禍話リライト「団地Ⅳ階の娘」

前回の「Ⅳ階の夢」で触れた「三階から四階に上がった段階で、娘が娘じゃなくなった気がするんですよって相談を受けた話」なんですけどね、
会社に入って二十年三十年経った男性から聞いた話なんですよ。
( 「Ⅳ階の夢」の話はhttps://note.com/tiltintinontun/n/nae255ab783bb )

その人はもう一人の登場人物Aさんと同期入社なんです。
大きい会社で、研修が終わってからの配属部署が違いまして、社内で遠くから見るくらいの間柄になって十年十五年経ちます。
別にAさんを好きでも嫌いでもないし、噂話が聞こえたとしても他人事ですし、研修のときの印象を聞かれても別に何も思いつかない、成績を想像しても自分と同じくらいじゃないかなぁって思う程度の相手です。
ある日、かなり上の役職の人から呼ばれましてね、
「A君と君は同期だったよね」と。
「ええそうですよ」
Aさんを思い出して、あっちの部署で頑張っているのかな、俺より先に出世するのかな、なんて思って、
「どうしたんですか?あいつ、次の人事異動で良いところに行くんですか?」なんて景気の良いことを言うと
「うぅん…」上役、なんか沈んだ顔になります。
あれ?悪いこと言っちゃったかな?ひょっとして人員整理だったら気まずいこと言っちゃったかな?と思って
「あぁ、すいません」と言ってみたら

「いやいやいや、違うんだよ…その…A君、期待の星で出世街道にいるんだけどね、最近ちょっと、挙動不審なんだよ。妙な態度をとるようになって。ずっと怯えているというか。
課内でもA君が何か悪いことをしてるんじゃないかって不審に思ってね、横領とか情報漏洩とか疑って調べてみたんだけどそんなことはなくて、じゃぁ何か大きなミスをしたけど隠しているのかとみんなが思うほどだったんだよ。でもそんなこともなくて。
仕事は普通にやってるんだ、でもビクビクしててね、理由を聞くと家族がどうだとか言って、それ以上何も言ってくれないんだよ。自分の問題なんでって。
そんな中、昼休みにA君のケータイに電話がかかってきてね、すごくびっくりしているんだよ。その姿にそばにいた人も驚くほどで、「電話鳴ってますよ」と言うと「代わりに出てくれ」っていうほどで。
それで出てみたら娘さんからで、大した用件でもなかったんだよ、PTA の書類がどうのこうのって学校からの用事で。
それに対してすごい反応で、
「どうだった!なんか言ってた!?」と大声出すから、
「PTA の書類に印鑑だかサインがいるって話でしたよ」と言うと、
「あぁ、本当?それ以外のこと何か言ってない?何も言ってない?なんかおかしくなかった?娘おかしくなかった?」っていうから
(おかしいのはお前だよ)と内心思ったとか。
「いや普通ですよ」
「…そう?…あぁ、そう…」
と、そんなことがあって、今もそんな感じなんだって。
まだまだ仕事に支障は出てないんだけど、なんだったら、君からも久しぶりだなって、君からも様子を見てやってくれないかね」
「えぇ、まぁ…」
「君は入社の時から仲良かったと聞くから、彼の相談に乗ってやってみてくれ」
…いい会社ではあるな、とは思うのですけどね。

