使ってないとき？何が？：トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話

　トイレには行かない方がいいんじゃないかって話なんですけどね、いつもとは違うことがあって、その最中に異変が起こるトイレには行かない方がいいと思うんですよ。

　話を持ってきたのはＡ子さん、会社員なんです。
　Ａ子さんの務めている会社は、小さな五階建て自社ビルの三階、四階、五階の三フロアで仕事をしていまして、一階と二階を貸しています、Ａ子さんの部署は四階にあります。
　ある日社長がやってきまして、五階を丸々リフォームすることになって、終わるまで五階の部署が三階と四階で仕事をするから、プチ引っ越しだ、みんな引っ越し作業をやってくれと言ってきまして、みんな「はーい」と。
　みんなで荷物の移動をしたんでお昼までには終わりましてね、改装工事をする業者さんが入って、音がうるさいなと思いながらも仕事に戻りまして。
　Ａ子さん、トイレに行きましてね、手を洗おうとしたら、排水口が詰まって水が流れないんです。二つある洗面台の片方です。
　総務の人に言いまして、「はーい」とすぐやってくれたんですけどね、何時間も経ってからまたトイレに行きますと、やっぱり詰まってるんです。
　しかし、さっきは全く流れなかったのに対して、今度は少しづつなんですが水が流れるんで、総務の人やることはやったのか、その後また詰まったのかと。
　もう片方の洗面台は何の不都合もないので、そっちで手を洗って、また総務の人に言いまして、「はーい」と返事がありまして、仕事に集中したんですけど、帰るとき、総務の人、またトイレの洗面台のところで作業してるのが見えたんです。配水管のＵの字の奴を外して、上から棒を突っ込んで、詰まった物を落としているんです。大変だなと横目で見ながら帰ったんですけど、家でご飯を食べているとき、そういえばＡ子さんの部署の、他の人は詰まったって言わなかったな、気がつかなかっただけかな、と軽く思って寝たんですけどね。

　翌日会社に行きますと、五階の工事は昨日のうちに終わっていたんですが、社長が今度は四階をリフォームするから全部五階と三階に移せって言い出したんですよ。
　みんな（なんだそりゃ）とは思いつつ、「はーい」と作業を始めたんですけど、
「なんだよ、明日は三階が引っ越しか？」と話してたんですけど、それはなくて、四階が閉鎖されちゃったんですよ、なんかビルの構造上致命的な欠陥があったんだとか。の割には施工会社、呼ばれて様子は見に来たんですが、とくに賠償とか法律がどうのって話はなくて、見に来て
「こりゃダメですね－」で終わったらしいんですけど。
　Ａ子さん、そのまま五階で仕事をするようになって、特に何もないんですけど、（なんか変だなぁ）ってのはありまして、
　四階のみんなが三階と五階に引っ越して、工事の人が来る前に忘れ物がないか点検をして、でトイレに行きましたらね、あの洗面台の下、Ｕ字配水管が外されて、水を貯めるところに工事道具が積まれて使えないようになってるんですよ、まぁもう一台洗面台があるんで、そっちを使えばいいわけで、見て（へぇ）とだけ思っただけなんです。
　帰るとき、会社のゴミは業務用なんで、業務用ゴミ袋に入れてゴミ置き場に置かれるんですけど、ぱんぱんに詰まった大きなゴミ袋が十ほどありまして、最初は
「リフォームで出た捨てる物は業者さんに任せるから、あれは別なのか」と思ったんですけど、にしては会社として捨てる量が多すぎないか、なんだろうあれ、と気になったんですって。
「袋に角張った物がないようで、素直に膨らんでいるままでした。ゴミ袋は口が堅く縛られているので中は見られませんでした。それで……袋をちょっと押してみたら、柔らかくて弾力はなかったんですよ。それで……」
　Ａ子さん、一瞬言いよどんだんですけど、続けまして
「私の勝手な想像ですよ、本当はどうか解りませんけど、昔友達の美容師に頼まれて、ヘアカタログのモデルをやったことがあったんですよ、そのとき美容院で捨てる髪の毛がものすごく多いのに驚いて、ゴミ袋を触ってみた感触とそっくりだったんです。まさかとは思うんですが、そういえば排水口に詰まった物って泥だと思ってたんですけど、ただの引っ越し作業でみんなの手ってそんなに汚れないですよね？リフォーム工事の影響で何か埃でも出たのかも知れませんが、結局なんだったのかなぁって」

　Ａ子さん、それ以来なんとなく、会社の水道の水は口にしないようにしているんだそうです。