怪奇現象を起こすのは大抵こういう奴:トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話

 トイレには行かない方がいいんじゃないかって話なんですけどね、部屋に住んでる人が言うことには従わないと、なんか変なことになるらしいって思うんですよ。

 話を持ってきたのはA君で、大学一年生のときの話だっていうんです。
 サークルに入っていて、発表会が近づいてきましてね、A君はパンフレット制作係りに入れられました。
 四年生の先輩の部屋で作業をやるはずだったんですけど、上の階から水漏れが起こって作業ができなくなりまして、三年生の先輩がいなくて、二年生の部屋でやらないといけなくなったんですが、みんないろいろ事情がある、うちでは無理と言い出しまして、一人の先輩、B先輩が押しつけられたんです。B先輩もものすごく抵抗したんですけど、強引な二年生がいて、無理矢理押し切られました。四年生の先輩も
「今日一日だけだから」と拝んだので、
「わかりました。わかりましたけどね、これだけは絶対に、絶対に守ってくださいね」と強く言うことがありまして、

 トイレを使ってないとき、ドアを閉めないで

って言うんです。
 みんな(へ?)と思いましたが、別にそれに不具合があるわけではないから了承しまして、みんなでコンビニに行ってお菓子とか飲み物とか買って、B先輩の部屋に行きました。
 作業自体は特に言うことはありません、四年生の先輩が指示を出して、二年生がやって、一年生はアイディアを出したりメモをとって来年作業の中心になれとパシリに徹します。
 やっていて、時間が経って、トイレに行く人もでてきます。
 A君もトイレに行きました。B先輩が言っていたようにトイレの扉が少し開けられています、入って、当然扉を閉めて用を足すのですが、手を洗うところの台がちょっと広くて、石鹸を入れる皿の隣にもう一つちょっと大きめのお皿が置かれていて(なんだろう?)と。
 トイレを出て、言われたとおり少し扉を開けてまたみんなのいるところに戻って作業に加わるのですが、しばらく経ってもう一度トイレに行くと、扉が閉まっているんですね。
(あー、誰が閉めたんだろーなー)と思いつつ、(前にトイレに行ったの、C先輩じゃなかったっけ)と記憶を辿ります。
 このC先輩、お調子者で他人がやるなということをやりたくてやりたくてうずうずする、タチの悪い性格をしていまして、たぶん
「トイレの扉を閉めたからって、何があるんだよ」って思ったんじゃないかなぁと。
 でA君が電気を点けて扉を開けると、中の雰囲気がおかしいんです。空気がじとっとしているというか、ぬめっと覆い被さってくる感じがするというか、濃厚に思えるんです。
(なんだろう?)と思いつつ用を足して、(閉めておいた方がいいのかな?)とは思うのですけどやっぱり閉めなくて、作業している部屋に戻ってB先輩に
「先輩、誰か知りませんけど、トイレのドア閉めてましたよ」といいましたら、B先輩
「えー!誰だよ!本当にもー!」と大声出して、急いでトイレに行きましてね、みんなは呆気にとられて動けなくなっているんですが、A君はまだ立っていたのでB先輩の後をついて行ったんですよ、するとB先輩、トイレの中にある、トイレットペーパーの補充を置いている棚から箱を取り出して、中から線香とマッチを取りだして、使ってなかった皿に線香を立てて、火を付けたんですよ、途端に強い香りがして、狭いトイレです、頭がくらっとして、(きっつー!)となりました。
 それでトイレの扉を少し開けるんで廊下にも香りが出てくるんですが、B先輩むすっとした顔で作業している部屋に戻ります。
 それ以上B先輩は何も言わなかったんですが、みんな(触らないでおこう)と暗黙の了解となりまして、パンフレット作りを続けました。

 結局それがなんだったのか、全く解りません。
 解りませんが、その日以降C先輩がどんどん元気をなくしていきましてね、初めのうちはみんな心配して声をかけたら
「なんかな、よく解んねぇっつーか、なんて言ったらいいのか解んなくてな」って言っていたんですが、唯一はっきりしたことが
「トイレのスリッパがな、誰もいないのに左右逆になってるんだよ」
「なにそれこわい」なんですが、それ以降C先輩も具合が悪くなってみんなも状況を聞くレベルではなく「とにかく病院に行けよ」レベルになっていくので、C先輩の部屋で何が起こっているのか、解らないんですよ。
 でC先輩病院に行って、サークルにも大学にも来なくなって、そのまま辞めて実家に帰ってしまったので、本当に解らないままなんです。
 付き合い程度にしか心配しなかったB先輩は何か知っているのかもしれませんけど、A君も聞けなくて。

「でも、どうなんですかね、もし僕があのときの変な空気を感じたことを言ったら、B先輩は何かしら教えてくれたかもしれません。けど、それを聞いたからC先輩の力になれたとも思えないんで、どっちでもいいかと思うしかないんですよね」

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