そうしたらタイミングのいいことに、昼休みに社員食堂に食べに行ったら、A君を見つけたんですね。
今までも社食で遠目に見たことは何度もあったんですが、じゃぁ今回は声をかけてみようと思いまして。
「おぉ!久しぶりだな!」と声をかけると、やはり若干顔色が悪いんです。あら?と思って
「最近どう?部署が違うから会ってなかったし、年賀状くらいしかやりとりなかったな、なんか悪いな。どう?」
Aさんふっと笑顔になって、ちょっとは元気が戻ったかなってなりまして、同期に会って安心したのかなと。
しかし、もごもごとしか返してこない。なので
「なんかあったの?大丈夫?」と水を向けます。
「仕事以外でも何かあるのなら、話を聞くくらいはできるよ!」
おカネは貸さないけどな!なんて冗談を言ったら
「ちょっと…うん…家族の件で相談したいこと…は…あるんだ…」
あ、言ってきた。
「おう!いいよ!休みの日とか!」
「…ちょっと、…家に…来てもらえるかな…」
「おうおう!行く行く!」
とすぐに話が決まりました。
土曜日行くわー住所教えてーと話が進み、
当日行ってみたらずいぶんなお金持ちっぽい家なんですね。
(うわー、あいつ頑張ったなー!貯金とか凄いのかなー)とか思いながら、
(それに比べて俺は…まぁいいや…同期の俺は中古住宅…まぁいいや)なんて思ったりして。
そんなことを思いながら門をくぐると庭で奥さんと高校生かなっていう娘さんが何か作業をしているのですね。
(草むしりかな?家の手伝いをするいい娘さんだな)なんて思っていたら目が合って
「あ、こんにちは」なんて挨拶をして。
奥さんとは知らないでもないけど娘さんは、前に見たときはとても小さかったから覚えてないだろうなと思いながら「こんにちは」なんて言って。
「お父さんなら中にいます、待ってますよ」と礼儀正しい。
玄関のチャイムを鳴らしたらA君すぐでてきて
「お、おう、ごめん、来てくれてありがとう」
(なんで家でまで焦ってるんだよこいつは)
じゃぁとあがろうとしたら
「なぁ、今、おかしいと思わないか」なんて言ってくる。
「いま?!玄関で?なに?何に対して?」
靴を指さすんですよ、履いてる姿は見たことないですが大きさとかデザインとかで、この家で娘さん以外誰が履くんだっていう靴がありまして、A君その靴を指して
「その靴がさぁ、変な臭いしない?」
変な臭い?
「お婆ちゃんのタンスのような臭いがしないか?線香臭いというか樟脳臭いというか」
まさか手に持って臭いを嗅ぐわけにもいきませんが
「何も臭わないよ」
「そうか…今はしないか…時々するんだよね、急に。用があって玄関を通るときに突然そういう臭いがするんだよ」
「あぁ…そう…今はしないけどね…」
で上がって。
居間に通されて
「庭で娘に会っただろ」
「会った会った、ちゃんと挨拶も出来る良い子だね。教育がいいのかな!」場を盛り上げてみようとしても
「あの…なんか…でも…結構距離があったから解らなかったかもしれないけど」なんて言ってくる。
「はぁ?」
「また変な臭いが…」
「タンスの臭いがするの?娘さんから」
「大人の女性が付けるような、その、昔の香水の匂いとかしない?」
「しないよ。したらお前の奥さん何か言うだろ」
「そうだよなぁ…あいつは解らないって言うんだよなぁ…」
「大丈夫?お前。神経やられてない?会社でいろいろ大事なポジションについているからプレッシャー感じてるのか?どうしたんだよ」
「まぁまぁ」と今度は二階のA君の部屋に連れて行かれました。
「いやね、娘がこないだね、夜に友達と肝試し行ってくるって言い出してね、夜の七時八時だ、どこに行くのか聞いたら向こうにある団地だっていって。
自転車で行ったら三十分くらいの、知ってる公団住宅だ、
昔は結構大勢住んでたんだけどなんかこう、殺人事件じゃないけど、猥褻事件というか、猥褻な落書きなんかが異常に書かれるようになったことがあったんだよ、それがどうも、外から来た奴が書いたんじゃなくて公団の住民が書いたっぽい内容だったらしいんだよ、他にも小動物が殺されたりして騒ぎになったんだけど、誰がやったかはみんななんとなく察しは付いたんだってさ。住民同士の情報網とか聞く耳立てての知識とかで犯人が絞り込めそうになったけど、だからか却って警察沙汰にするのもはばかられて、同情か圧力か解らないけど、気持ち悪いからみんなどんどん引っ越しちゃって、とそんなことに端を発して誰も住まなくなった団地だと。
そこに肝試しに行くと。

