と言えない。
上掲記事で紹介している2つのポストを埋め込みしたが、マスコミへの批判的立場から疑義を呈した事自体を否定するのは、マスコミ報道の検証手段を狭める事になってしまい、これはこれで健全じゃない言論空間に繋がってしまうだろう。
個人的に、これら2つのアカウントからの情報発信で気付きを得る事も多く、1つのポスト検証によってネガティブな印象を抱くのは勿体ないと感じる。
ジャニーズメンバーの受け止め
報道系や情報系番組に出演するジャニーズメンバーも数多くいる為、「NGリスト」問題発覚に関し、番組内でコメントしている。
概ね、
「『NGリスト』があった事自体が問題」
との立場を取り、一部では
「改めて会見する必要があるのでは」
とより事務所側に厳しい姿勢を見せている。
彼らは、ジャニーズ事務所としての公式声明を軽視している訳では無いだろう。
だが、その公式声明の内容に準じて「NGリストが作られた背景」を説明する側に回ると、結局のところ「ジャニーズ事務所は体質的に何も変わってない」と世間的に思われるだけだと重々承知しているのだと思う。
身内だからこそ、余計に身贔屓と取られかねない発言は避ける必要があるのだ。
個人的には中丸雄一氏のコメントが内容的に賛同する部分が大きい。
ただ、ジャニーズ事務所への批判を強く行っている人達からは、事務所擁護の姿勢が滲むものとして、ウケが悪そうかな、と思ったし、事実5ちゃんねるではそう言うスレが立てられていたようだ。
多分、状況的に事務所の擁護と取られかねない発言だと分かった上で、”敢えて”の発言だろうと推察する。
批判を甘受してでも、どうしても言いたいとの覚悟の強さと、率直な疑問点を理路整然と語っている事から、地の頭が良い人なんだろうと思う。
ジャニーズ事務所所属のアイドルと言う事で「たかがアイドルにニュースを語らせるなんて」と叩かれがちなアイドルのニュースキャスター、コメンテーターだが、私個人は別にその属性を敵視する必要は無いだろうと言うのが持論だ。
アイドルに限らず、タレント、芸人のコメンテーターも否定しない。
彼らの役割は、ニュース番組、ワイドショーを視聴しているごく普通の一般視聴者の理解を増進させる為、共感を生む装置としての役割を期待されているのだと私は解釈している。
YouTubeのゆっくり動画解説などを見ても分かる事だが、難しい話を事実の羅列でひたすら語られるよりは、解説役と聞き役で役割をきっちり分けて、普通の人、前提知識の無い人の立場からのコメントが挟まれる方が、ずっと聞きやすいし理解しやすくなるものだ。
芸能人コメンテーターは、この聞き役のポジションとして機能すればそれで充分、視聴者の役に立っていると言える。
そういう中にあって、シューイチに出演している中丸氏にしても、関西ローカル「正義のミカタ」に出演しているジャニーズWESTの中間淳太氏にしても、そういう視聴者の理解増進の役割以上に、自分の言葉で意見を理路整然と言える力があるのなら、更に批判の対象とする理由が見当たらない。
まぁ、ある種のテレビ批判のテンプレ的な論調でもある為、言ってる人達もどれだけこれを本気で言っているのか分からないし、最近だとそもそもテレビ視聴せずにこれだけ言ってる場合もありそうに思う。
「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の受け止め
予想された事ではあったが、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」がジャニーズ事務所に対し、記者会見のやり直しを求めた事が報道された。
彼らの立場では、「記者に対し、公平性が担保されなかった可能性」はすなわち「ジャニーズ事務所が未だに問題に向き合わなかった可能性」と同じ意味を持つ為、このようなリアクションとなるのも必然、仕方ない事だろう。
ジャニーズ事務所としては、「当事者の会」に納得してもらえない事が、そのまま世間から厳しい目に晒され続ける事を意味している為、この要請に応じる可能性が高いのではないかと思う。
