禍話リライト「遠足の時の廃墟/マネキンと夜中に踊ってはいけない話(前半)」忌魅恐NEO

 話を持ってきたのはMさん女性で、大学生の時の話なんで何十年か前のことだっていうんですけどね、
 Mさんサークルに入ってましてね、別に飲み会主体でもないちゃんとした活動をやるサークルでして、そこの先輩全員、明るくてポジティブでそんなに悪いところのない先輩だったんですが、一人の先輩が卒業するってときに留年しちゃいましてね、人生初めての挫折だったんですって。それまでのお気楽ご気楽のポジティブさも挫折を経験したことがないからの順風満帆!な流れだったんですけど、留年しちゃって決まっていた就職も駄目になって。
会社もドライで「はいさよなら」となって、先輩も人生終了だと落ち込んじゃって、もう明るさを取り戻すこともなくて。
 ここで持ちこたえて前向きになっていたら、能力はある人なんで他の会社だって探せるでしょうし、後輩達も応援できたんですけど、もう打ちのめされてしまって、きちんと講義に出て足りない単位を取ろうという意欲もなくなって、ずるずる留年して学生生活を続けることになってしまいました。
 下級生からの人望も直滑降です。先輩、サークルのレギュラーメンバーとしては引退なんですが、ちょくちょく顔を出して、どよーんとした顔でどよーんとした話をしていくので、下級生も避けるようになりました。
 バイトをやっていようなんですよ、バイトが終わって夜になって、だいたい何時頃来ることが多いので、みんなその時間が近づいたら帰ったり逃げたりと部室を避けるのですが、その日Mさんは部室でレポートを書いていて、先輩が来る時間が近づいてきたけどもうすぐ終わる、その時間に間に合うかなとやってるうちに、先輩来ちゃったんですね。
 いつも避けてますから久しぶりに会う先輩はちょっとアルコールの臭いがして、髪も髭も(ん?)と思う感じで、バイトって接客業じゃないのかな?と謎なんですけど、
 知ってる人ですから
「あ、どぅもぉ」程度の挨拶は交わすんです。
 内心は(やっべぇ…失敗した…)と苦虫噛み潰しまくりなんですが、無視するわけにもいきません。
 とりあえず、レポートは終わったんですよ、でもすぐ席を立つのもちょっとなぁ、ということでテレビを付けて、無言を紛らわせましてね。
 先輩も、みんなの話だと、部室に入ってきてすぐ話しかけてきて絡んでくる、悪い意味でポジティブなのに、その日はなんか間がある。
 いつもは下ネタとかネットで聞きかじった内輪ウケの話題を振ってくるそうで、みんな愛想笑いするハメになっているらしいけど、その日はちょっと違って、黙ってアルコールの入ったロング缶を飲んでいるんですよ。
なのでMさん
(なんだろ。まぁいぃや。時間みて帰ろ)と思いましてね、タイミングを計っていましたら、テレビの映像で小学校の教室の映像が流れました。
 今になってみたらリアルな教室だったのか、イラストに描かれた教室だったのかよく覚えていないんです、どうでもいいことですし抜け出すタイミングに集中してテレビを眺めていましたから、そうしたら
「あぁ…」と先輩が言いまして。「あぁ…そういえばさぁ…いまこれで思い出したんだけどさ」
(小学生のときの思い出話でもされんのかなウゼェな)
 嫌な先輩ということを抜きにしても、仲の良くない人の小学生のころの思い出話をされても、よほど面白くなければキツいですわな、
(だいたいこんな映像で思い出すって、なんなんだよ)
「昔さぁ…俺さぁ…中学生のときにさぁ…あの…努力遠足?みたいなことがあってさぁ…」

(努力遠足とは「バスなどの乗り物を使わずに、歩いて目的地に行く遠足のことらしい。(略)「徒歩遠足」ではなく「努力」としたのは、遠足はただの物見遊山ではないという何か教育的な理念があるのかもしれない」
「日本語、どうでしょう?-知れば楽しくなることばのお話-」神永曉(国語辞典編集者)さま、第505回「お見知り遠足」よりhttps://bit.ly/3wYgUrO より)

