禍話リライト「山の家の井戸」

 薄気味悪い山の話なんですけどね、ちょくちょく変死体がでるという噂があるんですよ。
 変死体ですから報道はされないんです、殺人の被害者だったら警察も捜査をして報道されますが、どうも自殺ばかりのようなんです、それも知る人が「なんでここまで苦しむ死に方を選ぶんだ?」と不思議に思うような理解不能な死に方をしている。
 身元も分からない、特徴が一致している失踪届も見つからないので死に至る事情も全く解らない、さらに動物に食べられるようで、詳しく調べても殺人だという証拠が見つからないので、変死体として扱われ報道されないと。
 そういう死体がちょくちょく出る山で起きた話なんです。

 Aさん(男)がBさん(男)とCさん(女性)とドライブをしていて山の近くを走っていたら、ぼろぼろ・くたくたな状態の女の子がふらふら歩いていて、車に気がついて助けを求めてきた。
 女の子の状態に不審を思ったが、素直に助けたいなと思って車を停めた。
「大丈夫ですか?事件ですか?」と聞くと
「いやちょと酷い目に遭いまして」。
 Aさん、いくつか山の中で酷い目に遭うケースが頭をよぎりまして、悪い奴に町で拉致られて山に棄てられたとか、彼氏と喧嘩して車を降ろされたとか、いろいろ想像します。
 それを女の子に言っても
「そういうんじゃない」と。
 女の子、山の中を走ってきたようで、汗をかいたかびしょびしょに濡れている、それを気兼ねしたのか
「すいません、座ってもいいですか?」
 何があったのかは言わない。
 なんで山に来たのかは言わないで、みんなで車で来たんだけど、走って逃げているうちにみんなと別れてしまったと。
 Aさんたちも
「あ、そうですか、なるほど」と。
 たとえばみんなで山の中に肝試しで来てみたら、そこにいたおっかない連中に出会ってみんな逃げたのかな?と想像。
 聞いても要領を得た答えが返ってこないから、しかたがない、この子を家に送ろうと。
 住所を聞くとみんなが住んでるところからそんなに遠くではないから安心し、女の子もしきりに恐縮している。ガソリン代を出しますとか言って常識もありそうだ、女の子がケータイを出してバラバラになった友達に電話をするのだが
「ダメだ、誰も繋がらない」とか言ってる。
「明日にしたほうがいいんじゃないですか?」
 女の子、んーとか生返事をし、落ち着いてきたようでぼそぼそ声で事情を話し始める。
「山の中に廃屋があって、そこに行ったんだけど、行くんじゃなかった」と。続けて
「案内の地図を描いてもらったんですよ、麓のコンビニの人に」
 そこまで言ったとき、運転手と助手席の二人がその道に詳しくて、驚いて声が出たんです。
「え?ちょっと待って」車を停めて
 Cさんが(なんで停めるの?)と驚いたのですが
「え?」
「ん?」と二人は驚いている。
「あの道の、あのコンビニ?」
「潰れてるよ?」
「そのコンビニは個人経営でおじいさんがやっていたのだけど、亡くなって、誰も後を継がなくて潰れたよ?」
「ぱっと見、やってるっぽく見えるけど、近づくと閉店して中が乱雑になってるのが見えるでしょ、閉店のお知らせが貼られてないから近づかないと解らないんだけど、周辺の人は知ってるし。そうそう、駐車場も停められないようにはなってないんだよね、だから他所から来る人は結構騙される」
「いや、そこにいた人に地図を描いてもらったんですけど……」