ただ、ジャニーズ事務所側は10月2日に行った記者会見の時と、記者に対してどう向き合うかの姿勢は変わらない(元から逃げ隠れする気が無い)ものだと私は見ているので、記者会見の持つ意味合いが大きく変わるような事も無いだろう。
今回、NGリストに載っていたとされる人達が優先的に指名されるであろう事、そして、望月記者らが「質問と言う名の演説」を延々と行う事が予想される。
およそ生放送での中継が躊躇われるような内容になるんじゃないかと、今からげんなりする。
望月記者に対する私の論評は此方でも行っています。
私個人の受け止め
NHKの一報に触れた時点で、ジャニーズ側事務所が今、このタイミングで特定記者を排除したがるとは考えにくいと感じた。
現執行部への期待があっての事ではない。
リスクとリターンの関係が全然取れていないからだ。
世間の中心的な関心は、ジャニー氏による性加害に対し、事務所としてどう向き合うのか、どう清算するつもりなのか?に集中しているだろう。
記者会見での質疑応答を無難にこなせば終わる話では無い。
先月の会見から1か月足らずで再度の会見が必要とされたのも、そこが不十分との強い指摘があり、事務所として真摯な対応が出来てないと世間的に認識された事が大きな要因だろう。
そして、「真摯な対応が出来ているか、どうか?」について、世間的な評価に直結するのが、かつてジャニー氏から性加害を受けた事を告発した人達の組織、「当事者の会」の受け止めに掛かっている。
この構図を理解した時、「記者会見をそつなくこなす」事は会見する目的の最優先事項には決してならない。
記者会見が荒れるよりは、波風立たない方が望ましい。
それは勿論そうだろう。
だが、波風立たない記者会見を何度やったところで、根本的な事務所への非難が収まる事は無い。
再度の記者会見をセッティングした時点で、ジャニーズ事務所が世間から何を求められているか?は流石に分かっているだろう、と私は考えたのだ。
目先の会見をスムーズに終えた所で、事務所のダメージコントロールには全く寄与しない。
一方で、万が一面倒くさい記者に質問権を渡さない事が露見した場合に被る被害は甚大だ。
メディアからも世間的な受け止めでも、役員としての資質無しとの烙印を押され、その地位を失う事だろう。
そして、今現在、ジャニーズ事務所的に一番避けたかった”誤解”の発生によって、まさにその状況に陥っている。
「特定記者の排除」なんて行えば、こうなる事はちょっと考えれば最初から予見出来る話だ。
だからこそ、井ノ原氏はそのリストを見て、真っ先に「当てなきゃダメだ」と言ったのだ。
つまり、井ノ原氏を始めとするジャニーズ事務所側はこの「リスク」を理解していたと言う事だ。
ジャニーズ事務所は「記者排除」による「リスク」と「リターン」について、ほぼ正確に把握していただろう。
少なくとも、井ノ原氏の発言から「リスク」は確実に把握していたはずだ。
ならば、「記者排除」の「リスクとリターンが見合ってない」事も、ほぼ確実に理解していたと私は見る。
勿論、無能な為にリスクとリターンの評価がまともに出来ておらず、更に「バレた場合にどうなるか」を考慮出来ずに目先の利益を望んだ、との可能性はゼロじゃない。
ただ、それはゼロじゃないと言うだけの話だ。
特に、既になされている「NGリスト作成の背景」として出ている情報と合致するように、ジャニーズ事務所側の誰もがまともにリスク評価を行えなかったとする筋書きで解釈するのは至難の業だろう。
そうに違いないと言えるほど、現執行部の悪辣さ、小賢しさを示すエピソードも無い以上、その可能性がどの程度あるのかを考えれば、この可能性はとても低いだろうと考えるのが自然だ。
一方で、会見運営を任された企業側は、クライアントからの要求に対し、文字通りの回答を用意しようとするだろう。
日テレ系報道番組でなされたようなやり取りで、「荒れない質疑応答にする手立て」を求められた際に、「NGリスト」と言う安直な回答を用意してしまったのは、他に分かりやすい対応が無い事も相まって、自然な流れなのかなと思う。
