林間学校にて:トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話
トイレには行かない方がいいんじゃないかって話なんですけどね、
この話を持って来てくれたのはA君で、中学生の時のことだそうです。
林間学校に行きましてね、B君C君D君の三人と班になりまして、施設で先生から
「お前ら、この部屋ね」と割り当てられまして、はーいと。
ほしたら施設の人が、その辺りの部屋で寝ることになった全員に、一番近いトイレを指して
「このトイレは壊れてますんで、入らないでくださいね」
と言ったんですって。
一番近いトイレで、いくつかが使えないどころじゃなくて、そのトイレの部屋自体に入らないでくださいねということで、トイレに行きたくなったら遠くのトイレに行かないといけない、面倒だなぁと思ったんですけど、壊れているんじゃ仕方がない、みんなで「はーい」と。
部屋割りが終わりまして、みんなが集会所に集められまして、偉い先生のお話があって、課外授業が始まって、晩ご飯を食べてお風呂に入って、夜のレクリエーションですよ、花火とかいろいろ。
D君が一人だけ、お風呂を出た後からお腹が痛いって言い出していましてね、ご飯食べすぎてたんですよ、みんなそれを見てましたんで
「当たり前だろ」と突っ込んで、施設の人から胃腸薬もらって、お前はさっさと寝ろ!と布団敷いて突っ込もうとしたんですけど、まぁ楽になったってんでレクリエーションには参加しまして、終わったら一人だけさっさと寝ちゃいました。
みんなもその横で、最初は声を抑えてお喋りをしていたんですけど、だんだん声が大きくなって、それでもD君起きないから、まいっか、って話をしてたんですよ、
それも終わりまして就寝の時間が近づきまして、先生が
「消灯の時間だぞ-」
と各部屋を巡り始めたんで、他の部屋から来ていた男どもや女の子達が部屋に帰りました。
それでも部屋の中ではお喋りは続くわけですよ、いろいろ話をしてたんですけど、日付も変わりまして話すこともなくなって、じゃもう寝ようかと。
ここまではよくある林間学校とか修学旅行の光景ですよね。
さてA君、夜中に、トイレに目が覚めまして。
「うー」と起き上がりまして、特に意味があるわけではありませんが
「トイレトイレ」と小さく声に出しまして、D君は奥で寝ている、B君とC君を起こさないよう確認して廊下に出て、トイレに行こうとしましたら、施設の人が壊れていると言っていたトイレのドアの磨りガラスに、電気が付いているのが見えたんですね。
(あ?)と思ってドアを開けようとしたら、開くんです。
電気が付いていて、小便器が並んでいて、個室三つのドアは閉まっていて、別に「使用禁止」の貼り紙とか封印とかされていない、サンダルも三足ばかり、きちんと並んでいる。
それを見たA君、
(故障、直したのかな?)。
小便器の一つの前に立って、ボタンを押したら水が出て、そのまま流れて、別に壊れてるようにも見えない。
(直したのか)と思っておしっこをして、手を洗って、トイレから出るとき電気を消した方がいいのかなと思ったんですが、点いていたんでこのままでいいかと部屋に戻って、布団に入って寝たんですよ。
朝になりまして、昨夜夜ふかししていたぶん眠いなぁと思いながらも起きて三人に挨拶をして布団を畳んでとしていたら、B君とC君の様子がおかしい。完全復活したD君だけがテンション高くて、アンバランスさが目立つんですよ。
トイレに行ってみると、ドアに鍵が掛かっていて入れないので、言われた遠くのトイレに行ったり。
ラジオ体操をして朝ご飯を食べて、また偉い先生が話をしてと午前中のメニューが始まったんですが、B君とC君はずっと様子がおかしい、A君と目を合わせないようにしながらも、何か言いたそうで言わない弱々しさを出している。
「なんだよぅ」と言ってもごにょごにょ言うだけで、すべきことしかしようとしない。D君だけがそんな空気を読まずマイペースで先頭に立って班としてすべきことをしてみんなを引っ張っている。
午前のメニューが終わってお昼になって、もうみんな帰るんですけど、ずっと二人はA君とちゃんと話そうとせずためらいがあるんですが、学校に戻ってから解散して家に帰るときになって、
「ちょっと、来いよ」とD君抜きにファストフード店に引っ張るのです。
B君がもとのB君に戻りまして、A君に
「なあ、お前、なんともないか?」と直球で話しかけてくるんですけど、A君は別にいつも通りで、
「なんなんだよ、何があったんだよ」と聞きますと、
B君が夜中に眠りが浅くなって半覚醒したとき、A君のトイレに行く呟きが耳に入ったんですね。
A君がドアに歩いてカチャっていう音が耳に入って、半覚醒状態ですから別に何も思わなかったんですけど、ちょっと間があって、
A君が布団から立ち上がって「トイレトイレ」と言う声が耳に入ってドアに歩いてカチャっていう音が耳に入って、またワンテンポ間が開いて、A君が布団から立ち上がって「トイレトイレ」と言う声が耳に入ってドアに歩いてカチャっていう音が耳に入って
(え?!)
と一気に目が覚めたそうなんです。
(え?!)
と思って思わず起き上がろうとした瞬間、また
A君が立ち上がって「トイレトイレ」と言う声が耳に入って、
(怖っ!)と、これは見ちゃいけないものだ!と全身に力が走って、声の主に気がつかれないように掛け布団を頭まで引っ張って、寝てるふりを始めたんですって。
幸いその怖いものに気づかれることはなかったんですが、そのぶんずっとエンドレスで
立ち上がって「トイレトイレ」ドアに歩いてカチャ
立ち上がって「トイレトイレ」ドアに歩いてカチャ
が繰り返されて、怖い怖い怖い怖いと震えが止まらなくなったんですけど、何回それが繰り返されたのか、どれくらい時間が経ったのかは全く解らないんですけど、奥からD君の
「ア゛-」
って声がした瞬間、ぴたっと止まったんですって。
でD君が起き上がる気配がして、三人の間を歩いて廊下に出て、数分して戻ってきてまた布団に入って静かになりまして、A君が動かなくなってほっ~っとしていたんですが、いつまた声と音が始まるか解らない、身を固くしていたんですが、しばらくして、もう大丈夫かな?と起き上がったら、C君も起きていて目が合って、小さな声で
「お前、見た?」
「いや、見てはいない。けど聞こえてた」
と話して、改めて寝ているA君と距離を取って、二人して固まって寝たんだそうです。
A君は何の覚えもない、トイレに行ったのは一回だけだし、確かにトイレの電気が点いていて使えて変だなぁとは思っていたけど普通に使えたしなぁ、と言いますと、
「Dに、トイレに行くとき変なことなかったか聞いたけど何も気がついてなかったようだし、トイレは遠くて面倒だなぁって言ってたぞ」
まぁ朝の時点ではB君もC君もトイレの異変は知らないわけで、D君に詳しく問い詰めることもなく、結局詳細は解らないままなんですけどね、
あのときD君が起きなかったら、三人はどうなっていたのかなぁと。
やっぱりトイレには行かない方がいいのかもしれませんね。