幽霊が出るんだって。

そう言われて、七時八時ならいいか、あんまり危ないことしちゃ駄目だよって言って許可したんだけど、
それで帰ってきた娘がもう違うんだよ」
「…え、娘が違うって、なに?」
「いやな、ああやって普通にしているけど、どうも違う気がするんだよ」
「どうも違う気がするって言われても…具体的には?彼氏でもできたんじゃないの?」
「いや、そういうことじゃないんだよ。
たとえば夜ね、隣が娘の部屋なんだけど、夜中にアッハッハッハッハって笑い声が聞こえて、すごい笑っているから「どうした?入るぞ」ってドアを開けて入ったんだよ。そうしたら娘が布団から体を起こしていて、起きてるだけなんだよ。笑ってないんだよ。
身を起こしてこっちを見ているだけで「なに?おとうさん」「いや、お前今笑ってたろ」「笑ってないよ」って、そんなことがあってな」
「それ、怖いね」
「他にも俺が夜遅く帰ってきて、二人はもう寝てるんだよ。テーブルに夜食の用意がしてあって電子レンジで温めていたら、庭で「いい気なもんだ」「なぁ、本当にいい気なもんだ」なんて声がするから何かと思って窓を開けて覗いてみたら、娘が庭に立っているんだよ、犬なんかいないよ、娘が一人で隣の家との壁に向かってぼそぼそ話しかけてるんだよ。「いい気なもんだな。本当、何も解らないなんていい気なもんだ」って。
「何してんだお前」って言ったら「あ、ごめん、なんでもない」って、そのまま居間に上がって部屋に行ってしまってな。「じゃお休み」なんて言って。
そんな感じなんだよ、やばいだろ」
「え…本当に?!全然そんな感じじゃなかったけど…」
「いやいや、まぁその…とにかくヤバいと思ってな」
「そりゃぁヤバいよ!その団地に行ってからなのか…」
「でな、そのときにな、娘の友達がケータイだかカメラだか解らないけど動画を撮ったというんだ。三分から十分くらいの短い映像をいくつか。ここは面白から後で見ようって。それを見せてもらったら、すごく怖いんだよ。悪いけど、それ、今から一緒に見てくれないか」
「すげー怖いなんて見たくないよ!」
「いや、頼むよ。まだ昼だしいいだろ」
「うわぁ…あぁ…うん…ちなみに見る前に聞くけど、どんな映像なんだよ」
「三階から四階に上るところなんだけどな、階段を。怖いねーなんて言いながら。結構明るい懐中電灯なんか持って。ただ、三階は数字の3、普通の3なのに、四階はローマ数字のⅣってなってて、そこ突っ込むだろ、普通。誰でも「なんで変わってるんだろ?」って。灯りに完全に映ってるのに、そこ突っ込まずに進んでるんだよ。おかしいだろそれ。友達も娘も突っ込まずに進んで、でそのⅣを超えたくらいで、娘の声が低くなるんだよ、露骨に。
そこまでずっと二人は喋ってるんだよ、ずっと。でもそこから男の声みたいになって、でも撮影している友達の声は変わらないんだよ。
全部がおかしくなるのなら友達の声も変わらないとおかしいだろ。娘の声だけ低くなって男の声みたいになってる。
友達は気づかずにそのまま話しているんだよ。
でその後、踊り場を超えてパッと娘を撮したら、ちょっと背が高くなってるんだよ、どう見ても。見間違いだと思って何度も見返すんだけど、ちょっと背が高くなってるんだよ。
それを見てくれ」
「いやだよ!こわいよ!そういうのって俺とかじゃなくて、解んねぇけど、広告とかみて、そういう、お寺とか、それが駄目なら四、五万とられる霊能者とか、そういうのじゃないの?!」
「まぁともかく自分一人で見ても怖いから。妻が見ても解らない、普通じゃないか何もないって言うんだよ。だからまず、俺がおかしいのかもしれないから、とにかく見てほしいんだよ」
「えぇ~…じゃぁ…まぁ…ねぇ…えぇ!見るの?!」
「見よう」
てなことになりまして、
その動画をパソコンに取り込んでいると。それでAさんは何回も繰り返して見たんだそうです。
パソコンを起動しまして「いくぞ」って名前が日付の映像ファイルを開けてクリックする、(うわぁ~)と思っていたら、
コンコンとドアをノックする音がする。
二人でびっくりしたら娘さんがおやつの用意が出来たから居間にどうぞって呼びに来たんです。行儀良いんです。
部屋に入ってきて近くに来て、ちらっとモニターを見て、普通の口調で
「お父さんまたあの映像見てるの?好きだね-」。
その口調が本当に普通で却って怖い。
「早く食べないと痛んじゃうよ」なんていうので映像は放っておいて居間に戻ります。
四人でおやつ食べるんですけど、見た感じ、やっぱり普通の娘さんなんですよ。怖いところなんて見受けられないけど、奥さんと二人で「お父さんまたあの映像を見てる」なんて言っていて怖いなと。
Aさんもムスッとした顔をしている。
食べ終えてまたAさんの部屋に戻ろうとしたら奥さんが
「あんな映像ばっかり見て、関係ない久しぶりに会った人に見せるのもどうかと思うよ」なんて言ってくるんです。
親子で言ってくるなぁと思っていると
娘さんも「止めた方がいいよ」と嵩にかかって言ってくる。
散々言われてAさんも、それでも見せるといろいろ言われるだろうから、
「じゃ悪いけど、USB メモリに入れるから、家で見てくれ」
「ひとりで?!今日俺一人なんだけど!」
「まぁ悪ぃけど」
なんて言って。
「俺もな、確かに、散々いろんな人に見せたんだけど、ちょっと解んねぇって奴も結構いるんだよね。まあ解んなかったら解んないって言ってくれたらいいから」
「あぁあぁ、まぁまぁまぁまぁ。そら素直に言うよ。あんまりね、なんにも、そういう、言っている変化が起きてなかったら、まぁ、しゃーない、ちょっと、そりゃお前の心に問題があるんじゃないかってことで、会社にもそういう心理カウンセラーがいるから、そっちに相談しような」
仕方がない、USB メモリもらって帰ったんですよ。