ただ、普通にリスクマネジメントの頭が回る人が付いているならば、同じ資料を作成するのでも、字面の上ではよりマシな弁明可能な資料にするべきではなかったか?と思わずにはいられない。
制作意図をすっ飛ばし、「NGリストが作られていた」との内部情報が流出し、拡散された場合、クライアントに致命的なダメージを与える事も容易に想像が付く話だ。
まさに、今起こっているような展開は、「NGリスト」を作成させた時点で想定されてなければおかしい。
このような実務に携わった経験など無いけれども、クライアントに寄り添う気持ちが余り感じられないのが率直な感想だ。
また、荒ぶる望月記者に対し、井ノ原氏が諫めた際に、一部の記者が拍手をした事が問題視されている。
未だにジャニーズへの忖度が抜けない連中がいる、との解釈が中心だ。
だが、私には、目に余る望月記者の暴走に、現場の記者もフラストレーションが溜まっていて、井ノ原氏の言葉に「その通り」と膝を打っただけにしか見えない。
マスコミ内で、どうしても望月記者のようなタイプを持ち上げないと気が済まない人が一定数いるようだ。
記者としての本分を全うするのと、政治活動家然として滔々と演説するのは話が違うと思うが、ここの区別をしたくないのか、出来ないのか。
おかしな人達もいるもんだな、と思う。
「NGリスト」問題が発生して間もなく書いた私の記事も参考にどうぞ。
「公式声明を出す重さ」を正しく評価する
一般的に、「人は嘘を吐くもの」だ。
「嘘を吐いた事が無い」と言う人は、「絶対に嘘吐きだ」と認定されるくらい、嘘はありふれている。
だからと言って、都合が悪くなれば誰でもその場を言いつくろう為の嘘を吐いてしまう訳じゃない。
大体、人生経験を積むにつれ、その場しのぎの嘘が余計に悪い結果を伴う事も経験する事になるからだ。
巨大な権力を持ち、それを如何なく発揮する場を長くに渡り与えられていた場合、不祥事発覚後にも嘘に嘘を重ね、ドツボにハマってしまう事は度々起こる。
もう過去の話になりかけているが、ビッグモーターの創業者親子の話は正にその典型例だろう。
従業員、元従業員からの相次ぐ証言によって、最初の言い訳が跡形も無く消え去ってしまった。
また、去年の話になるが、熊本県のある私立高校サッカー部において、コーチによる体罰が問題となった際、部員側が顔出し謝罪動画をネットに上げる異常事態が発生した件も思い出される。
私は最初、
「流石にこれを監督・コーチ陣が生徒に無理強いした、って事は無いのではないか?」
「こんな行為を無理強いすれば、部員の友人、同級生、他の運動部などにはすぐさま事情が伝わるだろうし、それがマスコミにキャッチされるのも時間の問題となるだろう」
「そんな単純な仕組みも分からず、生徒に無理強いをするような人間が、名門サッカー部の指導者になれるものだろうか?」
「この騒動が大きくなる事で、部活動の制限が掛かり、大会出場出来なくなった場合に、スポーツ推薦の可能性が失われるなどの心配をした上級生らが自発的に動いた可能性の方が、まだ筋が通ってるのでは?」
と考えた。
が、事実は驚くほどシンプルに、横暴な監督による無理強いだった事が判明した。
こんな分かりやすい時限爆弾を自ら抱え込み、更には厚顔無恥にもテレビ出演して身の潔白を主張したのだ。
1手先の未来すら読めない大人が指導的ポジション、さらには次の学長に座ろうかと言う立場にいた事の方に衝撃を受けた。
これらの人達は、「保身の為の嘘」を平気で吐いた人達だ。
「どんな立場の人でも、どんな嘘を吐くか分かったもんじゃない」
と結論付ける事もあながち間違いではない。
だが、より重要な学びのポイントは、
「無理のある嘘を平気で吐くと、時間経過と共にほころびが露見する可能性が高まる」
と言う事実だ。
世間的に注目度が非常に高い中、公式声明で悪びれもせずに嘘を吐くのは、何時か爆発するかもしれない時限爆弾を抱える事に他ならない。
秘密は作る事自体はそれほど難しくない。
秘密を秘密のまま保持する事の方がずっと難しいのだ。