「そのときさぁ、学校と契約した写真屋さんがみんなの歩いてる姿とか撮影してさ、思い出だわな」
 言い方がもしゃもしゃするんで、そこのところを略して書くと、遠足があったのは土曜日です、月曜日に先輩が誰よりも早く学校に来たら、もう写真がずらっと教室の後ろに貼られていたんですって。
 たしかに、そういう学校行事があったら契約している写真屋さんが撮った写真を急いで現像してずらっと貼ることはよくあることで、番号が振られていて、欲しい人が一枚いくらで買うんですよ、それはよくあることなんですが、
 ただ、そういうのって、別にこっそり貼り出すものじゃないんですよね、土曜日に遠足があって、月曜日の朝一番に来たら貼られている、つまり日曜日のうちに貼ったんでしょうけど、急ぐ必要ないじゃないですか。
 先輩の中学生時代ということは、昭和の中頃だと思うのですよ、一日でそれだけの数を現像するのも大変でしょうし、急ぐ必要もないはずだし、みんなが集まってから貼った方が気分も盛り上がると思うんですよ、
もう貼ってあったんです。
「早いなぁ」と口に出て写真を見始めたら、行事の題名がどこにもないんですよ。「○月○日努力遠足」とかいう行事名。
 それがなく、題名だなってところには、読めない漢字が並んでいたんですって。
 読めなくて(なんだ?これ)と。
 今になってみれば遊戯の戯(たわむれる)、これが入っていたような気がするのですが、それはそれでおかしい、「戯」が入った学校行事ってお遊戯会?他に何か考えられるか?と、今考えても山に登るイベントにそんな文字が入ることもおかしいんですが、とにかく四文字だか三文字だか区切りも解らなくて、
 貼られている写真もおかしい、普通は「山に登っている生徒がカメラに V サインしているとか、登って「疲れた~」って表情とか、お昼にお弁当を食べているところとかを写すじゃないですか、
 暗い建物の中でマネキン人形の胴体だけを抱えてうろうろしている同級生が写っている、それが連写なんでしょう、少しずつ形を変えて一連の流れとして写されている、
(え?おかしいな)
 そいつしか写ってないんですよ。
(あれー?)と思って、(やだなー)って。
 というのも、先輩、その建物を見たんですって。
 努力遠足って決められたゴールまでみんな頑張ろうと、ルートが決まっていたんですね、山道を歩きますから道が右へ左へと曲がりくねっていますから、道なき道を行けばショートカット、近道ができてしまうんですよ、もちろんそこに何があるか解らなくて危険ですから先生方もショートカット禁止を言って、そんな道なき道を行かないように言うんですが、生徒の人数も当時は一学年百人とか二百人とか多いですし、全ての近道を監視することなんてできません、かったるいと思ってる生徒達はそこで近道を行くんですね、
先輩も、ゴールに着いて帰るときに、仲の良い友達数人と見当を付けた近道を通りましてね、そこに住宅が何戸かあったんですって。
 先生の言った正規ルートを通ったときは山小屋とか、ゴミ処理場みたいな建物はちらほら見かけたんですが、
「あ、人住んでんのか。見つかったら言われちゃうな」と思ったそうです。中学生なのでズルが見つかったときのことに怯える年頃なわけです。
 一方でそんな道なき道の途中に住宅があることをおかしいとは気がつかなかったんですって。
 で、通りすがりに家を見ていると、すべての家が使われてないんじゃないか?という感じで、
「あぁそうか、先生たち、壁がぼろぼろだったり窓ガラスが割れていて危ないからここを通るなって言ったのか」
 子どもだから中に入るかもしれない。
「俺たちはそんなガキみたいなことしねぇよな!」
 と言いつつ、やっぱり見れば廃墟なんですよ、一軒目、二軒目、三軒目、全部廃墟で外観はぼろだし雑草は生え放題だし、物干し台が全部錆びている。
「完全にここ、誰も住んでねぇや」
…一軒の家の勝手口が開いている。
 ギィギィと音がするので振り向いたら勝手口のドアが開く音で、風に揺られて動いているんです。
「おぉ!絶対誰も住んでねぇよ!」
 別に面白いことじゃないのに勢いでみんな大笑いです。
 流れのまま一軒の勝手口に行って
「こんにちは!」
 すると、即そいつが「わぁ!」と大声出して後ずさりをする。
人がいたのか?!と思って、そいつの驚きぶりに驚いたみんなが一斉に逃げ出した、するとその声を上げた奴が
「逃げるな逃げるな、人じゃねぇよ」
「え?」とみんな足を止めて