 超怖くない?この子の言ってること。

 それを聞いてじゅうぶん怖いから、もう山の中で何があったのかは聞かずにこの子を家に送ろうと。
 車を走らせて女の子の言うマンションに着きました。
 マンション前に停めるわけにもいかないので駐車場に停める。
 男二人は駐車場で待機して、Cさんが玄関くぐってエントランスまで送る。
「本当にありがとうございました。落ち着いたら連絡とお礼を」とか言いながら、女の子同士の安心で電話番号を交換する。
「いや別にいいですよ」
「いえいえいえいえいえ」なんてやりとりがあって。
 丁寧な人だなと思いつつ
「とにかく今日は何も考えず、お風呂に入って寝たほうがいいですよ」
 女の子震えているのでと助言して。
「部屋の前まで一緒に行った方がいいかな?」
「いえ、○階ですけど、そこまでは大丈夫です」なんてやりとりがあって、Cさんがエントランスを出て駐車場に行くと男二人が記憶の確認をしている。
「やっぱりおかしいよ、三年くらい前じゃなかったっけ?コンビニが潰れたの」
「あのときは確かに遠目ではやってるように見えたけど、もう三年経ってるじゃん、もっとボロくなってるはずだぞ」
「行ったら解るはずだ」
「ありえないよ」
 とか言っているのだけど、Cさんはさっさと帰りたいので
「もう行こうよ、怖いよ」と。
 すると上から声が聞こえて振り向くと、四階あたりの外廊下で女の子が手を大きく振って
「ありがとーございまーす!!」。
 えらいテンション高いな、安心して何かスイッチが入っちゃったのかなと思っていたら、Cさんのケータイが鳴った。出てみるとさっきの女の子からで
「あのすいません、まだエントランスにいるんですけど、やっぱり震えが収まらなくて歩けないんで、すいませんけど付き添ってもらっ」
「え!」
 上の女の子、あきらかに自分たちに向かって手を振ってるんですよ、
「あーりーがーとーうーごーざーいーまーす!!」って。
 えぇ!え!うぉ!
 あわててエントランスに駆け込むと、女の子いるんです。
「ええ!」
「あの、上からさぁ、誰かがさぁ」
「たぶんだけど横から数えて何号室で」
「それ私の部屋の前です」
「ちょっ、よく解らないけど、あなた今日部屋に帰らないほうがいいよ!」
 もうしょうがないので、女の子同士だということでCさんが泊めてあげた。
 二人で怖がっていて、その中でようやく、なんで女の子があの山に行ったのか経緯を聞くことができた。