家に着きましてね。
怖いんですよ。
怖いから一時間くらいグダグダしましてね、奥さんが買い物に行っていて、帰ってくるのが夕方なので、待とうと。
一緒に見ようというわけではありません、誰かいないと怖いと思ったんです。
あと小さい娘さんがいまして、サークルでどっかに行っていて、帰ってくるのがやっぱり夕方くらいなんです。
待とうかな?
繰り返しますが、一緒に見るわけじゃありません、誰かいてくれたほうがいいな、こういうとき犬がいたらいいな、猫とか金魚でもいい、娘がインコ飼いたいと言ったとき買えばよかった、なんていろんなことを思っていたらブー、ブーと振動音がしまして、ケータイが揺れているんです、着信に出てみたらAさんなんですね。
「見た?」
「ごめんまだ見てない、ちょっと待ってね」
「俺も怖い」
催促してきた。
うーん、じゃぁ、怖いけど!見るか…と思いながらパソコン立ち上げましてUSB メモリから映像データを移しましてクリックしましたら。

うわぁ

確かに撮影者が階段を上がっていって三階の3が何故か四階になるとⅣになっている、そこは間違ってないんですけど、

『娘の友達がケータイだかカメラだか解らないけど動画を撮ったというんだ』

撮影者が
絶対に

Aさんなんですよ。

ずっと喋ってるんですよ、撮影してる人が。
それ、Aさんの声なんですよ。
Aさんが娘さんの名前を、仮に娘さんの名前をノリコとしますと、
「ノリコ~、ノリコ~」って言いながら階段を上っているだけなんですよ。
え…と思って。
えっ?と思って。
「なんなん?え?ちょっと、話と違うんだけど!」
ちょいちょいちょいちょいちょい
「ノリコ~、ノリコ~」と続いていて
はぁ?
へぇ?
動画を止めましてね。
ちょっとちょっとちょっと
(ちょっと、違う動画が来たのかな?)
電話しましたらAさんすぐ出て
「見た?見たか?」と即聞いてくるのですが
「いや、ごめん、…違う動画が入って…た…お前あの後で、その、実際、その、公団に行って、検証とかしたんじゃないの?」と言ったら
「お前!何!言って!ん!だ!よ!」
いきなり激怒されました。
本当にいきなり怒るんですよ。
なんでキレるんだ。
「なに!お前!わけ解んない!こと!言ってんだ!ちゃんと!見てるのか!」
いやなんで俺怒られてるんだろう。
「だから!始まって!3分45秒くらいの!ところに!もぅ!ちょっと見てくれよ!」
電話切られちゃった。
見てくれ!って切られましたが見たくないですよ。
怖いなー!嫌だなー!と思って、でも仕方がない、また再生しましたよ。
その3分45秒ってのが