「なんだ、人じゃねぇのか」とまた集まって、中を見たら女性のマネキン人形があります。
 胸のことろが膨らんでいるマネキン人形が、斜めに立てかけてあるんです。
 顔は、左右どちらかは忘れたけど斜め上を見上げ、そちらの方向にその側の手を、掌を上にして腕を伸ばしている。
「びびったー!をい!」
「ぅわー!こいつ、マネキン人形にびびってやんの!」
 いやまぁ子どもってのは残酷なもので、中に入りながら
「びびってねぇし!」
「びびってたじゃん、すごい声上げてたじゃん!」
「いやびびってねぇよ!」と、そいつがマネキン人形を蹴りまして。
 絶妙な角度で立てかけられていたんでしょう、最初は普通に立っていたのが何かのはずみで倒れかけ、ちょうどその角度で壁に当たって止まっていたんでしょう、それを蹴ったんでゴンと音を立てて倒れまして、手足も外れてバラバラになった、首は胴体に付いているんですが、手足が外れた格好になってしまいました。
 さすがに全員拙いと思い、蹴った奴が戻そうとしたんですが、接合部分も割れて壊れたようでくっつかない、嵌まったと思ったら外れてしまう、
「どうしよう~」と胴体を持ってうろうろしたんですけど、みんなにもどうしようもありません、だんだん怖くなってきて
「もう止めよう」と声をかけます。
「いい、いい、放っておこう」と全員一致して、そのまま帰りました。
そのことは誰にも言わなかったのですが、
 写真がある。
 なんで?
 勝手に入って中の物を壊したんだから怒られる、だから誰にも言わないでおこうと言い合ったのに、朝一番で学校に来たらその写真が貼られている。
「えぇ!」
 あんとき撮られていたのか?
 監視カメラでもあったのか?
 しかし、よくよく写真を見ると、窓の外が夜で、フラッシュが焚かれているんです。
(え?あいつ、夜になってまた行ったのか?)
 行って行けない距離ではないから、怒られるのが嫌で行って、なんと直そうと努力をしたのか?
 そのときの右往左往を誰かに撮られたのか?
にしても写ってるこいつの顔は誰かに写されているとは思ってなさそうで、隠し撮りか?いやフラッシュを焚かれて隠し撮りはないだろう、
 なんだこれなんだこれ、気持ち悪ぃなぁ、と思いつつも、
 とにもかくにも貼られたままだとバレるじゃないですか、夜昼のおかしさはともかく、自分たちが人の家に勝手に入って物を壊したことが。
 そもそもこれ、努力遠足の写真じゃないじゃんと思って、まだ誰も来てないのをいいことに全て剥がして、廊下のゴミ箱に全部捨てたんですね、で何食わぬ顔をして自分の席に座っていたら先生が来て
「おお、早いな」と挨拶して。
 先生、
「今から写真を貼るからな!」と楽しさを全身で表しながら努力遠足の写真を貼っていきます。
「あ、はい」としか言えませんわな。
「あれ?画鋲が足りない」とかいうのを聞いて
「はい!」なんて適当に返事をして。
(やべぇ、画鋲付いたまま捨てちゃった)とか思いながら頭の中はぐるぐるして、なんとかごまかしてその場を乗り切りました。
 そのときの連中も登校してきました。
 こんな気持ち悪い思いを自分だけ抱え込みたくないので、昼休みに蹴った奴を呼びまして、
「お前さ、マネキンのことなんだけどさ、この話に触れたくもないだろうけどさ、その、戻って、直そうとなんて、したか?いや、変なこと聞いくけどさ」
「してねーよ!」
 と言うのですが、えらく動揺しているんですね。
(こいつ、行ったのかな)
 しかし
「なんでそんなこと聞くんだよ!」と言われて
 じゃあと。二人でこっそり見るぶんにはいいだろうと廊下のゴミ箱に行って、まだ掃除前なので朝からのゴミが残ってるだろうと思ったけど、他のゴミと一緒に綺麗さっぱり無くなっているんです。
 あれ?
 まだ回収する時間じゃないんです。
 昼休みが終わった後に掃除をして、当番がゴミを捨てることになっているから、あるはずなんです。
(あれ?誰が捨てたんだろ?)
 画鋲ごとないんです。
「なんかな、信じてもらえないだろうけど」と一回だけ言いましたら
「よーわからん」とだけ言われて終わってしまいました。
 説明下手てのもあったんでしょうね、
 自分が朝一番で来て、本来の遠足とは違う写真が貼られていて、読めない字の題があって、お前がマネキンの胴体を持って右往左往してと、冷静になれば言えても、気持ち悪いし慌てているし当事者だしそいつが被写体の訳の解らない写真という一連の流れが上手く説明できなかった。
 もう証明することができなくなったのでそれ以上は触れませんでした。

