禍話リライト「ご気分が」マルノミヤコ君提供

 自分が行ってないのにな~って話なんですけどね、
 会社勤めをしている人から聞いたんですよ、
 弟さんが大学生でしてね、土曜日、その人、お兄さんが仕事を終えて早く帰ってきたら弟さんが出かける支度をしていて、どこに行くんだと。
「心霊スポット行くんだ」
「お前、好きだねー」
「夏だもんね」
「ああ、そう…どこ行くんだ」
「○○ホテル」
「あ、聞いたことある」
 そのホテルというのが、噂ではお客さんが滞在中に、トイレで亡くなっちゃったんですって。
 何か病気だったってわけでもなく、急に血を吐いて亡くなられて、トイレの中血だらけって状態で。
 事件になって警察が調べたんですが病死という結論になったんですけど、それが二回続いちゃったんですって。
 健康なお客さんが泊まってその夜トイレで急死した。
 二人とも同じフロアで大量に血を吐いて。
 ヘンな噂が広まっちゃいまして、でも警察がいくら調べても事件性は見つからず、たまたま偶然としかいいようがない、それで決着するしかないわけですけど、悪い噂はもうどうしようもなく、ホテルは続かなかったんですって。
 廃業して廃墟になって。
 という所に行くと。
「あー、そうなんだ、まあ行ってこいや。何もないと思うけど、廃墟だからな、気をつけろよ、ホームレスとか住み着いているかもしれないし、床とか踏み抜いたら危ないし」
「あぁ、行ってくる行ってくる」
 で弟さんもそんなに長くいるほどのことじゃなかったようで、深夜一時くらいには帰ってきたんです。
「おかえり。どうだった?」
 起きてたんで聞きましたら
「結構雰囲気はあったけど、まぁそれくらいかな」
「まぁ心霊スポットなんてそんなもんだよな。毎回オバケが出たりなんてしないよな。せいぜいまたオーブが撮れたとか楽しめるくらいだよな」
 で弟さん寝て、自分もそろそろ寝るかぁと。
 寝まして。
 三時ころに目が覚めましてね、急にトイレに行きたくなった。
 行きまして、これがヘンな話なんですけど、トイレに行って用を足そうとしたら全然出ないんです。
(あれ?さっきまで猛烈にしたかったんだけどな?)
 尿意が消えてしまいまして。
(なんだこれ?酔ってんのか?んなわけないし)
 おかしいな?と首をひねっていて、電気をつけてないことに気がついたんです。
 それくらい急いで入ったのに尿意が消えてしまった。
 ヘンだな?病院?と思ってトイレを出ようとしたら、外から
「お客様、気分が優れないのではないですか?」
と声がする。
 へ?と思っているとまた
「お客様、気分が優れないのではないですか?」
(へ?誰?全然知らない声だぞ?……怖っ!)
 というのも、家はかなり古くて、廊下がギシギシ軋むんですよ、自分の後に誰かが来たらどれだけ抜き足差し足でも音が聞こえるはずなんです。
 なのに全く音がしなかった。
 それなのに今ドアの向こうに誰かがいて
「お客様、気分が優れないのではないですか?」
と何度も繰り返している。
(えぇ…どうしようかな…)と思って、一応
「あなた、誰ですか!何言ってるんですか!」とか言っても何を言っても
「お客様、気分が優れないのではないですか?」
を繰り返すだけ、
(困ったな…)と思っていたら気がついた、
(これ、あのホテルの連中が付いてきたんじゃないか?なんで俺なんだよ!)
 弟と顔や背格好が似ているってよく言われているんですって。
(いや俺じゃないんだけどなあ)
 でずっと
「お客様、気分が優れないのではないですか?」
が繰り返されている。
(どうしようかな、出られないな、出たら怖いだろうし)と思っていたら、
「ちょっと私では駄目だということなので、上の者を呼んできます」となって、声が消えたんですって。
 その隙に外に出て、弟の部屋に駆け込んで叩き起こして、
「お前のせいでいまこんな怖い目に!」
「え!マジか!」
 お父さんお母さんまで起こして、家中の電気を点けて
「ちょっと朝まで点けさせて!」と頼みまして。
 翌日からは何もなかったそうなんですけどね、
 相当弟に言ったんですって。
「お前が俺と似てるからこんな目に遭うんだ!」

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