『踊り場を超えてパッと娘を撮したら、ちょっと背が高くなってるんだよ。どう見ても』

(あそこが3分45秒かー!嫌だなー!)とは思うのですが、実際の映像はノリコノリコなんですよ、声が低くなったりはしないんですよ、
(なんだよこれー!)と思いながら、
03:43、03:44になって、03:45になりました、
踊り場上りきってカメラが90°回りました、

すると男の子が先行してるんです。
そこまでいなかったのに。
男の子がタッタッタッタッタって上がっていくんです。
ええー!
それまでいなかったんですよ。
そこに待機してたにしても、まぁ仕込みだったら出来ますわね、ぎりぎり。そこまで映ってないからそこにいたんでしょう、けどねぇ。
(男の子映ってたけど…)
また動画止めたんです。
(えー、全然違うの出てきた…なんだよなんだよこれー)
「ただいまー」
ぎゃー!
「なに!なに!なに!」と奥さんもびっくりですよ。
なので事情を話しまして、奥さんも話だけで怖いですよ。
「馬鹿じゃないの!なに!」まぁ真っ当な反応ですね。
一時停止中の画面を見て
「…あれ?これ、上りきったところに誰か…え?見えるよね?」
「え?なに?お前、え?気づくなよ!そんなの!」
「これ、映像をもう少し明るくできるんじゃないの?」
「いやぁ、いやぁ、いいよぉ」
明るくしてみました。
上ったところに部屋がありましてね、ドアが開いてるんです、そこから誰か半分くらい体を出してこっちを見ているんです。
髪の長い女性がこっちを見ているんです。
さっきの男の子はそこに向かっている感じがするんです。
奥さんに続きを見せるよう促され一時停止を解除しますと、やっぱりそうなんです、男の子は半身出している女性に向かって走って行って、ドアがバタンと閉まったんです。
そのドアに向かってずっと
「ノリコ~、ノリコだろぉ~、ノリコ~」
「ちょ、ちょ、ちょ、止めよう」
先見ても怖い。
「ちょっと、なになになに、おかしいよ」
「Aさん大丈夫なの?え?ノリコちゃんってその娘さんは、こういう長い髪の子なの?」
「ぜんぜんちがいます!この男の子も違うしこの女性も違うしこの二人は何?」
「ちょっとヤバいって。電話!電話したほうがいいって」
電話したら出ないんです。留守電になるんです。
自宅の固定電話の番号も知っているからそっちにかけてみたら、すぐに出たんですけど、全然知らない人の声で
「もしもし!ちょっと、今、立て込んでます!」とすぐ切られてしまったんです。
「誰だ?立て込んでます?」
仕方がない、車に乗ってAさんの家に行ったんですよ、すると人だかりが凄くて「なんだよなんだよ」と車を降りて家に近づいたら、救急車とか来てるんです。
なに?なに?なに?と思ったら、娘さんと奥さんが血だらけで運ばれていったんです。
唖然としていたら町内の人たちが集まって話しているのが聞こえましてね、
「ちょっとねー」「血は止まったからねー」
「あの、すいません、Aの友人なんですけど、さっき電話したら…」
「あぁ!さっきの電話の人!私は隣に住んでるんですけどね、Aさんとこから「お父さん!どうしたの!」なんて大声が聞こえたから、なんだと思って見てみたら、Aさんゴルフクラブで滅多打ちにしてたんですよ、二人を。なにやってんだって突き飛ばして、今二人とも運ばれていったんだけど、命には別状ないみたいで」
話は解りますが意味が解らない。
でAさんは逃げちゃったようで、警察が周辺を捜しているんだそうです。
うえぇぇぇ…
「そうなんですか…」
すると警察官もやってきて、「今日会ったのはあなただけのようなので」と事情を聞いてきます。
なんて言ったらいいんだろう?
話しました。
「精神錯乱の兆候だったのかもしれません」と締めくくりました。
警察も「はー、へー、ほー」しか言えません。
他には急に奥さんと娘さんを滅多打ちにする事情もありませんからそこにいる全員が「どういうことなんですかね?」しか言いようがありません。
警察も
「まぁとにかく、こっちでもその公団の話を調べてみますよ」と言いました。