 山の中に廃墟があってすごい怖いらしいぞ、という噂話を聞きつけた先輩がいて、その先輩に連れられて行った。
 まず昼間に確認しに行こうと、先に場所の確認をしておかないと、夜になって行って場所が解らないのは嫌だし。
 付き合わされたのはCさんを入れて三人。
 道を進んでいくと
「あ、コンビニがある、ちょっと聞いてくる」と先輩が行く。
 三人とも行きたいなんて思ってないので白けていて、先輩の後ろ姿を見ている。ケータイをイジったり話をしたりしたら、先輩が戻ってきて
「地図描いてもらったよ」
 道が描かれてマークがあって、行き方道順全部書いてある。
 建物が描かれていて、中に井戸のマークがある。
「なんで建物の中に井戸マークがあるんですか?」
「俺も聞いたらさ、建物の中に井戸があるっておかしいでしょ、普通は建物を潰すときに一緒に井戸も埋めるでしょって言ったらさ、それが埋めてなくてまだあるらしくて、そこがすげぇ怖いって、それは知らなかったし誰も書いてない貴重な情報だ!」
「へえ」
「じゃぁ夜になったら行こう!」
 ということがあって、地図が詳しいので夜にも無事に行けたんですって。
 行って、着いたら、すごい怖いんですって、その家が。
 道路から木を超えた向こうに建物があったんだけど、木って普通は普通に生えているはずなのに、最初の木がアーチみたいになっていて、門のように見える、台風のせいかそういうふうにそだったのかよく解らないのだけど、木のてっぺんがもつれてくっついている、もうこの光景だけで怖い、女の子がこれ以上はどうしても行けないと言い張ってそこに残った。
 先輩と男二人だけで家に向かったのだけど帰ってこない、電話しても出ない、結局一時間くらい経っても何の音沙汰もないので仕方がない、女の子も家の中に入っていった。
 行ったら三人、廃墟の中心あたりを囲んでいる、
「うわ」とか「え…」とか小さな声を出している。
 三人とも背が高いので女の子の位置からは何を見ているのかは解らなくて、近づいて
「どうしたの?」と聞くと
「いや、あの、井戸の中に、人が落ちてる」
「え!え、え~!」
「いや、あんま見ない方がいい……」
「これ、手とか足とか、変な方向向いてる」
「先輩、これ、死ん、死んでますよね…」
「いや、声かけたけどな…悪いとは思ったけど、石を投げても反応ないし」
「たぶん死んでるよな…」
 なんて言ってる。
「けいさつ…」
 女の子、井戸に駆け寄って中を見たら、なんにもないんですって。
 なんにもない井戸を三人で囲って、
「いや、ちょっと、これ…」とか言ってるだけ。
 え?え?え?なにもないなあと思って、からかっているのか?とはいえ三人とも顔は真剣だ、それで
「いや、うん、ねぇ」などと言い合っている。
 男の子二人は目がバキバキになっている。泣きそうになっている。
 目が真っ赤で、さすがにこれは演技じゃないだろうと。
 すると先輩がようやくケータイを出して、
「ちょっと待って、あれ?この中電波悪いか、あっちで警察呼んでくる」と出て行った。
 残されて、女の子どうしたらいいんだろうと思っていたら、男の子二人が泣き出して、やばいやばいと言い出した。
 やばいのはこっちだよと思っていたら
「ちがうちがうちがう」
「なんにもないのに先輩が、ここに人が落ちているって言い出したんだ」
「え!……調子を合わせてたの?!」
「いや、何言ってんですかって言ったら、先輩十徳ナイフ取り出して、刺すぞってアピールするんだよ、何も言わないけどさ、ナイフをちらつかせて「なぁなぁ井戸にさ」って言うから、えー!ってなって、もうどうしようもないから話をずっと合わせていたんだ」
「逃げよう」
 いや、逃げないといけないけど…先輩出口のほうにいるし
「どうする」「どうする」「どうする」
「でも警察来たら解るじゃん、はっきり」
「あぁ、そうか」
 とりあえず建物を出たら先輩が戻ってきて
「すぐ来てくれるって」
「あぁあぁあぁ、はい」
「建物には入らずに待ってましょう」
「素人があんまり現場にいたら拙いでしょうし」
「女の子が見ていいもんじゃないですし」
「私はぜんぜん見てないです」
「あれは見たらよくない、トラウマになる」
 男二人は先輩にひたすら相づちをうつ。見ると、先輩確かに右手をずっと懐に突っ込んでいる。だからそれ以上のことは言えないんだろうなって。
 ……にしても、警察が来ない。
 山の中とはいえ、そんなに山奥ではない、死体があると言われて、いくら田舎だからといってのんびり来る警察もないだろうに、サイレンの音なんて聞こえてこない。
 えーと思っていたら一人が
「遅いっすね、警察」
「遅いね」
「さっき電話したらすぐ来るって言ったんだけどな……あ!来る来る!ほらほら!」
 え?無音?と思って三人が道路の方に目を凝らしたら、人だとは思うのだけど、誰かが向こうから自転車を押してくる。
 自転車には照明が点いていて、簡単な光を点滅させて、誰かが押してくる。
 結構な速度でこっちに向かっているのだけど、あきらかに警察官ではない。なのに先輩は
「こっちですー!」と大声を上げる。
 え?え?え?と頭が働かない横で「こっちですー!」の大声が続き、(なんで自転車に乗らないで押してくるんだろう)なんてことが頭をよぎる。
 ようやくこっちに向かってくる人がはっきり見えるようになって、ボロボロの自転車を押した、傷だらけで血がだらだら流れている、それが解って三人とも
「わーー!!」と叫んで逃げ出した。
 で、山を下りたらみなさんが来て、と。
(うわー、聞かなきゃよかった…)と思いつつ、
「あぁ、そうですか……」と。
 全く眠れない。
 翌朝九時とか十時に女の子が逃げた男の子たちに電話をしたら繋がった、二人はそれぞれに逃げ切っていて、これからどうしようと。
 Cさんにしてみれば、それは三人でなんとかしてくれと思うけど、Cさんが知り合いのDさんに連絡をとって相談したら、
「それは、なんか、その、家に出た奴がどういうことか解んないんだけど、家バレてるから、いや、その、解んないけど、お祓いとかさ、気休めでもいいから、厄払いとかでいいから、行った方がいいんじゃない?」と言われて、三人に言ってみた、すると三人は素直にお祓いに行って、馬鹿正直に全ては言わず、単に最近不運が多いからとかなんとか言ってお祓いをしてもらった。
 で。
 先輩はどうなったのか?
 三人とも住所は知っていたので行ってみた。行きたかないけど。
 最初ケータイに電話を掛けたら、出ないけど呼び出し音は鳴った。それで家の近くまで行ったら、先輩の住んでるマンションの入り口の道路のところに、チョークで井戸のマークが描かれていたんだそうです。
 もうダメだろうと思って、行っていないそうです。

 その山で自転車で事故を起こした人がいるのか、コンビニと関係があるのか、調べるつもりはないそうです。

 そういう山なんでしょう。

元祖!禍話 第十二夜2022/07/16
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/738709258
42:06あたりから


YouTube単話版
https://www.youtube.com/watch?v=Sl1lhkXel38&t=1s

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