石丸伸二・前安芸高田市長の「議会解散権」騒動を”正しく”解きほぐす

2024年7月7日、投開票が行われる東京都知事選挙
その候補者の一人として、前・安芸高田市長である石丸伸二氏が立候補を表明している。

改革派市長との評価が一部にあり、市議会との対決姿勢が話題となる事もしばしばあった。

ただ、それら「石丸市長vs安芸高田市議会」あるいは「石丸市長vs.ローカルメディア記者」のバトルについて、私は詳細を全く知らなかった。
YouTubeのオススメやニュースサイトなどの通知等で、話題になってるらしい事を知ってるだけで、食指を動かされる事は無かったので。

今回、以下略ちゃんのXポストを見掛けた事で、そのバトルの一端を知った。

これは2023年7月の定例記者会見における、石丸伸二・前市長中国新聞・胡子(えびす)記者のやり取りのようだ。

そして、このやり取りが都知事選を前に再度クローズアップされ、
 石丸伸二擁護派(曰く「胡子記者が誤った認識に基づき発言し、石丸氏に窘められたのだ」)

 石丸伸二批判派(曰く「胡子記者の発言を誤認した石丸氏が勝手に憤っているだけ」)
が対立している構図だ。

今回は、この騒動について、”論理的な正確性”を重視しつつ、解説して行きたい。


結論を先に。「石丸氏の誤認」でファイナルアンサー

はい、解散。

では流石に納得してもらえないだろう。
何故、「石丸氏の誤認」だと断言出来るのかを以下に解説する。


より長い尺の動画から、当該箇所を文字起こし

YouTubeにおいては、石丸氏支持の立場からの動画が数多く上がっている。
以下略ちゃんのX投稿内の動画は石丸氏と中国新聞・胡子記者のやり取りの一部だ。

石丸氏支持者はこの動画について
 「発言の切り取りだ」
 「胡子記者は実際、事実誤認に基づく発言をしているのに、その誤認を石丸氏に押し付けた編集がなされている」
と見做し、憤っている様子が見られる。

なので、ここでは当該記者会見のより長い動画を引用し、まずはその文字起こしから行おうと思う。


「【どっちの言い分が正解?】中国新聞記者の失言か、市長の勘違いか」から引用

ここではYouTubeから
 「Beloved Japan 〜愛すべき日本〜
と言う投稿者による
 「【どっちの言い分が正解?】中国新聞記者の失言か、市長の勘違いか
のタイトルの動画から引用を行う。

サムネだけだと「記者の言い間違いは無かった」と言う結論に目が惹かれるだろうが、この投稿者は石丸支持者であり、
 「日本語的には記者の言い間違いはなかったかも知れないものの、誤解を生みやすい表現を何故使ったのか疑問」
と言う個人的見解を述べている。
そして、私はこの投稿者見解に賛同している訳じゃない。
なので、結論ありきの論を立てようとこの動画を選んだ訳ではない。

(他の会見引用動画が余りに石丸氏擁護に振り切れていて、それらは参照するに適してないとの判断もあった)


記者会見文字起こし(動画0:54から)

上リンク動画0:54から

石丸市長「『混迷ぶりを映す展開となった』とありますが、『混迷している』とは何ぞや、です。
その混迷を解決する為に不信任が提案した』と、なぜしっかり書き切らない。
議長のこの最後の主張で終われば、これこそ混迷に映りますが、こうした事態を打開する為に不信任が提出、提案されたんです。

何故、そのように分かりやすく書かれないんでしょう?
これは単に書く力が無いと言うことなんでしょうか?」

時間泥棒による書き起こし

石丸市長発言の文脈を理解する

中国新聞による安芸高田市議会と石丸市長との確執を描く記事」に対し、石丸市長がクレームを付けている場面だ。
「混迷」が多用されているが、要は石丸氏は中国新聞に市政、市議会対応を「混迷」と評される事を不当であると認識している訳だ。

>その混迷を解決する為に不信任が提案したと、なぜしっかり書き切らない。

この部分以下において、石丸氏は
 誰が:「”市議会が”」
 何故:「混迷を解決する為に」
 何をしたか:「市長への不信任案を提出した」

との文脈で発言を行っている。

石丸氏はこの市議会の「市長への不信任案提出」と言う行動が混迷解決に繋がるものだと解釈している
それが故に、
 「中国新聞が市議会・市政について、依然として『混迷』が続くであろうとの印象を与える記事を掲載するとは、何事だ」
と憤り、中国新聞記者へ不満を表明しているのだ。
先ず、この流れを正しく理解する必要がある。

この段、最後の
>これは単に書く力が無いと言うことなんでしょうか?
とは、中国新聞への直球の嫌味なのだ。


記者会見文字起こし(動画1:26から)

上リンク動画1:26から

胡子記者「打開するためだったらですね、自ら議会の解散権を使ってですね、解散すれば良いじゃないですか?
何故、市長の不信任を以て、市長に議会を解散してもらって、で、ですね。
なんで市長に議会を解散してもらって、自分らが解散してって、そのー、正常化させよう。
その理由は……
理由、何ですか?
これが不信任の理由とは思えませんよ」

時間泥棒による書き起こし

胡子記者質問の文脈を理解する

先ず、胡子記者は、「石丸氏が直前に何を語ったか?について、正しく理解している」事をきちんと把握しなければならない。

つまり、石丸氏が
 誰が:「”市議会が”」
 何故:「混迷を解決する為に」
 何をしたか:「市長への不信任案を提出した」

との文脈で発言した事を、正しく踏まえた上で質問を行っているのだ。

そして、
 石丸氏発言、つまり「”市議会が”混迷を解決する為に市長不信任案を提出した」と見做すのは、無理があるのではないか?
との観点から質問をしている。


「議会による首長の不信任議決」と「議会解散」について、正しく理解する

※地方自治法において地方議会が持つのは不信任”議決”権であって、不信任”決議”権ではない。ただ、日常語として「不信任決議」の方が浸透している為か、自治体の公式プレスリリースでも「不信任決議」表現が用いられる事は少なくない