一週間が経ちました。
会社も騒然ですよ、Aさんが奥さんと娘さんをゴルフのクラブで滅多打ちにして行方不明なんですから。
完全に犯人です。
二人の容体が良くなったというのでお見舞いに行きまして、事情を聞きました。
娘さんが言うには、電話が終わって(お父さんやけに怒ってるな)と思ったんですって。
今までは「そうか、何も映ってなかったか」で終わっていたのに、切った後「なんであいつはちゃんと見ないんだ」と言って、自分の部屋に戻っていった、
「えらいお父さん機嫌が悪いね」とお母さんに話していたらまた電話が鳴って、お父さん降りてきて電話に出たんですね、
受話器を耳に当てて
「は?え?」とか言って、
「そのことはね!何年も前に終わっているでしょう!」って切って、どこからの電話だろう?と思ったら
「もう!どいつもこいつも!」とゴルフクラブを手にしてお母さんに振り下ろして、娘さんにも
「お前は!そうやって!あれか!興味を持ってネットで調べたのか!」って意味が解らないことを言ってゴルフクラブを振り下ろしてきた。
そうしたら隣の人が助けに来てくれたというんです。
(えぇ…なにそれ…こわい…)
そうしたら警察の人も来て挨拶をして
「あの、公団の件を調べたんですけどね、Aさん、その公団出身なんですって」
「え!…そうなんですか…」
「で、あそこもうすぐ取り壊されるってことで業者が出入りしているんですけど、最近不審者が出入りしているからカメラを仕掛けてましてね、映ったは映ったんですけど誰かは解らないからと別の部署に相談が来てましてね、うちに情報が来たのがつい最近なんですけど、これ、ご主人ですよね?」
「うおぉ!」
解体が決まったときくらいからずっとAさんらしい男性が夜に出入りしてたらしいんです。
「おぉぉぉぉぉぉ」
映像見たら、カメラ持ってるAさんが映ってるんです。
「それって、まぁ、正直言いまして、昔あったっていう、その、公団で昔なんかがあって、誰もいなくなったって聞きましたけど」
と聞くと
「なんかそうなんですよ、昔の事件なんで警察でも知ってる世代と知らない世代で隔たっているんですけど、なんかその、性犯罪とか、動物が殺されたりとかしたらしいんですよね」
奥さんも娘さんもグニャァってなっちゃって
「そこはちょっと、解らないんですけどね」

今回の事件との関連性は解らない。

未だにAさんは見つからないんだそうです。

で、私がAさんの下の名前を聞いたんですよ、
そうしたら、前回の、夢の中で、見つけるのがむずかしいでしょうって言われたその名前、「サトル」だったんですね。変えて書いてますけど。
Aさん、未だにその公団にいるのかなぁって。
いや、取り壊されたんですけどね。
…いるのかなぁって思いました。

THE禍話 第11夜

TwiCast版
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/570305277

YouTube版
https://youtu.be/h9ZXHvP9EL8?si=IYsimJBdZ4nv7HY3&t=2005 32:55あたりから

YouTube単話版
https://youtu.be/Exywgyf6au0?si=6xG6zR1pBC9OGAAf 32:55あたりから

書き起こし者注
私はこの話を聞いたとき、「ぼーだー」シリーズのキーワード「聞いた?」に引っかかったんですが、かぁなっきさんはこの話を「ぼーだー」には含めていないようなんですね、話してくれた人は
「男の子は半身出している女性に向かって走って行って、ドアがバタンと閉まったんです。そのドアに向かってずっと「ノリコ~、ノリコだろぉ~、ノリコ~」」で動画を見るのを止めたようなんですが、「ぼーだー」シリーズの視聴停止とはちょっと雰囲気が違う、しかし。
私もいくつか「ぼーだー」シリーズを書いていて共通点を思うところはあるんですが、
それを書いても興ざめするだけでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?