禍話リライト「階段の巫女」
話を持ってきた人が山歩きをしていて酷い目に遭ったって話なんですけどね。
その人その日は遠出したんですが、何故か自転車もバスも使わず歩きたいなと思いましてね、本当になんで歩きたいと思ったのか解らず、解らないまま二十四、五の男がちょっと遠くまで歩いて行きまして。
さて帰ろうとなったとき、往き道は普通に車道を横目に歩道を歩いて行ったんですよ、大通りを。それが何故か帰りは(この山超えて帰ろう)って思ったんですって。
全然知らない山にずんずん入っていっちゃったんですよ。
で入ってったんですけど、あんまり山歩きに慣れてない人なんですよ、山って夕方になると、日が暮れるのというか暗くなるの、早いんですね、急に真っ暗になりまして、帰り道、つまりこの場合進むべき道を見失っちゃったんですって。
(あれ!これ困ったな、どうしよう)と思ってそれでも進んでいるうちに、山道の中での大通りといいますかこれがメインの道だよな?という道も解らなくなってしまいまして、獣道みたいなところに入っちゃったんですよ。
でいよいよ解らなくなって、高低差も解らなくなって、雑木林の中(困ったなー)と思いつつ、まっすぐ歩いていたら大丈夫だろうと山道素人なりに考えたんですよ、そういうときにこそ山に迷うんですけど、進んで行ったら急に加工された石が足下に見えたんですよ。よく見たら、右上から左下に降りる石段の途中入り口なんです。
それも最近作りましたという石段ではなく、昔に自然の形を利用して作った石段のようで、下にずうっと繋がっている。
(なるほどこれを通れば下に帰れる良かった良かった)と思って石段を降り始めたんですね。
そうしたら、五分経っても十分経っても下に着かない。
(こんな高い山だったっけな?)と思ってどんどん下りていくんですけど、後も先ももう真っ暗なんですよ、山の中で。獣道の先だからか、さっき普通に設置されていた灯りもなく、前後直近しか解らないんです。
ケータイの灯りを光らせてみても闇の方が深くて灯りが負けるんです。
最近の話ですよ?でもケータイの灯りが負けるんです。
(嫌だなー、怖いなー、この石段、こんな山ん中に誰が作ったんだろう?)と謎なんです。年季が入っているというかかなりボロボロの石段ですから。
(何のために作った石段なんだろう?)途中から出くわしたのでスタート地点周辺がどうなっているかも解らないんですね。
(神社かなんかでもこの山にあったのかな?)と思ったときに、十メートルくらい上ですかね、石段の上の方からザッ、ザッと変な音がするんです。
(なになになに!)と怖いんですけど、動物ではなさそうなんです、ザッザッは道具を使って何かをしているっぽい音なんです。
(えー?)と思って、怖いんですけどケータイの灯りを自分が今来た方向に照らしてみたら、多分なんですけど、巫女さんの白い服かな?ってのが見えたんですって。上に何か和服みたいのを羽織っているようで、こっちに背を向けているので顔は解らないんですけど多分女性なんじゃないかな?と、その人がボロボロの大きな竹箒を持って、ザッと一段はばいたら下りてまた一段ザッとはばいて、また下りてザッとはばいて、どんどん自分に向かって来るんですって。
(うおぉ!こええ!)と思って凄い勢いで駆け下り始めて、だんだん二段飛ばし三段飛ばしになってくる、それでも全然階段が終わらないんですって。そして後ろのザッザッもどんどん近づいてきて、ちらっと振り返ってみたら結構近くまで来ていて、真っ暗の中に右から左に箒を動かしている巫女さんだかなんだかの後頭部が見えるんですって。
ザッザッとはばいてグンと下りてザッザッとはばいてグンと下り(うわぁ!怖いぃ!)と思って、でそこでそいつが言うんですよ。
ここまで怖い話しじゃないですか、一応。
それが突然、
「「HiGH & LOW」ってドラマご存じですか?」って言うんですよ。
https://www.high-low.jp/
急に?え?と私が混乱するのですが、
「え?うん、ああ、知ってるけど、何?今までの話と関係あるの?」と聞きますと、
そいつが言うには、階段がずっと続いているわけじゃないですか、後ろから女が下りてきていて、
(うぁわ!この階段怖い!無限に続いている!)と思った瞬間、
よく解らないんですけど、よく解らないんですけど、よく解らないんですけど、
そいつドラマ「HiGH & LOW」が好きなんでしょうね、
頭の中に
「ムゲンは仲間を見捨てねぇ」
ってフレーズが出てきたんですって。
それを思った瞬間、ちょっと、そんな状況なのに、自分の連想力が馬鹿馬鹿しくて、ぷって吹いちゃったんですって。
その瞬間に
(あれ?これ、階段下りなきゃいいんじゃないか?)と思って、なんかよく解らないんですけど、直感なんですかね、その直感に従って左側の雑木林の中、藪の中にバーンと突っ込んだんですって。
突っ込んだら蹴躓いちゃって、ごろごろごろと斜面を転がっちゃって、ふと気がついたら、出たんですって。
山の下の知ってる通りに出たんですって。
(うおぉぉ!……お?うそぉ!)
後ろを振り返って藪の中を見て、
(えぇぇぇ!階段もっと続いてただろう!)と思ったんですよ、
落ちてきたところを下から覗いてみたんですけど、
(こんな早く下に着くわけないじゃん、階段の先ずっと真っ暗だったし。え?どうなってんだ?)と、その場でしばらくぽかんとしちゃったんですよ。
(えぇぇ……)と思ってたら、
藪の中からザッザッって音がしてきた。
(うおぉ!やべぇ!来た!)とそのまま走って逃げたんだそうです。
でそいつが言うんですよ、
「いや、本当にムゲンってね、ファンも見捨てないんだなあ」って。
いやそれはお前の思い方しだいだろって思いました。
ギャグで終わった感じはしますけど、そういうふうに凄い怖い状況の時に、本当にどうでもいいことを思い出してぷっと吹いちゃうと、状況が好転することってあるみたいですね。
場の空気が変わるというか。
これもしも、それを思い出さなかったら、ずーっと階段を降りるはめになって、ひょっとしたら箒ではばいている人に捕まって、今度は彼が箒ではばくハメになったのかもしれませんね。
階段…階段…延々と続く下りの階段…
禍話リライト「落下の動画」
https://note.com/tiltintinontun/n/n1c9f0d6ca3a3
2018/04/20震!禍話 十二夜
Twicast版
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/458460813
00:14:45ごろから
YouTube版 皮肉屋文庫さんとの話からで00:13:06から。
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