禍話リライト「日曜日のせいか」
話を持ってきたのはC君で、大学生の時の話なんだそうですけどね、平成のときの話だっていうんです。
夢を見たんだっていうんです。
当時学生マンションに住んでまして。
寝てましたら、チャイムを鳴らさずにドアを叩く音がしたんです。どんどんどんと。
繰り返しますが、夢の中ですよ、いつもなら相手にせず何も反応をしないんですけど、起きたんですよ。
チャイムがあるのに押さないって、誰だよ。
このマンションは正面玄関がオートロックなのに、誰かに開けてもらって入ってきたのか。用があるなら正面玄関でインターホン鳴らして、それで解錠するんじゃないか。それを俺には何も連絡せずにここまで来るのって、ヤバい奴じゃないか。
やだなぁと。
相手しないでおこう。無視無視。
と放っておいたら、ドアを叩いてる奴、とてつもない怪力でドアをこじ開けて半壊させたんですよ。
困るな、管理業者に怒られるじゃないかと思って。なんだよこれ、と思っていたら、ちょっとできた隙間から分厚い封筒が放り込まれたんです。
封筒届けるためにこんなことやったのか?正面玄関に集合ポストあるんだから、そこに入れておけばいいじゃないか。
と思いつつ立ち上がってドアのところにいって封筒を手に取った、そこで目が覚めました。
がばと起きてドアを見てみましたら、当然どうにもなっていません、無事です。
よかったー!
と安心しつつも、なんか嫌な気持ちは拭えなかったんだそうです。
時計を見ると朝の六時、そういえば今日はゴミ捨ての日だと気がついて、ちょうどいい、ゴミを捨てに行こうと気持ちを切り替えて起き上がりました。
ゴミを集積場に出しまして部屋に戻ろうと正面玄関に来ましたら、集合ポストの自分のところに何かが入っているんですね。
え?と思って開けてみたら、夢で見た封筒と同じ大きさ、同じ色の分厚い封筒が入っています。
うわ!気持ち悪!なにこの茶封筒!
表にはマジックで殴り書きがしてありまして、
「日曜日のせいか」とあります。
なんだこれ?
その日は月曜日です、昨日の日曜日に何かあったのか?
誰が入れたんだろう?何が入ってるんだろう?
じっと封筒を見ていると、書かれている字の特徴がサークルの先輩の字に思えてくる。
部屋に持って帰って開けてみると、中は全部写真で、自分の家のプリンターかコンビニの印刷機で印刷したのかという写真です。
写っているのは廃屋で、壁が全て壊れていて柱しか残ってない、焼けているわけではないのですが火事場で柱と屋根だけが残った状態を思い起こすもので、保険屋が全焼ではなく半焼だと主張して家主と揉めるだろうなぁという、そんな状態です。
そんな廃屋をさまざまな角度から何枚も撮っていて、オーブかな?埃かな?ってのが写っている写真です。
十数枚入ってまして、それと一枚、メモ帳を破いた紙があって「日曜日のせいか(名前)」と書かれています。
その名前でやっぱり先輩だと解りました。
そういえば金曜日だか土曜日だか、肝試しに行くって言ってたっけ、思い出した、それか。
C君、そういうのには一切興味がないし行っても面白いと思わないし、怖い怖くないじゃなく行かずに無視していたんです。
なんでポストに入れていったんだろう?嫌がらせで持ってきたのか?メールで送信してくれば…それはそれで嫌か、〝せいか〟ってのは〝成果〟ってことか?
あ、裏に番号まで振ってる。
しっかし、廃墟だけじゃん、オーブ一個二個写ってるといえなくもないけどそれ以外に何にも撮れてないじゃん。
こんなん、いらねーだろ。
集合ポストに戻って、チラシDM即捨て用ゴミ箱に、封筒に入れて捨てました。
三日経ちまして。
講義中に電話が鳴りまして、出るわけにはいかないので放っておいたんですけど、鳴り止んでメールが三通、立て続けに送られてきました。
なんだろう。
その先輩です。
「あげた写真だけど、ナンバリングしてあるから解ると思うんだけど、五枚目の、モヤが立ちこめてるやつだけ返して」
はぁ?