「それから半年だっけか?三ヶ月くらいだっけな?経ってな、なんかで用事があって学校に遅れたことがあってな、学校に着いたら大騒ぎになってるんだよ、なんだろうと廊下の窓から中を見たら、そのマネキンを蹴った奴がな、なんていうか、教室の中をぐるぐる廻っているんだけど、歩いているわけでもなくスキップしてるわけでもなく、なんかリズムに乗って変な歩き方をしてて、違うな、歩いているんじゃないな、飛び回っているっていうのかな、とにかく変な感じで動き回っていて、授業中に飛び回っているから先生も激怒してるのに止めなくて、俺も教室を見た途端ボーゼンよ。
 なんだよこのプチパニック状態って。
 先生は怒って、みんなも迷惑がってるんだけど、みんなあきらかにびびってるんだよ。実力で止めさせることができねぇの。
 よくよく見てみると、そいつ、両手を何かを支える形にしてるし。
中に入りたくねぇけどさ、遅刻の身じゃん、入らないわけにはいかねぇと思って扉を開けたんだよ。
 そしたらちょうどそいつが扉の方向に進んでいるときで、目が合ったんだよ。
 そいつ、すっげー照れてた。それが一番怖かった。
 先生も固まっちって。
 今考えると、あれ踊ってるようにも見えるんだよなぁ。
 でそれ以降は特に何事もなく、誰も何も言わず、先生も触れちゃいけないと思ったんだろうな。
 ずっと気持ち悪くてさぁ、
 あれって、マネキンを蹴飛ばしたことと関係あんのかなぁ」

 と先輩が話をMさんにしたんですよ、一対一の時。
 嫌でしょう?
 Mさんも
(なにこの話!怖えーよ!)
「は、はぁ…えぇ…」としか言えません。

 すると、いつもはずっと部室にいる先輩、
「そうかぁ…今日はお前だけかぁ…」と言って、帰っちゃったそうです。

 テレビがきっかけみたいに話始めましたけど、別の何かで話を思い出して、聞いて欲しくてきたんだろうけど、Mさんしかいなくてちょっと肩透かしだったんでしょう。

後半へ続く。

禍話インフィニティ 第三十一夜 30:50ごろから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?