禍話リライト「改装中」マルノミヤコ君提供

 トイレの話なんですけどね、それも開かずのトイレの話なんです。
 その町ではカラオケ店も数が少なくて、行く店となったらもうそこって決まっているっていう、田舎での話なんです。
 そのカラオケ店はなかなかのもので、使い勝手もいいし店員も愛想がいいし出てくる軽食も美味しいし、といいこと尽くめなんですけど、一つだけ不思議なことがありまして。
 四階に男子トイレがあるんですけれど、奥から二番目の個室が、ずっと改装中になってるんですよ。
 そんなに気にしてなかったんですけど言われてみると改装中の札が貼られていたなあと。
 ずーっと改装中、工事してるのかな?って話になりましてね、
 ずっと通ってますから、たとえば大学生が四年間そこに通ってると、店員さんとも仲良くなるじゃないですか、
 なにげにトイレの話を聞いても話を逸らされたり、普通に「あ、それはちょっと話せません」って言われたりするんですって。
 なんなんだろうなぁと気になる。
 あるとき、ある大学のサークルがそのカラオケに行って、その人たちも改装中個室のことは知ってるんですけど、歌ってる間はそのトイレのことは忘れてるんですよ、別に喫緊の話題でもありませんから。
 その中で男二人がトイレに行ったら、先輩と後輩なんですけど、先輩の方が
「あ、そういえばここ、改装中のトイレあるじゃん」
「ああ、そういえばありますよね」
って思い出してトイレに入りまして、やっぱり相変わらず改装中の札があるんですよ。
 先輩が
「そういえばこれ、俺が来る前から改装中だったんだって。五年も六年も改装中ってさあ、なんなんだろうねえ」
「ここだけ配管とか水回りの調子がおかしいんですかね、それもヘンな話ですけど」
「ヘンな話だねぇ……ちょっと覗いてみようか」
「え!覗いてみるんですか?」
「ドアノブに足をひっかけたら上手く登れそうじゃん、ちと見てみるわ」
「あぁ、はぃ」
 二人ともおしっこを終わりましてね、
 先輩がドアノブに足をかけて。
 後輩は誰か入ってこないか入り口に目を向けまして、背後で先輩が頑張ってる様子を感じます。
 その背後のもぞもぞが終わって間が空いて
「どうです?なんかあります?」
「うーん」とのんびりした声。
「うーん、特に何もないな」
といって下りる音がして、後輩も先輩の方を向きます。
「ああ、そうですか、何もなかったですか」
「うん、何もないな」
 若干、先輩棒読みだなとは感じたんですが、まぁ気にせずトイレを出まして。
 出ましたら。
 まだ部屋ではみんな歌っているんですけど、先輩が後輩の腕を掴んで外に連れてったんですよ、すごい勢いで。
「なんすか!なんすか!」
「いや、いやいやいや、何もなかったのは嘘なんだよ」
「は?なんすか、出ていきなりなんすか」
「いや、あの、ドアノブに、足ひっかけて、中覗いただろ、全然知らない爺さんが便座に腰掛けてるんだよ」
「え!」
「で、その爺さんが、首だけぐぅ~~っと向けて俺を見たんだよ」
「え、見たんすか」
「ああ、目が合ったよ、で、口がパカ~っと開いたんだよ、なんかよくわかんねぇんだけどさ、普段は総入れ歯をしてるけどそのときは外しているって感じで歯が全然なくて、ふがふがの口を開けてふわ~って俺を見るんだよ」
「え~、でも先輩、何もないって言ったじゃないですか」
「でなでなでな、うわ~っと思っていたら、俺の頭の中で、その爺さんかどうかわかんねぇんだけど、「建物の中ではダメだよ」って声がしたから、建物の中ではこれ言っちゃダメなのかと思って、お前に適当に言って着地はしたけど、着地はしたけどさ、怖すぎてさ、黙ってらんないじゃん、お前を連れ出して聞かせちゃったよ。ごめんごめん
じゃあ戻ってカラオケ続けようか!」
って言われたらしいんですけど、到底そんな気分になれないんで、
「気分悪くなったんで先に帰ります」って帰ったんだそうです。
 それからそのトイレどころじゃなくカラオケ店も使わなくなったんだそうです。

 やっぱり、ずっと改装中だったりする場所って、何かあるんでしょうね。

震!禍話 第九夜

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