これは「陰謀論」の信憑性を考える事とも通底する。
「ワクチン」関連の陰謀論は未だに一部界隈で猛威を振るっているが、医師、ワクチン研究者の全てを何らかの組織が思うがままコントロール下に置くなんて事、出来る訳が無い。
世界的に広く使用される事になったワクチンに関して、真に致命的な欠陥が見つかったのならば、その成果を世に問う事で、研究者として一気に名を上げられるチャンスとなる。
医師も薬学研究者もその動機に従って行動する権利がある。
世界中でこの安全性検証の研究を封じるなんて事は到底出来る話じゃない。
自由主義圏先進諸国に対し、敵対的な国家もある訳で、政治体制的に異なる領域にカネの力だけで無理を通すのは絶対に無理なのだ。
国際政治的な動機から、西側諸国で作られた薬品への疑惑の目を向けよう、国家への疑念を深めようとする東側、要はソ連由来の情報工作は昔からあった。
日本で子宮頸がんワクチンの接種率が大きく下がったのは、古い時代から続く左派的価値観・反国家的意識に基づくワクチンへの不信感を、マスコミが十分な検証も無しに大きく拡散した結果だ。
一方で、政治的に自主独立を志向し、その結果として反米をこじらせ、国際金融資本によって世界が牛耳られていると信ずる反左翼(※この手の人達を保守と呼びたくない)にもまた、世界的薬品メーカーによる危険なワクチンの流通を確信し、ワクチンをあらかた批判する人達が現れた。
政治的に正反対にいる人達がこぞって反ワクチンを言い出したものだから、「ワクチン陰謀論」はとんでもなくカオスな状況になっている。
この人達の共通点は、
「そんな大それた嘘をずっと保持する事が如何に難しいか」
と言う現実問題を、余りに軽視している事だ。
陰謀論に加担している研究者をまるで仮面ライダーのショッカーの如く、自らの意思を殺して命令に従うだけの人間と見做す事に躊躇いが無いのだ。
2020年のアメリカ大統領選挙において、「トランプ大統領は負けていない」と言い張った界隈も同じだ。
「ドイツのフランクフルトにおいて、選挙の不正を働いた連中がCIAと銃撃戦を行った」
との荒唐無稽な話まで飛び出した。
だが、現実にこんな事が起こったのならば、発生の有無は確定出来なくともこの情報を入手した時点で、確実にドイツ当局からアメリカ政府に事実確認が行われる。
もう、この時点で国際ニュースとしての価値が滅茶苦茶あるし、これを知り得る立場の人間は山ほど生まれる。
もし、アメリカ政府がドイツ政府と直接交渉して秘密保持で協力を得られたとしても、ドイツ国内の野党勢力、マスコミの口を完全に閉じさせる事は絶対に出来ない。
更に、ドイツ国内には反米国家の外交官らもいる。
ドイツの国家主権を侵した可能性のある事件が伝聞されれば、黙っている訳の無い勢力が山ほどいるのだ。
これら、「現実にあったなら絶対にリアクションする勢力」に関して頭に無い人達が、ひたすらに「選挙結果が盗まれた」と言い続けて今に至る。
彼らの主張は穴だらけだが、そこに気付けない人達ばかりが集まるのだから、延々と疑わしさばかりに囚われ、現実に向き合う事が出来ないでいるのだ。
ジャニーズ事務所の公式見解の話に戻る。
公式見解で大嘘を入れ込むのは、まともな神経では出来ない事だ。
ジャニーズ事務所で行われた大規模な性加害事件と言うのは、既に亡くなったジャニー喜多川氏によるものであって、(少なくとも現在の情報においては)現在の執行部が同じような行為を行ったとの話は出て来ていない。
ジャニー氏の加害状況を知る立場にあり、その環境にいた事を黙っていた事で間接的な加害者だ、との主張はあるが、この場合でも現実の加害行為の当事者ではない。
現在、事務所の執行部にいて過去の性加害問題に取り組んでいるが、他人の行った行為の尻拭いをしている状況なのだ。
過去のジャニーズ事務所の行状として、各種メディアに対する不当な圧力が広く知られる状況になった。
性加害問題と合わせて、事務所の体質も大きく取り沙汰されている。
この中で、わざわざもう一度、メディア対応で横暴な態度を取ろうとする人間がジャニーズ現執行部にいたとするなら、余程の大馬鹿野郎に違いない。
