【怪談】轢かれて死んじゃうよおじさん【実話系】
※こちらの話は知人の春風くん(仮名)から聞いた話を、私が加筆修正したものです。
※この話は、春風くんの学区の中に「轢かれて死んじゃうよおじさん」がいた。という話です。よくあるテンプレートな『変なおじさんシリーズ』(私が勝手に呼んでいる)と大体同じような感じです
学区の中に「轢かれて死んじゃうよおじさん」というのがいた。
当時、そのおじさんは学区の中を毎日毎日、回自転車で回っていた。
昼も夜も関係なかったらしいので別に小学生がターゲットというわけではなかったのだろう。
おじさんは交通マナーが気になる人間を見かけるとすれ違いざまに「轢かれて死んじゃうよ」と、その人に聞こえるくらいの声量で言って去っていく。
親から聞いた話では定年退職した警官でボケてしまったためあのような徘徊をしているとのことだった。
まあでも言われた方は自分のマナーを注意されるのでムッとするが、実際のところ言われる人は、タバコを吸いながらや、スマホをいじりながら、歩いていたり、自転車に乗っていたり、手を繋がずに小さい子供を道で走らせるままにするなど、確かに危ないなという人達だった。
そして当然と言えば当然だが、我ら小学生はいつも注意されていた。
なにせ僕等は無敵だった。
轢かれて死ぬとか想像もしていない。
公道で爆走逆走危険運転。
おじさんじゃなくても注意する。
ただ、おじさんの注意の仕方はどこまでも優しいものだった。
穏やかな笑顔を浮かべたまま、近くで「轢かれて死んじゃうよ」というだけ。
ただまあ、それでも不気味は不気味だったが。
格好がまともだったこともその怖さに拍車をかけていた気がする。一見はとても優しそうな紳士だったのだ。
正論であることも合わさって僕等は何も言うことができなかった。
ただまあ、そこは僕ら無敵の小学生。
そんなおじさんがいたら反感ばっか育っていく。
だから、目の前におじさんがいるとわざと危ないことをしておじさんを煽るのが流行っていた。
いまとなってはバカなことをしているなっておもう。
その日も、僕と友達のAとBはおじさんを見かけたので、いつもの如く目の前でいきなりスピードだしたと思ったら急ブレーキをかけたり、右から左、左から右と蛇行運転したりしていた。
もちろん、自分たちが死ぬのは嫌なので、車が滅多に来ない道なのは承知済みだ。
おじさんは後ろから自転車でゆっくり追いかけながら、でも、その日はなにも言わなかった。
変だなーなんて思ってたけど、なんの反応もないので、僕らも次第に飽きて、どっかいこうということになった。
そして、どうせ何もしてこないおじさんなので、横を通り過ぎて行こうとした時だった。
僕の耳に、おじさんの声が聞こえた。
いつもと同じ調子の声、テンポ、でも言葉だけが違った。
ーー轢いて殺しちゃうよ
僕はその瞬間に本当にゾワっとして、全速力で逃げ出した。
AとBも逃げ出した。聞こえたらしい。
公園について、息を切らしながら僕らは混乱のままにあったことを話し始めるが、もうひっちゃかめっちゃかで意味がわからない。
落ち着いてきて、やはりAとBも同じことを聞いたとわかった時だった。
キィキィキィ
自転車をゆっくりと漕ぐ音。
おじさんが、公園の外の道路を走っていた。
目線はこっちに固定されている。
口がゆっくり動く。
声は聞こえないが、言っている。
殺意の籠ったあの言葉を言っている。
僕らは急いで自転車に乗り、また逃げ出した。
走りながら、必死に途切れ途切れの相談をした。
とにかく、何処かに逃げ込もうということになり、一番近いAの自宅に逃げ込むことになった。
というか、この逃走劇の間、それこそ轢かれなかったことのほうが驚きかもしれない。
Aの家に着くと、自転車を急いで停めて中に逃げ込んだ。
家の中からAのおばさんが出てきて、どうしたのかと尋ねてきたので、なんとか僕らは状況を説明した。
もちろん、僕らの悪行はバレてこっぴどく怒られるのだが、それは後の話し。
Aのお母さんは、さすがに、ということで電話を片手に外を覗くと、次の瞬間、小さく悲鳴を上げた。
僕らも、恐る恐る覗くと、そこにはおじさんがいた。
家の敷地内には入っていないが、Aの家の駐車場の前に自転車から降りて、まっすぐな綺麗な気を付けで立っていた。
視線はこちらにずっと向いていて、口が絶えず動いていたが。
そのあと、Aのお母さんが警察を呼んでくれて、おじさんは連れて行かれた。
僕らは親にも学校の先生にもついでに警察からもこっぴどく叱られ、全校集会でも交通安全の大切さと、ご老人を大切にすることが話された。
そのおじさんは、その後どうなったかと言うと……。
いまだに、この街にいる。
交通マナーが気になる人を見かけると、「轢かれて死んじゃうよ」と呟き続けている。
地元の小学生中学生で、おじさんを煽るやつは誰もいない。
東京都S区N駅周辺の話である。