その国ではこの怪異現象にも名前がつけられているのか気になります:トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話/ 第二回『集まれ!怪談作家』応募作品

 トイレには行かない方がいいんじゃないかって話なんですけどね、学校のテストが早く終わったときにはトイレには行かない方がいいんじゃないかと思うんですよ。

 話を持ってきたのはAさん男性会社員なんですけどね、私にメールをくれまして、不思議な体験談を聞いてくれというのです。
 ネットでのやりとりではなく実際に会って聞いて欲しいと、私にはめずらしいことなんですけどね、会ってみたら名刺を最初に出して、礼儀正しいんです。
 仮にその人をハンドルネームを「てぃるてぃん」、名刺に書かれた名前が「吉野貴博(よしのたかひろ)」としましょう、名刺を出しながら
「初めまして、ハンドルネームてぃるてぃんと申します」。
 渡された名刺に本名、勤め先、住所が書かれていて、こっちが個人情報を厳守しないといけないとなぁと真剣になります。
 私もネットの人用の名刺を出しまして。
 それでこんな話をされました。

 私がこれを経験したのって小学生の頃ですっかり忘れていたんですよ。
 テレビを見ていましたらヨーロッパのタップダンス集団が画面に映りましてね、その国で最高のタップダンサーがソロで踊っているのを見て思い出したんです。
 小学生の頃、四年生のときなんですけどね、中間テストとか期末テストとかになると、名前順に座るんですよ、昔は五十音順でも男女別だったようですが、私の時はもう男女混合です。
 廊下側の列の後ろの方に座るんですけど、試験中シーンとして、学校全体もシーンとしてるんですけどね、誰かが廊下をタップダンスして進んでいく音がするんです。あぁ、足音は一人だけです。
 それがとっても楽しそうで上手くて、聞いてて私もウキウキしてくるんですけど、通り過ぎて遠くなって聞こえなくなると、もう忘れてしまうんですよ。夢みたいなものなんですかね、でもそのウキウキする足音で、喉まで出かかっているんだけど完全には出てこない答えなんかがするっと出てくることもあって、ずいぶん助けられたものでした。
 四年生の中間期末テスト全部でそんなことがあったんですが、聞こえると思い出す、行ってしまうと忘れてしまうので、クラスメートに確認したことがなくて、本当にあったことなのか、気のせいだったのか、音がしている間は答案に書く手も止まりますからね、実は白昼夢だったのか。先生なわけはないですよね、まったく解りません。
 でテレビでタップダンサーの踊りを見て思い出して、今度は忘れないようにしっかり手帖に書いて思い出すようにしました。