ここで、両氏の言い分をより深く、正しく理解する為に、

  • 議会による首長の不信任議決

  • 議会解散権

の関係性について解説する。

先ず、地方自治体の首長地方議会は、共に地域住民である有権者から直接選挙で選ばれた立場を有する。
「有権者からの信認」と言う観点において、両者の力の源泉はイコールであり、地方自治について定めた地方自治法においても、何方かを優位に置く事無く、共に協力して地方自治を行う建付けになっている。

そして、仮に首長と地方議会とが対立した場合には、双方に相手側へ同等程度の影響力行使を認めているのだ。


①議会による首長に対する不信任議決

首長に対する不信任議決の流れに付いては、以下のサイトが非常に分かりやすく図解している。

上掲リンクより画像を引用


長に対する不信任議決の流れ

地方議会は首長に対し、ほぼ対等な存在だ。
その為、
  仮に『地方議会が首長の不信任議決を可決した』としても、『すぐさま首長が失職する訳では無い』
との建付けになっているのがポイント。

首長は不信任議決を受けた場合に、

  • 10日以内に議会を解散させる

  • 10日以内の議会解散を選ばず、失職する

の2つの選択肢が与えられる。


②議会解散権

①で「議会による首長への不信任議決」について解説したが、そのカウンターとしての「首長による議会解散権」について、重要なポイントがある。
「首長による議会解散権」は、「議会が不信任議決をした時」にしか発動出来ないのだ。

改めて整理する。

  • 議会には、何時でも首長の不信任議決を採択する権限が与えられている

  • 首長には、不信任議決のカウンターとしてのみ、議会解散権を行使する権限が与えられている

また、首長による議会解散権とは別に、議会には議会自身の解散議決権が認められている。

地方自治法118号第2条
地方公共団体の議会は、当該議会の解散の議決をすることができる。(後略)

地方自治法より抜粋


胡子記者質問の文脈を理解する(その2)

動画全体の胡子記者の発言内容から、胡子記者は上で解説した

  • 議会による首長の不信任議決

  • 議会解散権

について正しく理解している事が窺える。

その上で、石丸市長による
 誰が:「”市議会が”」
 何故:「混迷を解決する為に」
 何をしたか:「市長への不信任案を提出した」
との解釈に対し、
 誰が:「”市議会が”」
 何故:「混迷を解決する為に」
 何をするか:「”自ら”議会解散権を行使する」 (←ここが違う)
と言う選択肢もありますよね?と石丸市長へ問い掛けているのだ。

石丸市長の語る市議会側判断の推察は
 ① 市議会が石丸市長への不信任案を提出する
 → ② 石丸市長が議会解散権を行使する
 → ③ 議会選挙が行われる
 → ④ 議会の勢力図が変わる事によって、市議会混迷が打開される
との構図になっている。

これに対し、胡子記者は
「もし、市議会が石丸市長の語るような結論を求めていたとするならば、
 ①’ 市議会が”自ら”議会解散権を行使する
 → ③ 議会選挙が行われる
 → ④ 議会の勢力図が変わる事によって、市議会混迷が打開される
のように行動選択をする方が自然じゃないか?」
と質問していると言う事。
そして、この方が市議会自身に含まれず、その言動をコントロールする事の出来ない石丸市長と言うファクターを含まない想定の為、市議会にとって望ましい結論に真っすぐ辿り着く事が出来る。

この論理的な不整合をどう解釈するか?
胡子記者は「石丸市長の語る『市議会側の思惑』が間違っている可能性が高い」と判断しているのだ。


胡子記者発言中の「自ら」の解釈

以上、解説した通り、通常の文脈解釈を行うならば、胡子記者の発言内容におかしなところは何も無い。

だが、石丸氏や石丸氏支持者は胡子記者発言
 「打開するためだったらですね、”自ら”議会の解散権を使ってですね、解散すれば良いじゃないですか?」
中の「自ら」との文言を切り出し、
 「おかしな発言を行っているのは胡子記者だ」
 「胡子記者の方こそ、事実誤認をしているではないか」
と言い募っている。

石丸氏との直接対話の中で出て来た「自ら」との表現について、「(石丸市長)自ら」と誤認してしまう可能性は確かにあるだろう。
しかし、それは注意深く発言を聞かない聞き手、胡子記者発言はおかしいに違いないとの確証バイアスに陥ってしまっている聞き手に生ずる誤認だ。

胡子記者の発言内容は、先に解説した通り、
 石丸市長の想定を受けて、市議会側の思惑を慮るのならば、
との文脈にあるのだ。
その発言中の行動主体は「市議会」なのだ。「自ら」「解散権を行使する」はいずれも「市議会」に掛かっていなければおかしい。

もし胡子記者が
 石丸氏はこうすべきではなかったのか?
との発言の中で「自ら」と発言したのならば、「石丸市長自ら」と解する事は何らおかしくはないだろう。


誰の主張を読み解く場合でも一番大事なのは、予断を持たずに相手の言わんとしている事を読み取らんとする心掛けだ。


まとめ(仮)

思ったより分量が増えてしまった為、複数回に分けようと思う。

次回以降は

  • 何故、石丸氏は誤認したのか

  • 何故、石丸氏支持者は誤認したのか

  • 動画の続きの文字起こし、及び、その分析

などを纏める予定。
気長にお待ちいただけると幸いです。

<続>

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