そんな用件が三通とも書かれています。
電話なんかしたくありませんので
「デジカメのデータ、そっちにあるでしょう」と返信します。
馬鹿馬鹿しい、と思っていたら、また電話が掛かってきます。出ないでいるとまたメールが送られてきます。
「データ消したから」
なんで消してんだよ。無視。
部屋に帰ってようやく
「いやいやいや、僕はそんなの知りませんよ。自分でデータ取っておけばよかったじゃないですか。どっかバックアップとかないんですか?パソコンのどっかに自動バックアップで残ってんじゃないですか?」と返信。
しばらくしてまた電話が鳴るのですがウザいので無視、でまたメールが着信。
「どうしても五枚目が必要なんだ」
五枚目五枚目って、なんか特別な写真だったっけ?覚えてないけどどれも大した違いはなかったはずだぞ?
「ごめんなさい、本当に知らないっす。自分でなんとかしてください」返信。
すぐメールが来て
「いまマンション前まで来てるからさあ」
こえーよ!
もう直球で言うしかない。
「ごめんなさい、捨てました。月曜日のうちに」返信。
またメールが来て(メールなら返すからと思ったのか、電話はこなくなりました)
「あの、五枚目だけ返さないといけないんだ」
ん?ん?〝返さなきゃいけない〟?
え?デジカメ借りてたの?先輩じゃなく別の人が撮していたの?
「返さなきゃいけないって、誰にですか?先輩のカメラで撮ったんでしょ?」返信。
「いや、それは○○隧道で会ったおじさんに返さなきゃいけないんだ」
○○隧道で会ったおじさんってなんだよ。こえーよこえーよ。
急に怖くなってきた。
「返したらいいことあるんですか?」返信。
「なんかよくわからないんだけど、おじさんにかえしたらたすかるらしい」着信。
とうとうひらがなになった。
C君、先輩の状況を考えまして、
・肝試しに行って廃墟の写真を撮ったのはおじさんなのか?
・隧道で会ったって、行くときに会って一緒に行ったのか?
・おじさん同行して「モヤの写真を返せ」と言われてって、いつ写真を印刷したんだ?ポストに入っていたのは月曜日だぞ?
・何日か経ってヤバい目に遭って返そうとしているのか?
全く解らん。
「でも僕はどうしようもありません」返信し、着拒にしましたし、先輩もインターホンを鳴らしませんでした。
月曜日の朝に捨てて回収されて、それから数日経ってるんだからC君にもどうしようもないんです。
そういえば肝試しに、A君も行くって言ってたっけ、と思い出し、A君に連絡を取ってみました。
「あのなA君、ちと悪いんだけど、これこれこういうことがあって、俺もらい事故みたいなことになってるんだけど、悪いけどさあ」と言うとA君、
「え?先輩そんなこと言ってるの?俺達が行ったところ、トンネル(隧道)なんて無いんだけど?」
「え?」
「トンネルなんて一回も通ってないよ」
「ずいどうっていってるけど…」
「トンネル無いところに行ったから。トンネルってなんだ?」
「なんとかずいどうっていってた……」
「いやいや、そんなとこ通ってないよ」
電話を切った後、A君真面目な人間なので調べてくれまして、
「この地域に隧道と付く道は一つも無いよ。昔から」
うわぁぁ……
「ど、ど、どうしよう!」
「まぁ先輩、ちょっと変だったから、お前もう連絡とるな。こっちでなんとかする」
それでなんとかなったのかならなかったのか…なんだかよく解らなかったそうです。
後日談になるんですが。
マンションの管理人さんは正面玄関の集合ポストに置いてある即捨てゴミ箱の中身を確認するのですよ、分別しないといけない物を入れてく奴がいるので。
中を見たら封筒があるので中を確認したら
「あんな気持ち悪いもの今まで見たことなかった。誰が捨ててったんだ」
封筒にはC君の住所氏名は書かれていなかったので、C君はとぼけられたんですね、自分が捨てたとは言わずに
「どうしたんですか」
「わけ解らないボロボロの家の写真が何枚もあって」
「へー、何か写ってましたか?(知らんぷり知らんぷり)」
「裏見たら番号が振ってあって」
「あぁ、そうなんですか()」
「五番って書いてあるのだけ、花丸が描かれてたのよ。先生が丸を付けるような花丸。意味が解らなかった。他の写真よりちょっとモヤってるくらいで、特別なものは写ってなかった。それが逆に気持ち悪くて」
……いわゆる見える人なら何か見えたんでしょうかね。
Twitcast版
シン・禍話 第二十二夜2021/08/07
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/695682919
18:03ごろから
YouTube単話版
https:/www.youtube.com/watch?v=bDO63gkHguE