 それから全く別件なんですけど、Twitterの怪談収集家で某国とのハーフの人が活動をしているのを知りましてね、ツイートを見たら
「みなさん学生のとき、私のような日本と○国のハーフのクラスメートはいましたか?いましたらどんな人か教えてくださいね」とありまして、いたんですよ、私のクラスに。
 その子を、B子さんとしますけど、英語を結構話せるんです、合唱祭がありまして、私のクラスは某アニメのオープニングソングを歌おうってことになりまして、盛り上がりの英語のフレーズをB子さんのソロで歌ってもらおうってなったんですが、B子さん本番でそこを歌わなくて空白になっちゃって、みんなで「おいおい!」となったのを覚えているんですけど、練習中どうだったかって、私、覚えてないんですよ、ですからB子さんにソロを任せようって、実はB子さんに伝わってなかったんじゃないかって気もするんです。
 ツイートを見てそのB子さんを思い出して、フルネーム覚えているんで検索しましたら、ヒットするんですね。
 B子さん、今ではプロの歌手になって、うちから二十分くらい離れているバーで歌っているんです。
 ただバーの出しているプロフィールを見ましても、もう四十年以上経ってますから顔も昔の面影を感じなくて、実は同姓同名の他人なのかもしれない、でも年齢が私と同じですし、小学校が同じで今も学区内に住んでいてもおかしくないよなぁとバーに行ったんです。
 歌ってる姿を見てやっぱり当人か解りません、ステージが終わって楽屋に会いに行って、
「すいません○○小学校に行っていませんでしたか?」
「はい行ってましたけど?」
「私三年生四年生の時一緒だった…」
「あー!はいはいはい!覚えてるよ!変わらないねー!」
「お久しぶりです」
「久しぶりー!…って、何しに来たの?」
 そりゃ不審に思いますよね、同窓会なんて全く行われない、何かの勧誘じゃないかとか売りつけに来たのかとか。
 なのでスマホを出して怪談収集家のツイートを見せて、これこれこういう事情で会いたくなって、と言ったら喜んでくれて、仲間との打ち上げを今回は欠席して私と話をしてくれました。
 といってもそのお店の客席で、ですけどね、私もそれで構いませんし、向こうは私が変なことをしだしたら店の人が守ってくれますし。
 近況を言い合って、昔話に花が咲いて合唱祭のことを聞いて(あがっちゃって声が出なかったそうです)、それからテストのときの足音を言いましたら
「あー!覚えてる!覚えてる!上手くて良いリズムだったよねー!」
「知ってるの?!」
「私も廊下側の一番前だったしさ、いまバンドで歌ってるじゃない、ドラムがここぞ!って音を出すと思い出すのよ、なるほど、あんたも国一番のタップダンサーで思い出すように、すごい音楽家の演奏で思い出すんだねー」
 へぇって聞いていて、へぇ、あのタップダンスやってたのは、人間かお化けか解らないけど、人を幸せにするやつだったのか、と思っていたら、
「ふーん、あんたにはタップダンスに聞こえていたのか」なんて言い出します。
「え?違うの?」
「私にはドラムのスティックの音に聞こえていたのよ。廊下の壁をチャカチャカ叩きながら進んでいて、すごいビートだ!って耳奪われちゃってたよ」
 へぇ、怪異で人によって違う音が聞こえていたのか、どちらかの記憶が間違っているのか。
「ねぇ、Yっていたでしょう」
 突然人の名前を言われます。
「Y?誰だっけ?」
「ほら、クラスで一番頭が良かったYくんよ」
 うーん、覚えてない。
「覚えてないかー。いやね、二学期の期末テストの時、Yくん早くテスト終わらせて、先生にトイレに行きたいって言ったのよ、終わったから行くのはいいけど、テストの時間が終わるまで戻れないぞって言われて、我慢できないから廊下で待ってますって出て行ってさ、ちょうどスティックの音が聞こえてきたから、Yくん廊下で会っちゃうのかなって思ったんだけど、音が聞こえてくる中Yくんが廊下に出て、中途半端な時間でどさっと倒れる音がしてさ、先生が扉を開けて、私も首を伸ばして見てみたら、Yくん倒れててさ、漏らしちゃってるのが見えたのよ、変だなぁって思って。確かにトイレに行って戻ってきたには早すぎるし、ずっとそこに立ってたにしては倒れるまで時間が経ちすぎているし。音どうだったか覚えてないのよね、Yくんが廊下に出て音はしなくなったんだっけか、そこが記憶ないの」
「へぇ、そんなことあったっけ、全然覚えてない」
「Yくん保健室連れて行かれて、その後のテスト受けられなくて、冬休みになってもう学校に来なくなっちゃって、何があったのか全然解らないの。そっかー、あんたYくんを覚えてないかー、そっかー」
 と、そんな話をされたんですけどね、小学校の時の卒業アルバムどっかいっちゃってますし、アルバムあってももう学校に来なくなっちゃったんなら載ってないかもしれないなと、よく解らない話なんです。

「はぁ!そぉなんですかぁ!」となんとか言いましたがもう怖くてたまりませんでした。
 そのハーフの人が言ったYさん、吉野貴博って言ったんです。

 榊原夢さん主催の【集まれ!怪談作家】に投稿したんですが、三千字までというのに三千字を超えて失格となってしまいました。ざっくり3088文字だった…orz

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