禍話リライト「水の祖母」
「お前んち、異常じゃねぇのか?」って話なんですけどね、
A君が大学生になって、小学生の時の友達B君と道で会いましてね、「おぉ、久しぶりだな」って、声をかけられたんですよ、
立ち話で昔話に花が咲いて話が弾んだときに、B君が
「そういえばさ、お前んち、変だったな。お前んち、庭に井戸があるふりをしていたよな」
どういうことかというと、A君の家に行くと庭に土管が刺さっているのが見えると。本当にただ刺さっているだけで、屋根も釣瓶もない、もともとは井戸だったというものでもなく、子供が見たって土管が縦に地面に突き刺さって片端が突き出ているのが見える、それはもう土管以外の何物でもない、確実な土管だったんだそうです。
その地面から出ている部分を遠くからみれば井戸っぽいと思わなくもない、記号というか模しているというか、そんな感じなんだそうです。
ただしつこいですが、土管です。中は縦穴を埋めたものでもなく、周囲の地面の高さと同じ土で、子供が入ったら膝くらいから見えてしまうほどです。
遊びに来た友達がなんでこんな物があるんだろう?と不思議に思いA君のお父さんに聞くと、
「うちのお婆ちゃんが、毎日毎日美味しい井戸水が飲めると喜ぶんだよ」
……なに言ってんだ?ですよ。
家の人が毎日毎日朝、水道水を新鮮な井戸水だと言ってお婆さんに飲ませ、お婆さんがその水をありがたがって飲んでいるんだそうです。
お婆ちゃん、もう足腰が悪くて立ち上がれなくて、庭にも出て行けない、寝たきりに近い状態で、汲むふりをして水道水を出しても解らないわけですよ。
お婆ちゃん、「やっぱりこれを飲まないとダメだ」って美味しそうに飲む。
遊びに来た友達も、それを何度も見ていたんだそうです。
見ていて(なんなんだろう)(なんだこの家)と疑問に思うばかりで、ゲームのマリオブラザースのように土管の中に入って遊ぼうものなら、家の人が「君、お婆ちゃんが見たらどうするだ」と嫌な顔をすると。
井戸じゃないことがばれたら困るというのは解るんですが、客観的に見れば土管なんですよ、それに外側に気を遣ってないんですよ、騙すなら騙すで、もうちょっとなんか工夫すればいいのにって気もするんですよ、そういうこともしないのに、土管で遊ぶと「そういうのは止めて」と言ってくる。仕方がないです、「すいません」と謝って遊ぶのを止めます。
「そんなこともあったなぁ!」
「あれなんだったの?婆ちゃんが水を飲んだら元気だとか、バチが当たらないとか言ってたけど」
すると、A君の顔がちょっと曇りまして
「あの婆ちゃんな、オヤジの婆ちゃんでもおふくろの婆ちゃんでもねえんだよ」
「……なんの婆ちゃんなの?親族の婆ちゃんを預かったの?」
「全然知らない婆ちゃんなんだけど、オヤジもおふくろも説明してくれなかったんだよ。結局説明してくれないまま婆ちゃん死んで」
「へ?……葬式かなんかはしたんじゃないの?」
小学校を卒業したら別れてましたから、その後のことは知らないんですね。
「中学に入ってから死んだんだよ」
「うん」
「ぜんぜん知らない人が来て、車の乗せて引き取っていっちゃった。だから知らないんだよ」
「…その後土管はどうなったん?」
「土管もすぐ引き抜いてさ、壊して」
「お前んちはどうなってんだよ!」
「解んないんだよ…。解んない。変な宗教ってわけでもないし。ただな」
「うん」
「ただ、あの婆ちゃんが死んだあとにな、なんか、普段知らない親戚が来て、大宴会してったんだよ。大人達だけで。子供が入れない宴会で、聞こえてきた声でノルマがどうのとか言ってるんだよ」
「一体どうなってるんだ」
……土管…地面に突き刺さった土管…
禍話リライト「井戸っぽいもの」
https://note.com/tiltintinontun/n/n3ae638d5a48f
2019/03/14禍ちゃんねるパワプロスペシャル
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https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/531724741
1:27:28ごろから
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