ジャニーズ事務所とFTIコンサルティングだけなら口裏を合わせる事もそこまで不自然では無いが、フリーアナウンサーの松本和也氏までその口裏合わせに付き合わせるのは、一気に難易度が上がる。
もし、事務所と会見運営会社の主張に嘘が紛れ込んでいるなら、松本アナの立場ではその嘘の告発を行った方がずっと自身の特になるはずだからだ。
元NHKアナの肩書きを生かし、喋りのプロとして、喋り方講座の講師としてビジネスをやっている松本氏が、その人生を賭けてジャニーズ事務所の嘘に付き合う動機など、普通に考えても思い付かない。
仮に大金を積まれたとして、短期的にはその得を得られた場合でも、全然別のルートから事務所の嘘が発覚した途端に、松本氏までも「嘘の加担者」として今までのキャリア、社会的地位を一気に失うリスクがあるのだ。
(ちなみに同じ元NHKアナの堀潤氏は、NGリストの持ち込まれた記者会見に司会として参加した時点で、もう同じ仕事は得られないはずだと語ってる。
松本氏の言い分を全く聞かず、自身の信じた通りの未来が来る事を願う性質から、理想主義的な人物に見える。
そこまで松本氏を断罪出来るほどの材料など無いと思うし、そこを理解出来る人なら司会業を依頼する事もあるんじゃないか?が私の考えだ)
「嘘」だと分かって、その「嘘」を共有するのは、自分の人生を棒に振るリスクを抱える事を意味する。
異なる立場の人間が公式声明で「そんな事実は無い」と証言した時点で、そこに嘘が含まれる可能性は一気に低くなる。
そして、非常に注目度の高い案件だけに、内部情報を知る人間が情報を売る可能性は時が経つごとに高まって行く。
逆に言うと、時間が経っても公式声明の「嘘」がタレコミされずにいるのならば、それは公式声明に嘘が無かった可能性の高さを示す事になる。
一応、嘘と告発する事で自身に及ぶ危険、リスクを気にして告発者が躊躇い続けているだけの可能性がゼロにはならない。
そこには留意が必要だ。
だが一般に、無理のある嘘である程、秘密を知る者にとっては情報を売る動機が強まる為、「嘘」の秘密保持が難しくなると確実に言える。
「情報」とは公表された事自体が意味を持つ。
公表された後の時間経過自体が、その「情報」の信憑性を変化させるのだ。
この事に多くの人が気付いていない。
だから、情報単体の疑わしさ、信憑性だけを切り取って、お互いの印象論をぶつけ合い、無為に時を過ごす事になるのだ。
まとめ
書きたい事を書きたいだけ詰め込んだ結果、読む人の事を全く考慮出来ない長文が出来上がってしまった。
これを最期まで読む人がどれだけいるのか。
いなくても仕方ないかな、くらいに思ってる。
これなら、数回に分けた方がよかったかな、と思わないでも無いけれども、引用記事を一つに纏めて、時系列的に整理した文章を自分が欲していたので、致し方ないかな。
仮にジャニーズファンの方で、最後まで読んでくれた方がいたとするなら、
「基本的に、人と人とは分かり合えない」
と言う悲しい現実を先ず知って欲しいと思う。
それで全てを悲観しろ、と言いたい訳じゃない。
だからこそ、
「理解し合える人に出会えたならば、それはとても貴重な事だ」
と知って欲しいのだ。
どうにもならない世間の空気にいら立つ気持ちは分からないでもない。
でも、情報を精査し、客観的に見ようとしない人達、印象論に流される人達に無理やり情報を押し付けた所で、状況は悪くなるばかりだ。
「分かり合えない事が普通なんだ」とゴール地点を大きく変える事で、心理的には大きな余裕が生まれる。
そういうスタンスの人の方が、結局は人に伝わる情報発信が出来るようになる。
人に優しく振る舞える方が、アイドルの推し活も楽しめるだろうし、推されてるアイドルもファンが心穏やかにいる事をのぞんでるんじゃないだろうか?
推し活をした経験が無い者の戯言ですが、何かの参考になれば幸いです。
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